【今回の記事】
 今回は大変(これまで読んだ全ての本の中で5本の指に入るほど)勉強になった次の本を紹介します。
「うつ、ひきこもり、拒食症、パニック、暴力…子供の心の悩みと向き合う本」(KKベストセラーズ)
筆者 森津純子(ひまわりクリニック院長、診療内科医、ホスピス医)

【記事の概要】
A:「まず、一番最初に理解していただきたいこと。それは『うつ、引きこもり、登校拒否、出社拒否、摂食障害、家庭内暴力、境界人格障害、パニック障害などの問題行動を起こす子は問題児ではない』ということです。むしろ彼らは非常に豊かな才能や感性の持ち主。彼らの才能、それは『人の心(感情)を読める豊かな感受性』です。しかし、その才能ゆえに、彼らは社会に潜む、憎しみ、恨み、嫌悪、恐怖、不安敏感に察知し、簡単に傷ついてしまいます。そのため、社会に適応するのがとても難しいのです。
B:「感受性の豊かな子供と付き合うコツは3つです。
①子供の特徴、感じ方、価値観を理解する。
②『立派な親』を止める。
③子供の『問題行動』が目についた時には、まず親自身が『これは自分を映す鏡』と考えて自分の行動を振り返る。そしていつものパターンとは違う行動をとる。」
C:「心の読める子は『大人は言っている事と行動が一致しないことが多い』と思っています。そのため行動と言葉が一致している人を信用します。また、彼らの多くは完璧主義者が多いので、自分の間違いを認めることができません。そのため、逆に、自分の間違いを堂々と認めて謝罪し、適切な対応を取れる人に対しては尊敬の念を持ちます」
D:「一見、訳の分からない子供の問題は、しっかり見つめてみると、親自身も全く同じか、あるいは、正反対の問題を抱えていることがほとんどです。まずは、親御さん自身が問題から目をそらさずに『子供は鏡のように、私自身の問題をわかりやすく映し出しているだけ。私と子供には、どんな共通の問題があるのだろう』と自分に問いかけてみてください。もし思い当たることがあればそれがあなたと子供さんの共通の問題である可能性があります。そして、まずは親自身が自分の問題をクリアすることが大切です。すると、自分の人生も子供の人生も大切にできるようになった時、親子関係が改善するばかりか、親も子供も今まで以上に幸せな人生を送れるようになります」

【感想】
 上記概要「A」等から、どうやら、この本で取り上げられている子どもは、私の知る限りでは、感覚過敏でありながら、他人への共感性も非常に高い「HSC」を指していると考えられます。このタイプは5人に1人程度いるとされています。なお、著者の森津氏ご自身も、子どもの頃このHSCであった(先天性によるものなので今も特質は変わらない)そうで、子どもの頃は、母親から、掃除機の棒で叩かれたり、裸のまま髪を掴まれて引きずり回されたり、柱に紐で縛られたり、ハサミを持って追いかけられ髪を切られたりしたそうです。それに対して森津氏ご自身も、母親を包丁にむけ「あんたを殺して、私も死んでやる!」と叫んだそうです。それだけ、この本の信頼性が高いと言えるでしょう。
 もちろんHSCの子ども全てが、この本で取り上げられているような問題症状を示すわけではありません。これ以後を読むとご理解いただけると思いますが、あくまでも親の養育の仕方によるものです。加えて、森津氏は、「問題を抱える子どもの親に罪があるわけではなく、単に養育の仕方を知らなかっただけ。これから正しい方法を学べば良い」とことわっていますし、この記事でも「どんな養育をすれば良いのか?」ということについて考えたいと思っています。
 また、同じ感覚過敏でも、他人への共感性が過度に低い「ASD(自閉症スペクトラム障害)」の子どももいます。このタイプの子どもも、やはり対人関係でつまずき、社会に適応できなくなるケースが多いと私は感じています。この場合は、状況の空気を読まない言動のために周囲から「変な奴」と思われて、からかわれたり否定されたりすることが多いようです。

感受性の豊かな子供と付き合うコツ
《コツ①》
 さて、先ず、上記概要「B」で記されている「感受性の豊かな子供と付き合うコツ」の「①子供の特徴、感じ方、価値観を理解する」については、言葉であれこれと説明するよりも、HSC子育てあるある うちの子は ひといちばい敏感な子!」(1万年堂出版)で、分かりやすい4コマ漫画で数多く書かれているHSCの言動特徴を見るのが一番早道だと私は思いました。
 基本的に、感覚過敏の症状はASDと似ていますが、決定的に違うのは、周囲の状況に関わる情報」を受け止めるアンテナが、過度に敏感なタイプがHSC(その感受性の高さによって、大人でも気付かないことまで考えることができる)。過度に鈍感なタイプがASDと言えるでしょうか。そのために、概要「A」で述べられているように、社会に潜む、憎しみ、恨み、嫌悪、恐怖、不安を敏感に察知し、簡単に傷ついてしまうのです。
 一方ASDは、自分の身に降りかかる“五感刺激”に対しては過敏に反応しますが、“周囲の状況”を察する社会性は低いのです。要するに、「痛い」「うるさい」等は敏感に感じるのですが、周りの人達が何を考え、どんな出来事が起きているのかについてはあまり感じないということです。そのため「マイペース」という評価が度々下されるのです。

《コツ②》
 次に、「②『立派な親』を止める」については、上記概要「C」がその内容に当たります。要約すると、「自分に足りない面があっても、それを素直に認めることができる親、自分ではそれが出来ない子どもは、逆にそれが出来る大人を尊敬するので、親はそういう人間を目指すと良い」という意味のようです。

《コツ③》
 更に、「③親自身が『これは自分を映す鏡』と考えて自分の行動を振り返る」については、上記概要「D」がそれに当たります。更に、同著「うちの子はひといちばい敏感な子」の中で描かれているような言動特徴のうち、親自身が自分も当てはまると思うものが親子共通の問題であり、そのことを自覚することによって、親子関係が改善されると言うことです。つまり「自分と同じでは苦しいのはもっともだ」と自分の苦しさに置き換えて、子供の気持ちを理解するということです。これは、見方を変えれば、親自身もかつては同じHSC、今もHSP(特徴は子どもの頃と変わらない)であり、それが我が子に世代間遺伝するケースが多いということを暗に指摘しているのだと思います。つまり、親自身が感覚過敏で完璧主義者であるために、子どもに対してもあれこれと注文を出した結果、同じく感覚過敏の子どもが、その刺激に耐えきれずに、ドロップアウトして現在の問題に至っているという経緯を森津氏は指摘しているのです。

引きこもりの子供を復帰に導く3つのステップ
 また、以前別の記事でも紹介しましたが、著者の森津氏は、引きこもりに陥った子どもを復帰に導くための対処の仕方として、次のようなステップを紹介しています。
休むことを最優先にする時期
エネルギーを蓄えるために楽しいことだけをする時期
生活復帰準備をするために、自分のペースをつかみ自信をつける時期

 この①と②は、下表の、問題を抱える「充電場面」にいる子供に対して「安心7支援等によって受容の働きを加えることに当たりますし、③の「自信」についても、その基礎となる自己肯定感は「安心7支援」によって育まれるものです。引きこもりと言う問題に対しても、「安心7支援」による働きかけが如何に大切かが分かります。



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 次回は、同じくこの森津純子氏の著書から、1日中自室にこもり、親に「うるせえ!ほっとけよ!」と怒鳴って暴れる40歳の男性と、洗剤恐怖症でパニックを起こし、時には親に暴力をふるって手がつけられなくなる34歳の女性の事例を紹介します。