今回から親御さんに視聴していただくプレゼンテーションの中身の骨子について紹介します。

 文中の(◯)数字は、その部分の内容が、文献による根拠に基づいていることを示しています。文献の詳細については、本資料の巻末でお知らせします。


3. 啓蒙プレゼンテーションの詳細

≪第1章≫愛着の意義とその形成に必要な育児環境

・ここでの内容は、特に子供が愛着形成の臨界期の終わりにあたる1歳半を迎えるまでの間大切になるものと考える。

・特に乳児期(ここでは0歳から1歳半までの時期とする)に養育者から愛され安定した愛着を獲得できた子供は、その後の人生を、周囲の人間を信頼できる「基本的信頼感」や、物事をポジティブに捉えることができる「基本的安心感」に支えられて生活することができるために、余計な不安感やストレスに悩まされることが少なくなる。(14)(15)(16)(17)

・乳幼児期に形成された愛着は「第二の遺伝子」とも呼ばれ、本来の遺伝子にも劣らないほど一生に渡って様々な資質(人間関係能力、自立心、ストレス耐性面、感受性、知能面、非行や犯罪面、結婚や子供を持つことへの意欲、精神的・身体的健康面、ゲーム・ギャンブル・アルコール等への依存性)の育成に影響を及ぼす。(18)(19)(20)(21)

・昨今、国は少子化問題改善のために、経済支援対策ばかりに躍起になっているが、精神科医の岡田尊司氏はこの問題について、「出生率の低下は既に70年代から始まっており、日本経済が極めて元気だったバブル経済の頃でさえも下がり続けていたことから、経済雇用環境の問題よりも結婚生活や子育てに希望や新鮮な興味を持てないということの方が大きい」として結婚や出産意欲に影響を与える愛着の脆弱化に警鐘を鳴らしている。 (22)また、大学生を対象にしたある調査によると、「回避型」の愛着不全タイプの人は、将来子供を持つことにさほど興味がなく、子供の世話をすることからあまり満足が得られないと答えている。(23) 加えて、先に述べたように乳幼児期に形成される愛着によって知能、人間関係能力、自立性、ストレス耐性等も向上することから、自ずと十分な学歴を獲得することができるだろう。更に、安定した人格を身に付けることから離婚に至らず、経済的に困窮しがちな一人親家庭になるリスクも低いため、国が心配している経済力も蓄えることができると考えられる。

・赤ん坊は自分に不利益な状況が生じると母親に助けてほしくて泣きわめくが、いくら泣いても母親が現れないと、赤ん坊はそれ以上エネルギーを使い続けることに対して命の危険を察知し、自らの手で母親に対する愛着を心から消し去る「脱愛着」の段階に至る。(24)すると、母親はもちろん社会全体をも信頼できなくなり(25)人間関係能力等が損なわれる。そうなれば例えば成人後には「結婚したとしてもパートナーも自分を愛してはくれないだろう」等と考えるようにもなることが考えられる。なお、聖マリアンナ医科大学教授の堀内勁氏も、始めは盛んに泣いてメッセージを送っていた赤ちゃんが、いくら泣いてもお母さんが来てくれなかった結果、何か困った事があっても泣くことを諦めてしまう「サイレント・ベイビー」として同様の警鐘を鳴らしている。(26)

・ワンオペ育児や「泣く子は育つ」「抱き癖がつくから子供は泣かせたままにした方がいい」等、今でも見られる誤った考え方(27)(28)は、子供を上記の「脱愛着」の事態に至らせてしまう可能性が高まると考える。しかしその一方で、「乳児が泣いたりぐずったりした時こそ、授乳やおむつ替え等の世話をきちんとすることによって子供に“守られている安心感”を育むことができる」との指摘もある。(29)つまり、乳児が泣く時は親子ともに追い詰められる“ピンチ”であると同時に、「この人は自分の不利益を取り除いてくれる信頼できる人」 という母親への信頼感を子供に育む“チャンス”でもある。

・愛着を形成する上で最も相応しい時期(臨界期)は概ね生後1歳半までとされていて、そのチャンスを逃すと子供との愛着を形成し難くなる(30)が、そのことが知られていないために、愛着を形成する前に子供を保育所に預ける“0歳児保育”等、様々な誤解が散見される。しかし、複数の専門家が「0歳児保育、特に四か月保育は大切な母子一体感を損なう可能性が大であり、危険なかけと言わざるを得ない」(31)「鬱障害などの心の病気の原因は、『母子一体化』が妨げられる0歳児保育にある」(32)とそれぞれ警鐘を鳴らしている。

・愛着の形成で重要なことは、仮に1歳半までの愛着形成が上手くいかなくても、その後で子供への接し方を適切なものに変えることによって安定した愛着に修復することができるという後天性の性質の強さである。(33)特に幼児期のうちなら比較的リスクが少なく愛着を修復することができる。(33)(34)

・以上のことから、1歳半までは子供が発しているSOSに対しては全て応えてあげる“完全保護”の意識を持つことが必要である。(35)これは、後述する子供を受容する母性だけを働きかけ、子供に社会的自立を促す父性を働きかけないという使い分け方と捉えることができる。


 次回「第2章》子供の二大愛着不全症状とその原因となる子育て」へ続く。