高校生の頃。

一年間だけ水泳部に属していたことがある。


スイミングスクールに通っていた割に

泳ぐのがとても遅かった。

「泳げる」のと「早く泳ぐ」のは違うのだなあ

とやっと知ることができた夏の終わり。


そんな僕でも一度大会?に出たことがある。

エントリーすれば

誰でも出場できる大会だったけれども

それもせっかくの経験。

僕は鼻息を荒くして大会にのぞんだ。


その大会では一緒に泳ぐ選手のスピードを

大体のところで合わせるために

前もって自己タイムを申告する制度になっていた。


僕は先輩のススメで

自己タイムより数秒遅いタイムを申告した。


「みんな、そうするから」


なるほど、そういうものなのか。


で、いよいよ僕の出番。

震える手先。

こわばる顔。

一緒に泳ぐ選手たちが

皆ものスゴく速そうに見えた。


パーン。


ピストルの合図で水の中へ。

水に入った途端、音が遮断されて

緊張もほぐれた。

同時に他のコースがはっきり見えた。


皆ものスゴく速かった。


え?ウソ?


あっと言う間に見えなくなった。


結局、僕は8人中7番目だった。

他の選手たちとは大差だったそうな。


「ビリでなくて良かったな」

という先輩のやさしいようなそうでもないような

言葉を聞きながら。

他の選手は何秒サバをよんで申告したんだろう。

と気になって仕方なかった。