【今回の記事】
榎本博明著「ほめると子どもははダメになる」(新潮社)より

【今回のねらい】
 褒めること、または褒め方によって、どんなデメリットが生まれるかを見直すため。

【記事の概要】
《教育心理学の領域では、褒める事は言語的報酬を与えることになると考える。それがモチベーションに与える影響について様々な研究が行われている。その結果、褒め方によっては逆効果になることが証明されている。そうした教育心理学の知見をまとめると次のようになる。
①やさしい課題ができた時に褒めると逆効果になる
②明確な根拠なしに褒めるのは逆効果になる
③過度に一般化しすぎた褒め方をするのは逆効果になる
④コントロールするような褒め方をするのは逆効果になる
⑤能力を褒めるのは逆効果になる(別ページでの補足)
 ここでいくつか補足しておきたい。
 ③の「一般化」と言うのは、例えばパズルの問題が解けた生徒に対し、「あなたは本当に素晴らしい」などと人物全体を評価すること。大げさな感じがして妥当性が感じられず、嘘っぽく聞こえてしまう。
 ④の「コントロールするような褒め方」とは、褒められる側は、報酬を与えられることで相手の意のままにコントロールされる立場になること。結局のところ、相手の望むような方向に動かされているのであり、その取り組み姿勢は相手にコントロールされたものになると言うことになる。したがって、褒められた側が、報酬が持つコントロール的側面を強く意識すると、「やらされている」と言う感じになり、自律性の感覚が損われるため、モチベーションが低下する。》

【感想】
 榎本氏が指摘した逆効果になる5つの褒め方。今回はこれらの真偽について考えることによって、褒めること、または褒め方によって、どんなデメリットが生まれるかを見直してみたいと思います。

 先ず「③大げさな感じがして妥当性が感じられず、嘘っぽく聞こえてしまう」や、「④報酬が持つコントロール的側面を強く意識すると『やらされている』と言う感じになる」については、その通りだと思います。特に、共感性が高いHSC対応の子ども達にはたちどころに見抜かれてしまうでしょう。注意が必要です。

 次に「⑤能力を褒めるのは逆効果になる」については、以前からこのブログでも「“結果”よりも“努力”を褒めるべき」と指摘しています(【褒め方】〜生活意欲を高めるために、“子どもの中の良さ”と“努力”と“人への貢献”を褒める〜」参照)。この場合の「結果」が、榎本氏の言う「能力」に当たります。つまりは双方とも「子どもが自分自身ではコントロールできないこと」であり、そのことを誉めてしまうと、子どもは次も同じように誉めてもらう自信がなくなり、難しい課題に挑戦しようとする気持ちが湧かなくなってしまうのです。一方で、「努力」を褒めると、子どもは自分が頑張れば頑張っただけ褒められることになるので、課題への挑戦心を失いません。

「②明確な根拠なしに褒めるのは逆効果になる」についてはどうでしょう。榎本氏はこの点については項目に挙げるだけで、具体的に説明していません。また、一般的に「褒めるときは理由をつけて具体的に褒める方が良い」と言う声はよく耳にしても、「理由がないとなぜいけないのか」と言うことについては、ほとんど話題になりません。そこで、ここでは、私なりの考えを紹介してみたいと思います。
 例えば、子どもが自分で描いた絵を褒められる時に、単に「いいね」と褒められるのと「ここの筆遣いが丁寧でいいね」と褒められるのとでは、どう違うでしょうか。筆遣いまで褒められた場合は、次からは筆遣いにも注意するようになるでしょう。一方で、単に「いいね」と褒められた場合はどうでしょう。次への具体的なステップ化にはなり難いとは思いますが、褒められないよりは嬉しいと思います。
 但し、いつもいつも理由のない褒め方をされているとどうでしょうか?、「この人は本当に自分のことを見ているのかな?」「何となく褒めているのかな?」という気持ちが生まれてくることはないでしょうか。これは、「安心7支援」で言うところの「子どもを見る」の不足に当たります。子どもを見るかどうかは、子どもに対する親の関心の有無まで問われます。出来るだけ理由をつけて具体的に褒めてあげたいものです。

 さて、特に議論が必要なのは、「①やさしい課題ができたときに褒めると逆効果になる」です。
 子どもを成長させるうえで大切なことは、その子どもの中の“伸び”に注目して褒める、いわゆる“個人内評価”と呼ばれるものです。特に、周囲から認められにくい発達障害傾向の強い子どもや愛着不全等の子ども達を認めるためには、課題の難易度にとらわれずに、純粋にその子の以前との違いに注目することが大切です。
 一方で、大人が陥りやすいのが、ある一定水準以上だった時にだけ褒める、いわゆる“絶対評価”の考え方です。「やさしい課題ができた時に褒めると逆効果になる」というこの榎本氏の考え方は、残念ながらその考え方と言えるでしょう。

 以上のことから、榎本氏の著書のタイトルは、「子どもは褒め方を間違えるとダメになる」が正しいと思います。榎本氏は、間違った褒め方に対する強い警鐘の意味を込めて、敢えて上記のタイトルにしたのではないでしょうか。私達も、先のような誤った褒め方にならないように充分注意する必要があります。
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 補足ですが、「褒める子育て」を批判する声がある限り、私達は「どんな時に叱るのか?」という意識もしっかりと持っていなければなりません。
 私の場合、「一度目の失敗は叱らずに受け止め、自覚不足で同じ失敗を繰り返した時に叱る」という「段階的注意」(本ブログのダイジェスト記事「【叱り方】~段階を踏んだ叱り方のルーティンで子どもは進んで行動を改める~」参照)の考え方がそれに当たります。
 私のこの考えは、「(愛着不全の要因になるため)一度目の失敗は叱らずに受け止めましょう」という意味合いを強調した印象を与えているかも知れませんが、一方で「叱り方のルーティーンは子どもに予告しておき、2度目の時には毅然とした態度で約束通りに叱りましょう」という意味合いも含まれています。このことが曖昧になってしまうと、子どもは「この次はどうなるのか?」という不安感に襲われることになってしまうのです。
 なお、怪我や命の危険に関わる行為は言わずもがなです