今回は自閉症スペクトラム障害の子供を持つ母親の最後の悩みについてです。


⑤親「自閉症の我が子にどのように接したらいい?」について

 結論から言うと、子供に安心感を与えたうえで、自閉症本来の症状に配慮した支援を行うことが大切です。

 自閉症の子供に安心感を与えると子供の二次的な問題症状は激減します。後は自閉症本来の症状だけが残るので、それに配慮すればいいことになります。

 例えば、全スライドで紹介した「安心7支援」によって安心感を与えたうえで、出来る限り「文化の異なる外国人」に対するのと同じような配慮の下、視覚情報を活用した事前予告をするが有効だと思います。

 この「文化の異なる外国人」に関わって、精神科医の青木省三氏は自身の著書「ぼくらの中の発達障害」(ちくまぷりまー新書)の中で次のように述べています。

「発達障害を持つ人は、『自分とは異なった思考・行動・生活の様式を持っている人』と考えると、その異なった文化に敬意を払い、対等な一つの文化として理解しようとする姿勢が生まれてくる。例えば、西洋文化と日本文化というと、物の見方・考え方、振舞い方がずいぶん異なるが、どちらがいいということではない」

 例えば一般の自分達を日本人、発達障害を持つ人達を西洋人と考えると、「なぜ私達と同じように納豆を食べることができないのか?」という疑問を抱くこともないはずです。そのうえで、もしも西洋人である彼らにぜひ納豆という日本文化を伝えたいと思うのであれば、事前に彼らが理解しやすいように外国語文やマーク等を活用して日本文化の素晴らしさや食べ方を伝えるのと同じように、環境の突然の変化に弱い発達障害の子供に不安感を与えないようにするためには文字や絵などの視覚情報を活用して事前に知らせることが大切です。それでも、どうしても納豆が食べれないという西洋人がいれば決して無理強いをしてはいけない、つまり発達障害のためにどうしてもできないという先天的な特性は尊重しなければならないというわけです。


 因みに、以前の投稿で、自閉症スペクトラム障害の人のライフスタイルをイメージ化した以下のスライドを紹介しました。(文字が小さくて見えない場合はダブルタップ後に拡大)


 この中で、自閉症の人がいるシールド内が彼らの生活する文化圏で、その外が一般の人の生活圏と考えることもできます。

 私達の中にも、わざわざ言葉の分からない外国へ行かず自国で平和に過ごしたいと思う、いわゆる“インドア派”の人がいるのと同じように、人一倍不安感を感じやすい自閉症の人ならなおさら、普段はシールドの中に安全に閉じこもっていたいと考えます。それが自閉症スペクトラム障害の特徴の一つ目の“社会的な自閉性”です。

 また、私達が外国人と交流を図ろうとすると上手くコミュニケーションできないのと同じように、自閉症の人もシールドの外の人達と交流しようとすると自分だけ空気が読めなかったり冗談をまじめに受け止めて怒ってしまったりしてしまいます。それが自閉症の特徴の2つ目の“社会的なコミュニケーションの偏り”です。

 更に、西洋食がどうしても自分の舌に合わないようであれば、日本食を食べて安心しようとするのと同じように、自閉症の人も自分なりのやり方に頑なにこだわって安心感を得ようとします。それが、自閉症の特徴の3つ目の“社会的なこだわり”です。


 なお、先に述べた「自閉症本来の症状に配慮する方法」を紹介した関連スライドは以下の通りです。(文字が小さくて見えない場合はダブルタップ後に拡大)




 次回からは、岩手県立大学で将来学校の養護教諭(保健室の先生)を目指している学生さん対象に行った全体講義「周囲から受け入れられにくい子ども達と心を繋ぐ支援の在り方」(90分間)の概要を紹介します。