(文字が小さくて見えない場合はダブルタップ後に拡大)


・これまでお話ししてきた全体のまとめです。
≪第1章≫乳幼児期の養育が子供の一生の人格形成に影響を与える愛着を形成し、不適切な育児環境によって世話をした場合には、様々な社会問題の要因にもなる愛着不全症状を生むこともあること。最も重要な時期は1歳半までであり、愛着を修復する場合でも幼児期までが望ましいこと。
≪第2章≫子供の愛着不全症状は、親の愛情が不足した場合の「回避型」愛着不全と、親の愛情が強過ぎて不安定であった場合の「不安型」愛着不全であること。
≪第3章≫第2章で紹介した2種類の愛着不全に陥らないようにするために、それぞれに必要な父母両性の支援方法を具体的に決めたこと。具体的には母性が「安心7支援」、父性が「見守り4支援」であること。
≪第4章≫子育ての仕方について「いつ(3場面のうちどれか)、何をすればいいか(父母両性各支援のどちらか)」を明らかしたこと。

・これらを実践する際のポイントは次の二つです。
今の自分にもできそう」と思ったことから始めてみる。
これは効果がありそう」と直感したことから始めてみる。
 なぜでしょうか。今回のプレゼンでは、ある自閉症の男の子が母親の微笑む」という行為に敏感に反応して母親に対する態度を激変させた事例や、ゲームが大好きな男の子が子供の話を否定せずに聞く」ことを意識した母親に反応して態度が一変したという事例を紹介しました。そのように、子供たちは皆、親から愛されたいと思っているので、「安心7支援」(「まとめプレゼンテーション5」参照)のうちたとえどれか一つでも子供に対する親の接し方が変われば、子供はそれを絶対に見逃しません。つまり、親が上記の「微笑む」「否定せずに聞く」のような何らかの支援アクションを起こすためには、上記の母親たちのように「今の自分にもできそう」「これは効果がありそう」とやる気が起きたことから始めてみるのが良いということです。
・精神科医の岡田尊司さんも、「親の育て方に子供の要因がある場合ほど、親が正しい接し方を学ぶことができれば、子供の問題は劇的に改善することが期待される」と指摘しています。

(ここからはオプション)

(文字が小さくて見えない場合はダブルタップ後に拡大)


・愛着不全以外にも安心感が不足した子供達がいます。それは感覚がとても敏感な子供達。例えば、次のような特徴のどれかが顕著な子供です。
五感刺激(聴、臭、味、触、視)のどれかに過敏、親に懐かない、マイペース、表情や話し方にあまり抑揚がなく変化に乏しい、言葉が上手く出てこない、こだわりが強い、生活習慣が変わることに強く抵抗する、手のかからない良い子(要注意!)、大人びた考え方をする、精神的に疲れやすい等。
・青色部分の特徴は、「自閉症スペクトラム障害ASDAutistic Spectrum Disorder)」と呼ばれ、知的障害との合併の有無に関わらず、およそ100人に3人程度、更にそのグレーゾーンまで広げると約10人に1人程度いると考えられています。
・緑色部分の特徴は、「人一倍敏感な子供HSCHighly Sensitive Child)」と呼ばれ、およそ5人に1人いるとされています。
・「五感刺激に過敏」は両者共通です。
・どちらも感覚過敏の特徴がありますが、ASDが「障害」である一方、HSCは単なる「気質」とされています。ただし何れも先天性の特性で何歳になっても変わることはありません。つまり、私達大人の中にも、同様のタイプの人がいるということになります。更にその特徴は、その方の子供に遺伝する場合が多いので、お子さんが先のようなタイプかどうかは、その親御さんが同様の特徴を持っているかどうかでも分かる場合があります。
ASDは言わば“内向的な感覚過敏”であるのに対して、HSC“社交的な感覚過敏”と解釈できます。
・特にHSCの子供は、不快な外部刺激に耐えるだけの順応性も持っているので、その分かえってストレスを自分の中にため込みやすい傾向にありま。その結果、たまったストレスを学校では発散せずに、ある日突然家庭内で爆発させ「学校に行かない!」と親に強く訴えることがあります。そのため学校の教師でさえ「こんなに社交性のある子供がなぜ不登校になるのか?」と首をかしげることも決して少なくありません。その一方で同じ感覚過敏でも、ASDの子供はたとえ学校であっても我慢することなく不満を主張するため、トラブルとなって問題が発覚することが多いです。
・特にHSCの子供に親が普段から否定的な対応を続けていると、学校でちょっとした事があった時(例~成績が下がった、体型をからかわれた、人前で体調不良になった等、いわゆる完璧な状態が崩れた時)に登校を渋るようになる場合もあります。
・そうならないために重要な事は、ストレスが溜まった時にどうすればいいかを、あらかじめ子供に教えておくことです。例えば「もし、どうしても我慢できないことがあったら、遠慮しないでお母さんに話してね。必ず最後まできちんと聞くからね。」等のように、問題が起きても親に受け止めてもらえるという見通しを与えることが大切です。
・子供が登校を渋りだした時にご家族が「学校を休ませるのは甘やかしで、子供のためにならない」等と批判することが往々にしてあります。仮にHSCの子供が、そういう批判の下で長く不安な毎日を過ごしていると、「過興奮性」という精神障害をきたし、特に心配な事がなくても不安感を抱き、何か経験する度にその感情が付きまとうようになったり、脳の自律神経系がダメージを受け、ホルモン系や免疫系の異常をきたしたりするようになることがあります。
・「学校を休ませたくない」と思う方の心理には、「このまま休んでいると、いつまでも行かなくなるのではないか」という心配があると思います。ある専門家によれば、親御さん自身が幼い頃に自分の親から愛情を受けて育っていた場合であれば、愛情のかけ直しによる「赤ちゃん返り」は、小学校に上がってからの場合3週間で終わり、更にその後1週間で再び登校するようになるそうです。そうでない親の場合でも、子供の「赤ちゃん返り」を拒否せずに受け止めることができれば、期間はかかっても何れ登校できるようになるでしょう。一方、小学校に上がる前に愛情のかけ直しをすれば、もっと短い期間で問題は収まるはずです。
・ずいぶん繊細な特徴が見られる子供達ですが、特に乳児期に安定した愛着を身に着けた子供は、その後大きな問題は生まれにくいとされています。逆に私の経験上、親からの世話をきちんと受けていた場合、とても心優しく学業も優秀な子供たちが多かったです。

 次回は最終回。今日紹介したASDやHSCについて、改めてそれぞれの特徴と支援の方法について紹介します。