【今回の記事】
児童精神科医の佐々木正美先生の著書「この子はこの子のままでいいと思える本」(主婦の友社)より
【記事の概要】
佐々木先生はこの著書の中で、次のようなお母さん方からの相談に対して、それぞれアドバイスを送っています。 
①「子供を叱り過ぎてしまう
②「親子で毎日喧嘩してしまう
③「子供が自分が思い通りにならないと大泣きする
④「子供が度々原因不明の体調不良を訴える                      (相談①に対して)例えば、子供がいきなりお母さんに物を投げつけたとします。投げつけられたお母さんは「危ないでしょ」「物を投げてはいけません」「『ごめんなさい』は?」等と言いたくなりますね。でも子供が怒って泣きわめくなら、いったん立ち止まって考えてほしいのです。「この子は私に何かして欲しいことがあるのだ」「分かってほしいことがあるのだ」と。何か希望がかなえられないから、その欲求不満を物に置き換えて投げつけているのです。それだけお母さんを求め、愛を返してほしいと思っているのです。この時に親がすべきことは、叱ることでも「なぜいけないか」を理詰めで伝えることでもありません。甘えさせることです。抱っこして「大丈夫だよ」と言ってあげることなのです。        (相談②に対して)「子供が叱られるような行動をやめてくれたら、私も叱らずに済むのに」と考えがちですが、変わるのは親の方が先です。親が子供を叱らなくなれば、そのうちに子供は叱られる行動を減らし始めます。叱られている間は、子供の自尊心は深く傷つき、屈辱感のようなものだけが残っているので、子供は叱られる行動を決してやめません。               (相談③に対して)例えば、お子さんが「お腹がすいた」と言うようなら、小さなお菓子をひとかけらそっと口に入れてあげてはどうでしょう。お母さんが笑顔で「少しの間、これで我慢しようね。そう我慢できるの?偉い子だね」と言うと心が満たされて空腹も紛れ、大泣きすることも無くなるでしょう。                (相談④に対して)このお母さんは「子供が幼かった時期に私が入退院を繰り返した」とのことです。もしも愛着関係がうまくいっていないのではないかと思い当たるならそれを作り直す努力をなさってみてください。ぜひやってほしいのは、子供の話を聞いてあげることです。イライラせず、怒らず、穏やかに、うなずいて聞いてください。体調不良から激しく泣くときは、抱きしめてあげるといいです。「大好きだよ、大事だよ」と言い、「だから我慢してね」とは言わないのです。
 
【感想】
 児童精神医学界の権威であったと同時に、私が心から尊敬している故佐々木正美先生の非常に重みのある言葉です。お母さん方は、このような子育てに関するアドバイスを本やメディアなどから様々耳にしていると思います。
 その際、私が危惧しているのは、それぞれをバラバラで聞いても、それらを収めておく整理棚”のようなものが無ければ、自分の記憶にとどめておいたり、過去に聞いた情報を今現在の子育て場面に応じて引き出したりすることは難しいのではないか?ということです。
 
 私は以前にこのブログの中で「まとめプレゼンテーション」として、「子供に健全な一生を贈るための父母両性の働きを活かした子育ての基本」というテーマで、子育てについての私の考えを紹介させていただきました。下記はその中で“まとめ”として位置づけたスライド(「まとめプレゼンテーション14」

の2枚目のスライド参照) ですが、これが私が考えた“子育て情報の整理棚です。


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  なお、このスライドでは記述していませんが、「母性」と「父性」の働きについて、これ以前のスライドで次のように定義しています

◯「母性」〜「安心7支援」


によって問題を抱える子供の気持ちを受容して安心感を与える働き
◯「父性」〜「見守り4支援」


によって子供に任せて試行錯誤させたり適宜指導したりして社会的自立を促す働き

 因みに「母性」や「父性」とは、あくまで母親と父親それぞれに特徴的に見られる“気持ち”のことで、そのまま「母親」と「父親」を意味するものではなく、父母どちらかが両性を使い分ける場合が多いです。つまり、たとえ一人親家庭であっても、場面に応じて両性を使い分ける必要があります。

さて、私は今回の佐々木先生の指摘のポイントは次の2点だと捉えました。
  1. A.子供がいきなりお母さんに物を投げつけたり、大泣きして自己主張したり、体調不良を訴えたりする等の問題行動に遭遇した時の接し方はどうあればいいか?
  2. B.子供が叱られる行動を減らしたり、親子間の愛着を修復したりするための日常生活時の接し方はどうあればいいか?
 
この2点のことを上記の“整理棚”に当てはめると、「A」は上記スライド中の、子供に問題症状が見られる「②不安場面」でのこと。「B」は普段家族がくつろぐ「③日常場面」でのことだと考えます。

まず、親に物を投げつける、大泣きして自己主張する、体調不良を訴える等の問題症状が見られる「②不安場面」での接し方についてですが、佐々木先生は(“物を投げつける”に対しては)「この時に親がすべきことは、叱ることでも『なぜいけないか』を理詰めで伝えることでもなく甘えさせること。抱っこして『大丈夫だよ』と言ってあげること」(“大泣きして自己主張する”に対しては笑顔でお菓子をあげて、我慢できるようなら『えらい子だね』と褒めてあげる」、(“体調不良を訴える”に対しては)「『大好きだよ、大事だよ』と言いながら抱きしめてあげると助言しています。これは、上記スライドの「②不安場面」での子供に問題症状が見られた時は、先ずは子供の気持ちを「安心7支援」(スキンシップ、話を聞いて共感、微笑み、褒める等)で受容し安心感を与える『母性』を施す」ということに相当すると考えられます。一方、佐々木先生が「『危ないでしょ』『物を投げてはいけません』『「ごめんなさい」は?』等と言いたくなりますね」と注意を促しているように、スライド内でも赤色の爆発吹き出し内で、「(子供の)問題⇒直ぐ注意」という誤解が多いことを指摘しています。「お腹がすいた」と言う子供に対しても「ご飯まであと少しだから我慢しなさい」と注意してしまいがちではないでしょうか?
 
 次に、子供が叱られる行動を減らしたり、愛着を修復したりすることができるようになるための「③日常場面」での接し方についてですが、これについて佐々木先生は(叱られる行動を減らすに対しては)「子供の自尊心を傷付けず、屈辱感を与えない接し方をすれば子どもの問題行動は減る」、(愛着を修復するに対しては)「ぜひやってほしいのは、子供の話を聞いてあげること。イライラせず、怒らず、穏やかに、うなずいて聞いてあげると指摘しています。つまり「子供を否定する接し方ではなく、肯定受容をする接し方が必要」ということだと思います。これは、上記スライドで言うところの「③日常場面」での「普段くつろぐ場面では、子供を肯定的に捉える『安心7支援』全般によって安心感を与える母性の働きを施す」ということに相当すると考えます。なお、スライド内では「普段は何もしなくていい」という誤解が多いことを指摘していますが、本プレゼン内では、日常生活でのこの支援が不足しているために不登校や自殺に陥る子供達がいると推測される、ある調査結果を紹介しています

 さて、私が提案する“整理棚”には、この「②不安場面」と「③日常場面」の他にもう一つ、子供が物事に熱中している「①活動場面」という引き出しがあり、全部で3つの場面があります。

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 この中で、子供に問題がある「②不安場面」にいる時だけまず「母性」を施した後に、次の2パターンに分かれます
◯問題がそれほど深刻ではない(約束の時間になってもテレビを見ている等)場合には更に「父性」による指導も加える「②ーA」パターン
◯問題が深刻である(登園・登校を渋る等)場合には「父性」は加えず「母性」によって子供が自力で回復するのを待つ「②ーB」パターン

 先の「お腹がすいた」と泣く子供に笑顔でお菓子をあげた後に「少しの間、これで我慢しようね」指導しているのは、深刻ではない「②ーA」ケースでの母性の後に施す父性の働きに当たります。お腹がすいた子供の気持ちにちょっとだけ共感するだけで子供の行動が改まるのは、問題が深刻ではない一時的なものだからです。
 一方で先の、体調不良から大泣きする子供を抱きしめた後に「だから我慢してね」という指導をしないのは、問題が深刻である「②ーB」のケースだからです。子供が幼い頃に母親が入退院を繰り返していたことから愛情不足になっていたという深刻な事態なのです。

このように、煩雑な子育てを「3つの場面」と「2つの支援」の枠組みだけで整理しようというのが私の考えです。
その中には例えば、多くの親御さんにとって“鬼門”とも言える「イヤイヤ期」の指導さえも、上記の「②ーA」パターンとして含まれている(「まとめプレゼンテーション12」

の3枚目のスライド参照)ので、親御さん自身の精神的な負担が緩和し、子育てに対する安心感にも繋がると思います。

以上をまとめると…                                ◯「(子供の)問題⇒直ぐ注意」という誤解を解消して子供に問題が見られた時にはまず母性を意識すれば子供は行動を素直に改めます   ◯普段は何もしなくていい」という誤解を解消して日常場面では『安心7支援』で母性」(特に「③微笑む」と「④子供の話を否定せずに聞く」がお勧め)を意識すれば子供は怒られる事をしなくなります。 
つまり、この2つの支援によって、「子供が言うことを聞かない」「子供が反発する」等の今の子育てで表立ってみられる問題のほとんどが改善すると私は考えています。
例えば約束の時間を過ぎてもテレビを見ているような子供に対しても、まずは母性を施してから指導する方が子供の行動は改まりやすいですし、多忙のために指導前に母性を施す余裕が無い場合にも、そのための“代替法”「まとめプレゼンテーション12」

の2枚目のスライド参照)があります。

大変長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。