④親「自分の手には負えないので、外部機関で厳しく指導してもらいたい」という悩みについて
結論から言うと、過敏性が特に強い自閉症の不適応行動を“厳しさ”で直そうとすると、強い外部刺激に敏感に反応して問題はさらに深刻化してしまいます。
外部機関による指導よりも、親から日常的に与えられる安心感の方がずっと重要です。
例えば、ある障害児福祉施設は県内外から重度の知的障害や自閉スペクトラム障害がある人を積極的に受け入れ、激しい自傷・他害や物を壊すなど「強度行動障害」のある人の生活改善を実現するとPRしていましたが、結果的に自閉症スペクトラム障害の14歳の中学生の手足を結束バンドなどで拘束し、頭に袋をかぶせ殴って脅し、施設で監禁していたそうです。正に力で従わせようとして失敗した典型例です。
また、ある時まで母親の「困った子だ」という表情に敏感に反応して、母親に暴力をふるっていた小学5年生の自閉症スペクトラム障害の男の子(前々回で紹介した子供)の親御さんは、「一般の集団行動に適応させたい」としてスイミング教室に通わせていました。しかし、結果的には他の子供達とのトラブルが起きて上手くいきませんでした。
そこで、私は当時本で紹介されていた自閉症の子供を安心させる、ある5つの指導法「見つめる」「微笑む」「話しかける」「褒める」「さわる」(現在の「安心7支援」の前身ともいえるもの)を紹介したところ、「私にもできそうなものからやってみます」と仰って「微笑む」を実践されたそうです。するとその僅か3日後、いつものように学校にお迎えにいらしたお母さんと、そのお母さんに駆け寄る男の子の様子を見て驚きました。お母さんからは「困った子」という表情は一切なくなり、男の子もすっかり「お母さん大好きっ子」になっていたのです。
自閉症のような過敏性を持つ人は安心感を求める気持ちが人の何倍も強いので、不安感に対しては過度に拒絶する一方で、安心感に対しては逆にそれを積極的に取り込もうとするのだと思います。
ここでの関連スライドは以下の通りです。
個人的には、先のお母さんのように、先ず「微笑む」ことをお勧めします。なぜなら、微笑むことは、「安心7支援」の中で最も日常的に無理無くできる支援だからです。
更に、もう一つ可能であれば、「話を否定せずに聞く」もぜひお勧めします。子供の話を聞いて共感することは、問題を抱えた子供に接する際の基本中の基本となるもので、先の「微笑む」支援も、そのことによって親の雰囲気が穏やかになり子供が話しかけやすくなる、そういう環境を作るための布石と言っていいほどです。
普段は壁に穴を開けるほど暴力をふるっている男の子も、お母さんに抱っこ(スキンシップ)されている間はこのように穏やかな表情で過ごしているのです。
(スライド下部「まとめ」)「安心7支援」の支援はどの支援を選んで実践してもそれぞれ親から何らかの“肯定的”なメッセージを伝えることになります。そのことによって子供が何か出来たら可愛がるという「条件付きの愛情」とは反対の「無条件の愛情」を伝え子供の「ありのままの存在」を認める事ができます。親からそのように接してもらった子供は「自分は親から良い子だと思われている」と実感し自己肯定感を身に付けることができます。非行や犯罪に手を染める人は「どうせ自分なんか…」という自暴自棄な感情に襲われがちですが、自己肯定感を持っていればきっと自分を踏みとどまらせる事ができるに違いありません。