次に、愛着が不完全な状態にある子供の2種類の問題症状と、その原因となってしまっている子供への接し方について紹介します。特に、多くの親御さんが、「子供と言うのは叱られてこそ心の強い人間になるものだ」等の誤った子育て常識のもと、知らず知らずのうちにしてしまっている子供への接し方に注目です。
仮に1歳半までの愛着が不安定であった場合でも、小学校入学までに親の接し方をこの第2章から第、4章のように改善することによって愛着は安定します。つまり、この章以降に紹介する内容は、1歳半から小学校入学までの間知っておきたいものになります。
 



子供の症状について。子供の頃は、周囲の人間に対して喋ったり近づいたりすることを避けたり、反発したり、攻撃したりします。この「攻撃」には友達へのいじめも含まれ、最近はいじめの低年齢化が進み、小学1〜3年生のいじめ件数が最も多いので幼児期のうちから注意が必要です。また、他人の気持ちに共感することや、自分の気持ちを表現することが苦手です。更に、他人からの束縛を避けたり失敗を恐れたりする傾向もあります。
・大人になってからだと、それぞれの理由(スライド参照)から、子育てや貧困等のピンチに陥った時に周囲にSOSを出せなかったり、引きこもりに陥ったり、結婚や出産を避けたり離婚したり、いわゆる少子化問題を加速させたりする可能性もあります。更には、パートナーや子供への暴言や暴力に及ぶ可能性も高くなります。
・このタイプは1520%の子供に見られます。
その要因となる親の接し方について。一つ目として、日常的に行われる否定的・支配的養育が挙げられます。例えば、「何やってるの!」「うるさい!」「早くしなさい!」等、親が何気なく使う乱暴な言葉で子供を否定したり支配したりすること等、愛着を不安定にするうえで典型的な養育と危惧されるものです。この背景には、「自分がそうだったように、子供は叱られてこそ打たれ強い人間に育つものだ」等の誤った子育て常識があるのではないでしょうか。因みに体罰はもちろんのこと、暴言や過度に厳しい叱責、つまり“言葉”によっても脳に悪影響を与えることが最新の研究で明らかになっています。
二つ目として、子供に対する親の無関心が挙げられます。これには、極端なネグレクト(育児放棄)から、いつもスマホに熱中し子供への関心が薄いような場合まで含まれます。よくありがちなのが、子供が幼い頃から「弱音を吐かず自分の気持ちを強く持ちなさい」「親に頼らないで自分の力でがんばりなさい」等と親が自立を求め過ぎることです。場合によっては、それが突き放しになり、いつの間にか子供と親との心の距離が遠くなり愛着が弱くなることもあります
・三つ目として、子供に重点的に愛情を注ぐ“特定の人”の存在が保障されない頻繁な養育者の交代が挙げられます。乳児期においても、せめて赤ちゃんが母親を「安全基地」として信頼する“人見知り”が起きるまでは、家族の中で育児を平等に分担することは避けたほうがいいです。複数の保育士さんからの世話を受ける保育所の利用は直接的にはこれには当たりませんが、自宅に帰っても母親が“特定の存在”になるだけの愛情を注がなかった場合は該当します。
以上をまとめると「子供に対する親の愛情が日常的に不足しているケース」と言えるでしょう。子供はいつも不安感に襲われることから、親に対する諦めの気持ちが生まれてしまうのです。先に紹介した「脱愛着」はこのケースに当たるものと考えられます。



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・このスライドでは「不安型」と呼ばれる愛着不全タイプについて紹介します。
子供の症状について。子供の頃は、場面によって親を過度に求めたかと思うと、逆に拒否したり反発したりする等、一貫性の無い反応を見せます。また、周囲の評価を気にし過ぎたり、過度に愛情を求めたりする等の依存的な症状が見られることがあります。
大人になってからは、それぞれの理由(スライド参照)から、例えば、不適切な言動を見せるパートナーに対してでも依存性が高くなり暴言や暴力を容認したり、両者との間に愛情に対する意識のズレが生まれ、恋愛関係の破局や離婚に至ったりするケースも考えられます。また母親の顔色を気にし過ぎて指示なしには行動できなくなってしまう「マザコン」や我が子からの愛情まで強く求める「毒親」になってしまうことも考えられます。
・このタイプは約10%の子供にみられます。
その要因となる親の接し方について。一つ目として、子供を褒める時と叱る時との基準が気まぐれで一貫性が無い場合が挙げられます。この背景には「自分がそうだったように、子供は大人の言うことをどんなことでも受け止めてこそ成長するものだ」等の誤った子育て常識があるのではないでしょうか。
・二つ目として、親が神経質だったり過干渉だったりする場合が挙げられます。
以上をまとめると、愛情が常に不足していた「回避型」とは違い、感情的・盲目的で過度に接する親の愛情が気分次第で不規則に現れるケースと言えるでしょう。子供は目の前にいつ現れるか分からない親の愛情を逃すまいと、より執着するようになると考えらえます。
・愛着不全には、もう一つのタイプがありますが、それは、「回避型」と「不安型」との併発なので、ここでは省略します。
・不安定な愛着のために安心感が不足した場合、酒やギャンブル等に依存することで得られる一時しのぎの安心感で補おうしたり、ストレスホルモンが多量に分泌され人間の内臓の働きをつかさどる自律神経に負荷がかかることによって様々な心身症や身体疾患が現れたり、更にそれが脳(知能)の発達や寿命にも影響が及んだりする場合も考えられます。人間にとって安心感の不足は、身の安全を脅かす最大の敵と言えるでしょう。