(前回からの続き)


1.社会的気運面のサポート(上記「基本」要件「精神的に安定した状態」の保証に該当)

 過酷な乳児の育児にあたる母親を支えようという社会的機運を醸成する。この社会的気運面のサポートが無いと、母親は、いくら給付金をもらえても自分が置かれる過酷さが変わることはないと分かっているため出産意欲は変わらない。なお、東京大学大学院の山口慎太郎氏も「現金給付よりも、子育てをする女性の負担を減らすことの方が効果的であることが最新の研究で分かっている」との旨を指摘している。(下記記事参照)…


 その社会的機運醸成の手順は、例えば以下の通り。

(1)今の少子化の始まりが戦後高度経済成長期のワンオペ育児による“精神不安定育児”であったことを周知することで、母親を精神的にフォローすることの必要性を内発的に理解してもらう。このことが理解されていないと、経済面のサポートによって一時的に出生数が増えたとしても、また一定の割合で「回避型」愛着スタイルの人間が現れるため、元の木阿弥に終わる。

(2)ワンオペ育児の過酷さを実体験(例〜下記記事参照)…


を紹介することによって周知する。(「少子化を改善するため」という“目論見”だけでワンオペ育児を減らそうと考えていると、女性からの真の支持は得られないため)

(3)高度経済成長期以降、長年私達が、母親だけに(2)のような生活を強いてきたことを反省し、今後は日本中で母親を支えようという宣言を総理大臣が行う。(気運を決定的なものにするためには、総理大臣が号令をかけるのが一番効果的)

 歴代総理が誰も発言してこなかったこの歴史的な宣言で、これまでの日本社会の機運は一変すると思う。正に、岸田総理の「これまで関与が薄いと指摘されてきた企業、あるいは男性、さらには企業社会、高齢者、独身も含めて、社会全体の意識を変えることが重要であり、子ども子育てを応援するような次元の異なる少子化対策、これを実現したい」という発言と一致するものと考える。なお、その「社会全体の意識」の中には、公共施設内での乳児のぐずりやベビーカーの使用等に対する理解や思いやりも含まれるものとする。

 仮に、勤め先の事情から、父親が十分な育休を得ることが出来なくても、その社会的気運があれば、帰宅後に「こんなに散らかして今日一日何やってたの?」等とは決して言えなくなり、自ずと「今日も大変だったね」「何かできることない?」等の言葉が出てくるはず。そうなれば母親の気持ちはだいぶ違うはずであり、そういう夫婦関係を見ている未婚、未出産の女性の受け止め方も「ああいう風に大切にされるなら私も産みたいな」等と大分変わると思う。

 因みに、父親の家事・育児負担率が高い国ほど出生率が高いというデータがあるそうだが、父親の育児の仕方にダメ出しをする母親がストレスを溜めるという非効率な面も多い(教育心理学者榎本博明著「イクメンの罠」より)中にあってのこの事実は、「母親だけに任せない」というその国の文化が「それなら産んでもいい」という母親の意識に繋がっている表れと考える。

 なお、母親の精神的な不安を軽減するのは乳児期だけではない。仮に、下記「助言面のサポート」の一環として拙事業案の育児情報共有プレゼンが実施されれば、3歳以後は遊びや躾によって社会的自立を促す父親の出番であるということが妊婦家族に伝えられることによって「子育ては躾を含めて母親の役目」という誤解も払拭することができる。(この父親本来の役目については、全体の宣言の中でも公に周知する)

 一方、仕事を持つ母親の育休については、上記の総理による宣言の際に、愛着の専門家(精神科医の岡田尊司氏等)が1歳までの育児の重要性を解説することで“内発的”に理解が図られたり、下記の「経済面のサポート」で1歳までの生活費が支給されることが制度化されたりすることによって、勤め先での理解も得られやすくなると考える。

 また、「気運」という心理面でのサポートだけでなく、特に夫が育休を取れず孤立しがちな母親のためにも、地域の高齢者による支援を活用した一時預かり施設も常設する。「大変になっても助けてくれる場所がある」という“見通し”が子育ての安心感につながると考える。因みに、山口慎太郎氏も女性の負担を減らすための方策として、共働き・専業主婦に限らず保育所機能を充実することの必要性を挙げている(先述記事より)。

(次回へ続く)