【今回の記事】
《助言者》
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
吉永安里(国学院大学 准教授)

【記事の概要】
Q. 入学前に、読み書きはどのくらいできていたらいいの?
A. ひらがな・カタカナの読み書きは小学校で学ぶので、入学前にきちんと書けなくても問題ありません。幼児期では読み書きへの興味・関心が育っていることのほうが大切です。絵本から自分の知っている単語を拾って読んだり、(お手紙のやりとり遊びから)お友達の名前を書いたり

Q. 小学校に備えた習いごとは必要なの?
A.  小学校に備えた習いごとが必要かと聞かれたら「必要ない」と思います。バレエが好きであれば、それを楽しんで、いろんなことに意欲を持つこと自体が、子どもにとって大事なことです。親はそのことを大切にしてください。習いごとが多すぎて、“させられる”と感じるようになると逆効果です。かえって学びの意欲を失わせてしまうことのほうが心配だと思います。
 子どもはつまずかないことより、つまずいたときにどうするかが大事です。分からなかった時に、自分で考えて、先生や親に聞いてみたり、粘り強くあきらめずに取り組んだりするような力が育っていることのほうが大事です。
 
Q. 2020年度から新しく始まる小学校の学習指導要領に登場する「スタートカリキュラム」とは?
A. 
(入学直後の4月・5月の時間割の例)

「なかよしタイム」は、幼稚園や保育園と同じように遊びが中心。「わくわくタイム」は、新しい友達と一緒に考えて、具体的な体験をすることで、学ぶ意欲を育て、教科の学習につなげていく時間。「ぐんぐんタイム」は、子どもたちの興味や関心に合わせながら教科の学習をはじめます。
 スタートカリキュラムの様子は、親世代が経験してきた学校での学習と全く違うのではないでしょうか。親が「ずっと静かに座って勉強する」というイメージを持ったままだと、早くからいろんなことを教え込まないと小学校で困るのではないかと考えてしまいます。
 でも、学び方は新しくなっています。「入学前に教え込む」という考えから脱却することが大事です。そうすれば、親も子も焦ることはありません。心配しなくても、小学校ではこんなに楽しく学びがスタートできる。そのように、保護者の安心にもつなげてほしいと思っています。

Q. 字の書き間違えは、無理に直さなくていいの?
A. 幼児期には、字が逆さまになる鏡文字や、他の字と混じることが、発達上よくみられます。今の段階で楽しく取り組んでいるのであれば、その興味や意欲を大事にしてあげましょう。間違いを正すことで興味を失ってしまうこともあります。
(VTRで紹介された)子どもが好きなこと・楽しいことを、パパが一緒におもしろがっているところが、とても大事だと思います。間違いを直す必要はありません。これまでのように、親子でやりとりを楽しむことで、子どもの興味・関心が育ち、パパとの信頼関係が作られていくと思います。

Q. 読み書きなどの勉強に興味を持たせることはできる?
A. 大人は、子どもが興味を持った世界を発見してあげることが大事になります。例えば、電車が好きなことに気づいたら、電車の絵本につなげてみましょう。その絵本を見ることで、文字に興味を持ったり、物語の世界に興味を持ったり、いろいろな種類の興味につながっていくと思います。

《最後に専門家から一言》
 小学校がこれだけ変わっています。親の世代がイメージするような、小学校では大変な学びがいっぱいある、といったことはありません。子供が持つ興味・関心や、今持っている力を、小学校につなげていけると考えてください。そう思えば、いままでのような心配がなくなると思います。

【感想】
 上記概要の中から気が付いた点をとりあげ、それについて私の考え(「→」以下)お話ししてみたいと思います。

◯「幼児期では読み書きへの興味・関心が育っていることのほうが大切。絵本から自分の知っている単語を拾って読んだり、(お手紙のやりとり遊びから)お友達の名前を書いたり」「電車が好きなことに気づいたら電車の絵本につなげてみる」
→直ぐに座学活動をさせるのではなく、遊びから学びに発展させることが大切のようです。

◯「分からなかった時に、自分で考えて、先生や親に聞いてみたり、粘り強くあきらめずに取り組んだりするような力」
→子供が熱心だったり熱中していたりした時に、その活動を見守る支援(「見守り4支援」等)をして、本人自身に自分で考えたり粘り強くあきらめずに取り組んだりする経験をさせることが大切ですね。
 因みに、この番組でもお馴染みの東京大学名誉教授汐見稔幸氏は、別の番組の中でこう述べています
「子供は大人から『あぁしなさい』『これはダメ』と言われるから育つのではなく、子供は自分で『あれができるようになりたい』と自分で挑んでいくから育つ」
つまり、充分安心感が満たされている子供が「活動場面」で行っている、挑戦する・学ぶ・耐える等の「探索行動」は極力邪魔しないで見守ることが大事だということです。

◯「小学校に備えた習いごと」「習いごとが多すぎて、“させられる”と感じるようになると逆効果」
→ 発達心理学者エリクソンによれば、幼児期後期に果たすべき発達課題は「積極性」とされており、それが具現化できる活動の例として「探検」「道具を使う活動」「芸術表現」等が挙げられています。これらこそ、子供が好む定番とも言える“外での遊び”や“お絵かき”です。子供は本能的にそういう活動をしたがっているのに、それに反して大人が選んだ「習い事」をさせられることは、一生に一度しかない幼児期に身につけるべき資質を逃してしまうことになるでしょう。

 また、習い事では認知能力(いわゆる知能指数に代表されるテストで測ったり数値化したりできる知的な能力)が養われますが、一方で遊びでは非認知能力(目標や意欲、興味・関心をもち、粘り強く、仲間と協調して取り組む力や姿勢を中心とする力)が養われます。因みに、先の汐見氏は「非認知能力は社会で活躍している人に備わっていることが多い」と指摘しています。小学校でも認知能力は低くても非認知能力が高い子供は、入学後数週間は出遅れる感じがするかも知れませんが、その後は持ち前の興味・関心によって学習内容を見る間に習得し、あっという間に、他の子供達を追い抜いていくでしょう。

 また、仮に入学後の授業中に「そんなこと知ってるよ」「もうできるよ」と言う友達がいると焦るかも知れません。これについては、担任教師による配慮(自慢するのは良くないことを教えたり、作業ができた時に「できました」という発言はさせず黙って挙手させてアイコンタクトで認めたりする等) が必要です。子供が困っているようなら、担任にお願いしてみてはどうでしょうか。

◯「遊びから徐々に学びへと移行させる『スタートカリキュラム』による導入」
→ 親がイメージしているような「ずっと静かに座って勉強する」という学習形態ではないため、「うちの子は集中力がない」等と焦る必要はないのですね。

◯「字が逆さまになる鏡文字や、他の字と混じる」
→これは、いわゆる深刻ではない問題を抱えた状況(下図の②の左矢印)であり、はじめに母性を加えた後指導による父性を加えても良いケースです。

 ただし大原則は「初めにできていることを褒める」という「先ずは母性の働き」であること。例えば、「この字は丁寧になぞっていて立派!(母性)こちらの字も同じようにできたらえらい(父性)」等のように。

◯「パパが一緒におもしろがっているところが、とても大事」
→父親の“3大仕事”は①母子分離の補助②子供との遊び役③社会の常識やルールのしつけ、です。
すなわち、遊びから学びへと発展させると言う意味を考えると、子供の学習における父親の存在には極めて大きいですね。

◎以上をまとめると…
 今の学校教育は、親世代が子供の頃に経験した座学スタイルではなくなっている。親のイメージを子供に強要するのではなく、あくまでも子供との遊びの中から、子供が何に興味・関心を持っているかを見つけ出し、それに関わる絵本や図鑑を見せる等して少しずつ学びにつなげることが大切。