【今回の記事】

[相手が嫌がることをしてしまう小2息子。人の気持ちがわからないのではと心配です【小川大介先生の子育てよろず相談室】](https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20210119-01016106-lettucec-life)


【記事の概要】

《「意地悪をしようというよりは、かまって欲しくてちょっかいを出してしまう。物を取ってもすぐに返すし、叩くのも、息子には叩いているつもりはなく、何かの拍子に手が当たってしまったのにすぐ謝れなかった」と息子さんの言動に悩むお母さん》


【感想】

 記事では、「我慢する時の気持ちを味わうシュミレーションをする」「気持ちが高ぶった時は5回ジャンプでエネルギーを吐き出す」等のアドバイスがされていますが、私は「かまって欲しくてちょっかいを出してしまう」と言う点の方が気になりました。いわゆる“注目欲”が満たされていないのではないか、ということです。

お母さん、見て見て!」と子どもはよく言います。これが、その「注目欲」の表れです。でも、そもそもこの“注目欲”は、正式にはどんな意義があるのでしょう。


 以下の図は、マズローという心理学者が提唱した5段階欲求説という考えについて説明したものです。これらの欲求のどれかが満たされていないと、そのことが子供の何らかの問題症状となって現れるものです。(文字が小さくて見づらい場合は、一度タップしてから拡大してご覧ください)

      (マズローの五段階欲求説)


 この中の「③愛情・所属の欲求」(自分の居場所、大切な人との絆を求める欲求)について、私は、自分の安全基地と愛の絆(愛着)で繋がりたい(所属したい)と思うことであり、それを満たすのが母性の働きと解釈しています。更に私の場合、それを具現化しているのが「安心7支援」ですが、先の「注目欲」と言うのが、その7支援のうちの「②子どもから声をかけられた時には、子どもをきちんと見る」ことを子どもが求める気持ちであると私は捉えています。

 つまり、相手が嫌がることを子どもがしてしまうのは、親との絆(愛着)が安定しておらず自分の心の居場所がない、すなわち「愛情・所属の欲求」が満たされていないことの表れであると捉えることができるのです。


 また、仮に子どもの対人関係が上手くいっていない場合、特に重要になるのが「④ 承認・尊重欲求」です。因みにこの欲求は、自分の安心感が満たされた人が更に、相手の役に立って承認されたい、相手から大切な存在だと思われたいとする「③愛情・所属の欲求」よりも高次なレベルにあるものであって、同じ対人上の問題だからと言って本記事の「友達に意地悪をする」という未熟な行為がこの欲求に当たるとは思いません。

 なお、先の「③愛情・所属の欲求」が家庭の欲求であるのに対して、この欲求は、家庭の友人や知人、いわゆる“社会”に関わる欲求で、その意味から、社会的な自立を促す(=友人や知人との人間関係を円滑にする)父性の働きと重なると考えます。


 更に、さまざまな解釈があるとは思いますが、私は「④ 承認・尊重欲求」の中の「承認欲求」の表れが「人から『ありがとう』と言われたい」という気持ち、「尊重欲求」の表れが「人から迷惑をかけられた時は『ごめんなさい』と言われたい」という気持ち、とそれぞれ解釈しています。つまり、この2つの言葉が言える子どもは、友達の「④ 承認・尊重欲求」を満たすことができるので、友達からの信頼を得ることができますし、逆に、特に親からこの2つの言葉をたくさん言われて育った子どもは、(「③愛情・所属の欲求」の“家庭的”に対して)“社会的”な自己肯定感が高まり「学校に登校していなくても将来社会で立派にやっていける」(斎藤暁子著「HSCを守りたい」(風鳴舎)で紹介された座談会に出席した小中学校校長経験者の発言)と考えられます。


 なお、この「ありがとう」「ごめんなさい」の習慣化の仕方については、次の記事をご参照ください。


 また、この五段階欲求では、ある欲求を満たすと、自然と次の高次の欲求も満たそうと考えるようになるとされています。つまり、母性の働きに当たる「③愛情・所属の欲求」が満たされると、自然と次の父性の働きに当たる「④ 承認・尊重欲求」を満たそうと考えるようになるのですが、それは丁度、「充電場面」(下表)にいる子どもが母性の働きによって愛情エネルギーを満たされると「自力回復力」(同表)が働いて、父性の働きを受けることができる「活動場面」(同表)に自ら移る性質とそっくりです。これは単なる偶然でしょうか。

 私は、これは私達人類が後世に子孫を残そうとする本能の表れではないかと思っています。

 精神科医の岡田尊司氏は、乳幼児期に親から十分な世話を受けることができなかった人は、特に人間関係能力に影響を与える愛着が不安定になるために、成人後に、結婚を避けたり子供を持つことを避けたりするようになると指摘しています。つまり、先ずは自身の心の安定を図らなければ、もともと赤の他人であるパートナーと新たな人間関係を築くという“探索行動”を起こすことはできません。即ちその二つの段階が、心理学の世界では「愛情・所属の欲求」と「承認・尊重欲求」、愛着の世界では母性と父性と、それぞれの言葉で表現されていただけではないかと思うのです。


 子ども達が将来、自分のパートナーや職場の同僚と好ましい人間関係を築くことができるかどうかは、その親が、①先ずは母性の働き(「安心7支援」等)によって子どもの「愛情・所属の欲求」を満たせるかどうか。②更に、パートナーや同僚の「承認・尊重欲求」を満たすために「ありがとう」「ごめんなさい」をその相手に言えるように育てられるかどうか。親のそれらの支えにかかっていると言えます。


 今回は少々難しい話になってしまいましたが、いつも変わることのない人間の原理・原則について知っておくことは、子育ての土台を築くうえでは大切なことだと思います。