ダジャレ
というと中年男性が
一人だけ楽しそうに放つ一撃必殺の
殺し文句のような印象がある。
ダジャレは放った本人だけが楽しめるものなのだろうか?
否。
ダジャレの楽しみは、きっと聞く側にもあるはずだ。
ダジャレのシチュエーションに
想いを馳せることで楽しみを探してみることにした。
「ここ運送屋か?」
「うん、そうや」
シチュエーション;
東京から大阪に引っ越してきたタロウには悩みがあった。
「お前、何、気取ってんねん」
それはことばのことだった。
これからは関西で暮らすのだから
覚えようとするのだけれども、
どうもうまく話せない。
タロウの未熟な関西弁は
学校の同級生たちをイラ立たせるのが常だった。
そんな中、転校して一番最初に友達になった
ガジロウだけは、バカにすることもなく。
タロウの関西弁練習に付き合ってくれる。
「なんでやねん」
勢いもよくツッコむタロウ。
「それ、ちょっとちゃうわ。
何ちゅうか、こうイントネーションがちゃうねん」
今日も川原で二人。関西弁の練習をする。
そんなこんなで一年経ったころ。
タロウは焦りを感じていた。
まだ、関西弁をマスターできていなかったからだ。
同級生からは、
馴染むのをかたくなに拒んでいるのか、と。
親友のガジロウさえも、
あまり練習に付き合ってくれなくなっていた。
久しぶりにガジロウと帰る道すがら。
新しく出来上がった建物の横を通って。
「何ができるんか思うたら。
ここ運送屋か?」
「うん、そうや」
二人は顔を思わず見合わせた。
「タロウ。お前、今のん…」
「言えた。言えたわ!」
タロウとガジロウは強く抱き合った。
「ガジロウくんのおかげや」
その日、分岐路にくるまで
「ここ運送屋か?」
「うん、そうや」
と、二人は何度も何度も繰り返すのだった。