【今回の記事】

「なぜ、厳しく育てたはずの娘が……」乳児遺棄事件、加害者家族の背景とその後》(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20201203-00019530-jprime-soci)


【記事の概要】

《事例①》

「絵美には軽度の知的障がいがあった。学校の成績は常に最下位だったが、特に問題を起こす子どもではなかった」

「絵美は感情を言語化することが苦手である。ストレートすぎる表現しかできず誤解を生むことも多く、女の子同士の仲間には入ることができなかったという」

男性と一緒にいるほうがラクだと感じ、いつの間にかセックスはコミュニケーションのひとつに。妊娠も初めてではない。以前は相手の男性が中絶費用を負担したという。しかも今回の妊娠は父親の可能性がある男性はひとりではなかった。それゆえ男性に相談することもできなかった」

「絵美は、会社でも友達はなく孤立していた。妊娠による体形や体調の変化に、同居していた家族は気が付かなかったのか。『ちょうどその頃はお姉ちゃんの結婚が決まったばかりで、お姉ちゃんの方にばかり気が向いて(絵美の両親)

《事例②》

「奈々はクラスメートから無視をされていたが、暴力や嫌がらせを受けているわけではないという理由で、先生に相談しても対応してはもらえなかった親に相談したこともあったが、『友達を作るより勉強が大事』と一蹴されてしまう始末」

「奈々は、SNSの世界にのめり込み、現実の世界の寂しさを紛らわすようになっていく。奈々の悩みをよく聞いてくれる男性と親しくなり、現実でも会うようになった。会うようになると、嫌われるのが怖くて、肉体関係を拒むことができなかった

「特に異性との交際に厳しかった母親の美奈子。奈々は、恋愛とは関係なく男の子の友達も欲しかったが、家に電話が来ても取りついてもらえず、高校を卒業するまで交際は厳禁だった。妊娠した事実など、打ち明けられるはずがない。奈々は、ひとりで出産し子どもを処分する覚悟を決めていたという」


 二つの事件の家族は一定の社会的地位を有し、だらしのない家族ではなく、むしろ厳格な家庭だった。子どもを厳しく躾けているが、子どもの抱える悩みには無関心。また、家庭で性の話題はタブーとされていた。


【感想】

何もしない大人の犠牲者

 事例①の絵美さんは、軽度の知的障がいのためにコミュニケーションが苦手で、女の子同士の仲間に入ることができず、結果的に彼女には男子との世界しかなくなりました。

 もしも、担任の先生が障害のための暮らしにくさに配慮した支援をして、他の女子とも関係を作ることが出来ていれば、このような事にはならなかったでしょう。

 しかも、同居していた家族は、姉の結婚に気を取られ、本人の妊娠による体形や体調の変化に気が付かなかったと言うのです。一体どれだけ絵美さんに無関心であったのか…。


 また、事例②の奈々さんは、クラスメートから無視をされていましたが、担任も親も相談には乗ってくれず、その世界の寂しさを紛らわすために、SNSや男性にのめり込み、そこで嫌われるのが怖くて、肉体関係を拒むことができませんでした。

 もしも、担任や親が相談に乗ってくれて、友人関係が上手くいっていればSNSや男性にのめり込むこともなかったはずです。


 何れも、大人がそれぞれ本来の役割を果たし、子どもへの最低限の関心を向けていれば起きなかった事件です。この2人の子どもは、正に、何もしなかった大人の犠牲者であったと言えるでしょう。


厳しいしつけと愛情のバランス

 事例②の奈々さんが強いられていた「異性との交際をしてはいけない」という厳しい躾。しかし思春期の子どもが異性に関心を持つのはごく自然なことで、それに反して、異性関係を我慢したり、その状態を維持したりという行為は、言わば子どもの自己コントロールを要するもので、子どもにとってみれば、歴然とした「探索行動」(下表「物事に挑戦する、学ぶ、辛さに耐える、人間関係を保つ等」)です。

 事例①の絵美さんが、他の女子との人間関係を円滑にコントロールすることは更に困難でした。なぜなら、それができなかったのは知的障害のためだったのですから。

 

 上表からも分かる通り、それらが出来るようになるには、それだけの愛情エネルギーが必要です。しかし、この事例に出てくる親達は、子どもの抱える悩みには無関心であり、子ども達にはその愛情が与えられていませんでした。あの子ども達は明らかに「充電場面」に居たのです。


厳しく育てたのに、どうして?」と嘆き振り返る親御さんは他にもいらっしゃるかもしれません。でも、子どもがその要求に耐えるには、それだけの愛情エネルギーが必要であったことを知らずに、親の思いだけを押し付けてしまっていたということはないでしょうか。


 私は、これまで、乳児遺棄事件が報道されるたびに「なぜ尊い命を無駄にしたのか?」と批判の気持ちさえ持っていました。しかし、今回の記事を知って、その背景には、子どもをそこまで追い込んでいた親の思い上がった態度があったことを知りました。


 残念ながら「子どもは大人が放っておいても勝手に育つ」そう誤解している大人がいるようですが、それは大きな間違いです。大人から愛されて、初めて子どもは育つのです。