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・このスライドでは、先の「第二の遺伝子」(乳幼児期に形成された親子間の愛着が人間の一生に影響を及ばすことを表した言葉)、ここではマイナスの遺伝子が子供に組み込まれてしまう背景について説明します。
・赤ん坊は、自分に孤独、空腹、排尿などの不利益な状況が生じると、母親に助けてほしくて泣きわめき、どんなに待っても母親が現れないことが続く場合、赤ん坊は「これ以上エネルギーを使い母親を求め続けると、自分の命が危なくなる」と本能的に認識し、自分が生き延びるために、自らの手で母親に対する愛の絆を心から消し去るとされます。つまり、本来なら母親として受け入れるはずだった目の前の大人を見限り自らの命の存続を優先させるのです
・なお、ご年配の方の中には「抱き癖がつく」として泣いている赤ちゃんを抱かずにそのままにしておく場合があるようですが、臨床心理士の網谷由香利氏はこれを「放置”と言う心理的虐待」として警鐘を鳴らしています。
・知能が発達し他の哺乳類よりも脳が大きい人間の場合、他の哺乳類が生まれた時と同じくらい成長するまで母胎内にいようとすると、母親の狭い骨盤と産道を頭が通らなくなってしまうため、他の動物よりも約一年早く生まれてくる(「生理的早産」)と言われています。しかしこの時期が「絶対依存の時期」とも呼ばれるように、他の哺乳類ならまだ母胎内で完全に保護されているはずの未熟な状態であるため、その時期にSOSを求めても世話を受けることができないとなれば、生きることを優先して「母親との絆を諦めよ」という本能が働くのも当然と言えます
・なんといっても、人間の子供は他の哺乳類と違ってハイハイもできない時期は自分から「安全基地」である母親を求めて移動すらできません。私たち大人でさえ、登山中大怪我をして歩けなくなった時に嵐に襲われて避難小屋に避難できなくなれば命の危険を察するのです。
・この場合「第二の遺伝子」とは、「この母親は自分の危機を救ってはくれなかった。それならばこれから出会う他の人間達も同じだろう」という、それ以後の人生に対する本能的な諦めの気持ちのことと考えられます。赤ん坊にとっては、母親は初めて出会う人間であり、その母親がどういう世話をしてくれたかによって、その子が抱く人間社会全体の印象が決まるのです。
・このスライドのように人間に対する警戒心を本能に刻み込んだ場合に、子供に最も顕著に表れる症状が、先に述べた人間関係能力の欠如”というわけです。(=第2章で述べる「回避型」愛着不全)
・夜中に何度も泣いたり、しつこく母親を後追いしたりと、赤ん坊に手を焼かせられる時は本当に大変ですが、母親に命がけのSOSを発している子供の気持ちや状況を理解していると、その受け止め方もだいぶ変わってくるのではないでしょうか。


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・このスライドでは、安定した愛着を形成するための育児条件について紹介します。
・愛着を形成するためには、先ずその第一歩として、選ばれたある“特定の人“の存在が必要となります(「愛着の選択性」)。なぜなら、度々複数の人が世話をすることによって人が代わる度に子供への対応の仕方が変わってしまうと、子供が次の事態を予測することが困難になり不安を感じるからです。もちろん、母親が四六時中、赤ん坊と一緒に居なければならないというわけではなく、「赤ん坊はいつもと変わらない安心感を求めている」という基本を理解したうえで日常の世話をしていれば、子供が落ち着いている時に他の家族が面倒を見る時があっても構いません。
・最近では父親の育児休業取得が叫ばれていることから“イクメン”が増え、家事だけでなく子供の世話をする育児も母親と父親とでほぼ平等に分担するご夫婦も見られるようですが、出来れば3歳頃に子供自らが母親から離れようとする“母子分離”までは育児面の主導権は母親が握った方が、より安定した愛着が形成されます。因みに、臨床心理士の網谷由香利氏は、父親が育児休業を取得した場合には母親が育児に専念できるように家事を専門に分担することが好ましいと呼びかけています。
・その後子供は一定期間、その「特定の人」以外の人間に対して人見知りをするようになります。それは、愛着を結んだ相手とそうでない相手との違いを識別し始めたためであり、母親を自分の「安全基地」として信頼し始めたことの証です。因みに、子供が母親には懐くのに父親にはなつかない、俗に言う“パパ見知り”も、子供が父親を嫌っているのではなく、子供が「特定の人」と認識している母親以外の人にはまだ警戒心を抱いているためと考えられます。
愛着を形成するうえで最も相応しくその時期を逃すとその後愛着形成が難しくなる時期(「臨界期」)は、おおよそ生後1歳半までです。なぜなら、この頃が安心感の元になるホルモンを受け止める受容体の数が最も増える時期だからです。因みに、人間関係能力や自立性等の人格を形成するうえでの「臨界期」に当たるのが乳幼児期。
・特に生後1歳半までの時期が「絶対依存の時期」と呼ばれるように、その間に「子供が望むこと全てを満たしてやる」(児童精神科医の権威である佐々木正美氏の言葉)ことが大切です。以前ネットで「子供がまだ物心もつかない時期に親が育児の手を抜いたからといって、子供の成長に影響が出るはずがない」という投稿があり、その意見にとても多くの賛同が集まっていましたが、先ずはそのような誤解を解かない限り、昨今の様々な社会問題が改善することはないでしょう。
ただし、赤ちゃんが泣いたらすぐに問題を解決する”スーパーお母さん“である必要はありません。「おなかがすいているのかな?」「おむつが濡れているのかな?」「暑いのかな?」等とあれこれ対処してみた結果、最終的に赤ちゃんの不快感を解消してあげることができれば良いのです。むしろ、その試行錯誤する過程で、赤ちゃんも「今我慢すれば、きっとお母さんは解決してくれる」という1歳半以後に身に付ける発達課題である「自律性」の基礎を身に付けることができます。
子供が自分の気持ちをコントロール(我慢)する必要があるトイレトレーニング等は、「絶対依存の時期」を過ぎた1歳半以後に行われるべきです。親が「保育園に行った時に子供が困らないように」等と躾を焦るあまり、本来なら全面的に親に甘えなければならないはずの1歳半までに子供に負荷を与えると、生涯にわたって心に大きな傷を残し、後に、長く学校に登校できなくなる等の問題として表面化することがあります
・昨今では、母親が早期に職場復帰するために、子供が1歳になる前に保育所を利用する、いわゆる0歳児保育も見られるようです(H30時同年齢の13.4%)。
心理療法家の網谷由香利氏は、長い引きこもり等に見られるような心の病気の原因が、胎児同然の乳児期における無理な母子分離にあるとして“0歳児保育”に警鐘を鳴らしています
・一方、愛着形成を考えるうえで重要な事は、仮に1歳半までの愛着形成が上手くいかなかったとしても、その後、子供への接し方を適切なものに変えることによって、安定した愛着に修復することができる、という言わば後天性の性質が強いということです。
・この不安定な愛着を比較的リスクが少なく安定した愛着に修復できるのは、通常は小学校に入学する前の幼児期までです。その時期を逃すと、愛着形成をやり直そうとした際に、「赤ちゃん返り」(退行現象)が一層強くなったり、以前とは逆の態度を示す親に対して子供が拒否反応を示したりする場合があります。
・岡田尊司氏は、幼児期のうちに愛着を修復できないと、小学校に上がってから発達障害のADHDと似た症状を示す場合があると指摘しています。昨今、落ち着いて授業を受けることができない小学校1年生による「1プロブレム」と呼ばれる現象が問題視されていますが、「ADHDと似た症状」というのは、正にそのことの表れではないでしょうか。
・しかし、最も子育てが円滑に進むのは、1歳半までの時期に子供の求めに応じた世話をして、最初から安定した愛着を築く場合であることは言うまでもなく、特に以後のスライドで紹介する“感覚が過敏な子供”の場合には、一度不安感を覚えさせてしまうと、その後で改善するのは難しくなります。これらのことについては、極力子供を出産する前に知っておきたいものです。

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・前のスライドで、が躾を焦るあまり、本来なら全面的に親に甘えなければならないはずの1歳半までに子供に負荷を与えると、生涯にわたって心に大きな傷を残し、後に、長く学校に登校できなくなる等の問題として表面化することがあるとお話ししました。そのように、本来の子供の発達段階に沿った育て方をしないと、子供に大きな問題が生じてしまうことがあります。そこで、ここでは、子供の発達段階ごとに、どんな力をどんな指導によって身に付けるのがふさわしいのかということについて紹介しています。

・公認心理士の山下エミリさんは、乳児期の「基本的信頼感」から順序良く目標を獲得していけば、子供に将来の成功に繋がる非認知能力が獲得されると指摘しています。