「Undertale」は言わずとしれた名作インディーゲームである。「誰も殺さなくていいRPG」というキャッチフレーズが示す通り、遭遇するモンスターを殺さず和解することができるゲーム性が特徴的で、プレイヤーのその殺すか殺さざるかの選択がストーリーに影響を及ぼすマルチエンディングの作品である。

作者のトビー・フォックスはこのプレイヤーの選択、すなわち「決意(determination)」が作品のテーマなのだとインタビューで語っていた。

さて、今回の記事はその中で最悪な選択を行った時にのみ登場するある"キャラ"についてお話したい。

 

*記事の性質上重大なネタバレなので、未プレイの方はこの先読まない方が良いです。

 

 

 

 

アンダーテールの登場人物には"Chara"という非常に重要な存在がいるが、このキャラについてはやりこまないと情報をあまり多く得られない謎めいた人物である。

この"Chara"は実質は仮の名前で、ゲーム内では、ゲームを始める時にプレイヤーが「落ちた子供」につける名前である。ゲーム内で操作する主人公の名前ではない。

 

Charaについてはゲーム内では以下の様に描写される。

一番最初に落ちた人間の子供であり、モンスターの王子アズリエルの親友であった。

・毒の花を誤って盛られて苦しんでいるアズゴア王を見て笑っていた。

・アズリエルが地上に出られたのは人間Charaの魂とアズリエルの魂がアズリエルの体に同居したからである。またアズリエルが地上に出た人間界でバリア破壊するのに必要な人間の魂を6つ集めるためであった。そのためにはアズリエルが6人殺さねばならないが、この作戦を提案したのはCharaであった。

・しかもCharaは人間を憎んでおり、魂6つどころか人間を皆殺ししようとアズリエルの体を操作した。アズリエルが抵抗して動けなくなったので人間たちにひどく攻撃され、ボロボロの状態で地下に帰り、アズリエルは死んでしまった。

・GenocideルートではCharaは主人公に取り憑き、主人公が殺戮を繰り返す度に力を増しているかのように見える。蘇ったアズリエルである🌼でさえも殺し、LOVEを極限まで高めた結果、主人公に取り憑いていたCharaは完全に復活した。そしてプレイヤーの選択を無視して世界を完全に破壊する。

・世界を元に戻す条件としてプレイヤーの魂を要求する。この後True Pacifistエンドをすると、写真のNPCの顔が赤く塗りつぶされたり地上で主人公がCharaに変化するなど、エンディングに変化が起きる。

 

・・・ここまで見るとCharaは悪の権化としか思えない様な振る舞いをしている。

が、本当にCharaが悪人なのかどうか?と言うのが今回のテーマである。

 

Charaが悪人なのかどうかはまずこのアンダーテールというゲームの世界観の考察から始めたい。

 

世界観1.アンダーテールは勧善懲悪ではなく、キャラクターは善人でも悪人でもない

アンダーテールはあらゆるモンスター、特にボスクラスのモンスターと仲良くするのが一つの目的だが、どのモンスターも長所や短所がある。守るためといいつつ寂しさもあって人間をやんわり監禁していくトリエルや、友達は大切にするけど憎き人間が死のうがお構いなしのアンダイン(TPルートのチュチュが見つかった箇所での電話)、明らかにストーカー気質で目的のためなら友人を利用するアルフィーなど、何ならまじで悪い事をしているモンスターも殺さずに仲良くしなければTrue Pacifistにはなれないゲームシステムである。倒されなければいけない悪などないのである。

 

世界観2.アンダーテールはセーブやロードなどのゲームシステムが物語の一部となっている

これはまさにセーブやロードを作中最強のエネルギー「決意」とみなす点である。それによる時間の操作を認識しているキャラクターが複数いる。そしてその決意はセーブロードのみならず、セーブのスロットやデータのリセットにも適用されている。また、ゲームファイルを操作してもイベントが発生する。

 

 

世界観1からCharaに言えるのは、人類をひどく憎み、報復と虐殺を企み、アズゴアの苦しんでる様を見て笑う様な狂った人間であっても悪の権化と決めつけるのは早計であるということである。狂っているモンスターだってたくさんいるのだし、この作品のキャラクターは皆独自の価値観を持っているので何が正義かよくわからない状況である。

 

そして世界観2。ここが筆者としては重要である。アンダーテールではセーブやロードも物語の一部として組み込まれている。であれば、次の疑問に「はい」とは言えないのではないか。

 

Genocideルートの最後で本当にCharaは地下の世界を完全に破壊したのか?

 

Genocideルートを終えた後ゲームを開くと真っ黒な世界だが、ゲームのファイルは削除されていない。ということはこの真っ黒な世界は本当にゲームの世界が消滅したのではなく、ゲームが始まる代わりに別のイベントに飛ばされているということである。

そしてプレイヤーがCharaの交渉に応じるとゲームは別に何かを再インストールするわけでもなく瞬く間に復活する。

そのゲーム内容はTPルートの最後をのぞいては全く傷ひとつなく変わりない光景となる。

つまり、

 

Charaは地下世界を破壊したのではなくプレイヤーから地下世界を操作する権利を取り上げただけではないか?

 

何のために?

 

Charaは世界を「破壊」する前にプレイヤーの選択を叱責している。例えば魂の交渉時にも「おまえが決めた選択なのに?」と言ったりしている。これは奇妙である。Charaは勝手に操作してGenocideルートを応援している様に思える描写があるのに、皆殺しすることを完全に同意してないのだ。

むしろ私はこう思った。Charaは一時的にゲームをプレイヤーから離す事で地下世界を守ったのではないか?と。

そしてゲームを取り返す条件としてプレイヤーに魂を要求するのは、要するにプレイヤーの好きにさせないためなのではないか?

Genocideルートを二回以上連続して行うと、Chara自身がプレイヤーの精神性にドン引きして「別のルートを試してみては?」と提案さえする。

つまり、Charaはそれほどモンスターの味方でもないし残虐な性質を持つ人間だが、それでもGenocideを選択するプレイヤーの異常性を認識しているということである。

 

サンズがうんざりするほど難しい攻撃を放つのはプレイヤーにやる気を無くして世界を守るためだと言われている。

CharaもTPルートの最後を改変することで同じ試みをしているのではないか?

 

そして死に際に「俺は警告したからな」というサンズは実は最後まで主人公の味方だったのかもしれない・・・。