東京メトロ白金高輪駅で会社員男性が顔に硫酸をかけられた事件。容疑者は花森弘卓容疑者(25)。

 今回は、花森容疑者の行動特徴から、彼がなぜ今回のような犯行に及んだのか?その背景について考えてみたいと思います。


 以下に、これまでに報道された花森容疑者の様々な行動特徴を9つの項目に再編して掲載します。

①いつも1人で行動していた。口数は少ない。あんまり自分のことを出したがらず大学時代は友達は全くいなかった。

②あいさつを返してくれる。性格が優しい。自然がすごく好き。

③大学時代の後輩が数人で一緒にいる時に花森容疑者に対して「おい、花森」等とため口を使ったところ、「年齢が上なのにため口はおかしい。『花森さん』と呼ぶべきだろう」と怒った。

④本人が生まれた時、父親はすでにかなり高齢だった。

⑤「僕の彼女になれるとしたら宇宙人しかいない」(本人)

⑥「自分はサラリーマンは向いてない」「自分のスキルや知識を活かせる海外に行きたい」(本人)

⑦「普段は無口で、あれほど饒舌に話す姿は初めて見たので、自分の好きなこと(カブトムシのこと)だとあんな顔もするのかと驚いた。」(花森容疑者が通っていた喫茶店の店主)

⑧ 「彼が高校生くらいの頃昼間に道路の真ん中で花森がお母さんに馬乗りになって首元を掴んでいるのを目撃した。」(近隣住民)

⑨「気に入らないことがあると倍返しするタイプ」(同級生)


【感想】

 以上の報道から考えられる事は、花森容疑者本人が、発達障害の一つである感覚過敏が特徴の自閉症スペクトラム障害(ASD)、ただし知的遅れの無いASD、いわゆるアスペルガー症候群である可能性が高く、その障害特性を背景として今回の犯行に及んだのではないかということです。あくまで「可能性が高い」と言うことであり断定はできませんが、私の知見によれば、かなりの確率で当てはまると考えています。


◯言動特徴とASDとの関連性

 以下、上記各情報について「→」で私の解釈を述べます。

 なお、この記事については、必ず最後まで読んで頂くようお願いします。


 いつも1人で行動していた。口数は少ない。あんまり自分のことを出したがらず大学時代は友達は全くいなかった。

人と関わると不快な刺激を受けることが多いため、自ずと刺激を受けない単独行動を好むようになる。

② あいさつを返してくれる。性格が優しい。自然がすごく好き。

普段から極力不快刺激の無い環境を選んで生活しているため一般の人以上に心が純粋。一般の人は不快刺激があってもそれを我慢しながら生活していることが多い。

 大学時代の後輩が数人で一緒にいる時に花森容疑者に対して「おい、花森」等とため口を使ったところ、「年齢が上なのにため口はおかしい。『花森さん』と呼ぶべきだろう」と怒った。

世の中で認められているルールや決まり(この場合は「目下は目上を敬うべき」と言う考え)を「こうしていれば安全にやり過ごせる」という“見通し”として生活をしている。見通しがあれば安心できるのは誰でも同じだが、それが崩された時に感覚過敏の人が受けるショックは一般の人の何倍も大きいため、文字通り「倍返し」ということにもなる。

④ 本人が生まれた時、父親はすでにかなり高齢だった。

感覚過敏が特徴とされる自閉症スペクトラム障害は親、特に父親が高齢である場合に多いとされる。

 「僕の彼女になれるとしたら宇宙人しかいない」(本人)

「宇宙人」とは一般の人が感覚過敏の人を形容する時によく使う言葉。彼もそう言われていたために「宇宙人の相手は宇宙人しかいない」と思っているのではないか?

 「自分はサラリーマンは向いてない」「自分のスキルや知識を活かせる海外に行きたい」(本人)

 「サラリーマンは向いてない」と言うのは集団生活を過ごす中で人間関係上のトラブルを数多く経験してきており、感覚過敏に特有な外部刺激に対してオーバーに反応する様子をからかわれてきたためだと推測(多くのASD者が経験している事)

 「普段は無口で、あれほど饒舌に話す姿は初めて見たので、自分の好きなこと(カブトムシのこと)だとあんな顔もするのかと驚いた。」(喫茶店店主)

普段は外部刺激に対して閉じこもっているために本人の言動には抑揚がないが、閉じこもっている自分の世界の中で興味を持っている事には人一倍強い関心を示す。

 「彼が高校生くらいの頃昼間に道路の真ん中で花森がお母さんに馬乗りになって首元を掴んでいるのを目撃した。」(近隣住民)

たとえ親であっても我が子の感覚過敏に気がつかず、「これくらいいいだろう」というような不用意な働きかけをすることが往々にしてあり、それが本人には耐えられない場合には暴力に発展するケースもある(実際に私もそういう子供を受け持ったことがあります)。

 「気に入らないことがあると倍返しするタイプ」(同級生)

普通の人にとっては「これぐらいのこと」と思う事でも感覚過敏の本人にとってはその倍以上の不快刺激であるため。感じやすさは誰にでもあるが、花森容疑者の場合その程度が障害域ほどにあるのだと思う。

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 なお、「一方的に恨みを募らせ犯行に及んだ」という報道がありますが、年下なのに年上に対して敬語を使わないことは一般規範に反することなので、「一方的」という表現は当てはまらず、「硫酸をかけるまでの恨みを募らせ」という方が適切でしょう。


◯ASDであることの根拠

 さて、実は自閉症スペクトラムの傾向は誰もが大なり小なり持っています。その傾向がとても強く障害域(上位約3%内)にある場合「自閉症スペクトラム障害」と呼ばれます。今回私が花森容疑者のことをあえて自閉症スペクトラム障害と判断したのは、硫酸をかけると言う通常では考えられないほど極端な反応を見せたからです。

 一方で、同じ感覚過敏であっても、「HSP (Highly Sensitive Person)」ではないと考えられます。なぜなら、HSPの人はコミュニケーション能力が高く、揉め事を嫌う特徴があるため、①のように普段から単独行動をとることはありませんし、③のように「年齢が上なのにため口はおかしい。『花森さん』と呼ぶべきだろう」と、いかに後輩であっても自分からトラブルを持ちかけることは考えにくいです。

 また、ある記事では暴力性のある愛着障害を疑う意見もあるようです。これについては反応性愛着障害か、「回避型」の愛着スペクトラム障害のことを指していると思いますが、これらの最大の特徴は強い自己否定感が元になっている“社会規範への抵抗”です。そういう人が、年下から年上に対する正しい言葉遣いにこれ程強くこだわることは考えにくいと思います。


 私自身、感覚過敏の子供達と関わってきた経験がありますが、何年も前の出来事を根に持っていたという事例もありました。感覚が過敏であるが故に、強い不快刺激を受けた時に本人が感じる衝撃は一般の人が考えるよりも何倍も大きいものであり、現在25歳の花森容疑者が大学生時代のことを根に持っていたとしても何ら不思議ではありません。


◯ASDへの理解が得られない理由

 以上のように、感覚過敏の人の特徴について理解されていないのは、平成19年の特別支援教育(通常学級にも在籍している発達障害の子供のニーズに対応するためにスタートした指導体制)がスタートして以来、学校が当該児童生徒のことを他の子供達に十分に啓蒙してこなかったためであると考えられます。一般社会に対しても平成17年に発達障害者支援法が施行されていますが、これこそ有名無実化しており、何の効力も発揮していません。

 一方で、知的遅れのあるASDの場合は、特別支援学級や特別支援学校に在籍することが多く、障害を抱えていることが外から分かりやすいために、イジられたりからかわれたりすることが少ないです。しかしそれでは平成19年以前の特殊教育体制(「障害者は特殊な教育現場〜特殊学級、養護学校等〜にしかいない」という考え方の下の教育)と何ら変わりません。


◯ASDの可能性と未来

 なお、親を含めて周囲から誤解されやすい症状ですが、穏やかで肯定的に接すれば、一般の人以上に純粋で素直な子供に育つということだけはお伝えしておきます。加えて、自分の興味・関心があることに対する没頭心は人一倍で、学者や芸術家や職人等、自分の強い信念を持っているタイプの職業に従事する人に多く見られる、いわば私達の文化の発展に欠かすことのできない“才能”の持ち主です。


 なお今回の投稿の目的は、花森容疑者を弁護することではなく、同じように感覚過敏症状で苦しんでいる人達の気持ちを理解してもらうこと、更に、そのことによって当人への接し方が改善し今後同じような事件が起きないようにすることです。