【今回の記事】

【記事の概要】
《今週の相談》
 もともと静かで恥ずかしがりやで授業中に手をあげるなどの積極性がありません。「もう少し自分に自信をもって」とか、「間違えたり怒られたりしても勉強になるのだから」と話しているのですが改善されません。性格的な部分が左右するかと思いますがどうしていったらいいでしょう?(りんりん)
《教育評論家親野智可等先生のアドバイス》
 りんりんさん、拝読いたしました。発表が苦手な子がだんだん発表できるようにしてやるためには、いろいろな方法が考えられます。

 学校でできることは、次のようなことです。
・子供たちの人間関係を耕して、安心して発表できる雰囲気のクラスにする。
・おもしろくて楽しい授業を行う。
・朝の会で一文日記や二文日記を言わせて、発表に慣れさせる。「昨日、○○さんとコンビニにお菓子を買いに行きました。買ったお菓子を半分ずつ分けて食べました」。
・発表の前にノートに書かせて、それを読むようにする。
・隣の子と二人で発表する「ペア発表」で、発表に慣れさせる。
・発表できたら、大いに褒めて自信を持たせる。

 家庭でできることは、次のようなことです。
・学校で勉強するところをあらかじめ予習しておくと、授業に積極的になれます。
・一番参考になるのは教科書です。ざっと目を通したり、声に出して読んでおくのもいいでしょう。親子で内容について話し合っておくと効果的です。
・日頃から楽勉を心がけておくと、授業への予備知識が蓄えられます。
・もちろん復習で学力を定着させていくことも大切です。
・日頃から、その子のよいところを褒めて伸ばしてやることです。自分に自信が出てくれば、授業中にも積極的になれます。

 以上のことを提案したうえで、さらにお読みいただきたいことがあります。
 授業中に我が子が積極的に発表しているかどうかということは、親としてみれば気になるところです。授業をリードするほどではなくても、少なくとも普通くらいには発表してほしいとほとんどの親は思っているはずです。
 でも私は、あまり親がそのことを子どもに求め過ぎない方がいいと思います。なぜなら、発表の多い少ないは、ほとんどの場合その子の性格によるものだからです。恥ずかしがりやの子、おとなしい子、引っ込み思案の子というのは、必ずクラスに何割かいます。そういう子は、なかなか自分からは手をあげません。無理に指名されたりしても、はきはきと話すことはできないものです。その反対に、発表が大好きという子もいます。なかには、なんでもかんでも、わかってもわからなくても、とにかく手をあげて発表したいという子もいます。これも性格なのです。前者のような子どもたちにとって、授業中に手をあげて発表するというのは、大人が思っている以上に大変なことなのです。もし、それを親や先生に強制されたとしたら、かなりの苦痛だと思います。
 また、その苦手なところをもとに自分を評価されたら、たまらないと思います。だれにも、苦手なことというのはあるものです。たとえば、私は、整理整頓と計画的に物事を進めるというのが苦手です。いつも、なんとかしのいで生きています。この二つを改善しようと、今まで何度決意したかわかりません。でも、いまだに苦手なままです。苦手なことはなかなか直らないものなのです。また、もしこの二つで私の評価が決められるとしたら、たまったものではありません。これをお読みの皆さまにも、苦手なことはあるはずです。その部分でいろいろつつかれたり、それをもとに評価されたりしたらどうでしょうか?これではたまらないなと思うはずです。ですから、最初の提案を実行しつつも、あまり子どもに求めすぎないようにしてほしいと思います。
 もし、あまりに求め過ぎると、弊害が出てくる可能性があります。例えば、なかなか変われない子にイライラして、叱ることが多くなることなどです。これは大いにあり得ます。こうなってくると、その子のいいところが見えなくなってきてしまいます。もしかしたら、その子は、はずかしがりやで発表は苦手だけど自分のやるべきことはきちんとやる子かもしれません。でも、親が発表が苦手という点を中心に見ていると、そのようないいところは見えなくなってしまいます。これでは、その子を伸ばすことはできません。それどころか、かえって自信をなくしてしまうことになりかねません。これでは、まったくの本末転倒です。
 子どもを伸ばすのに一番いいのは、その子の好きなことや得意なことをどんどんやらせて、そこを伸ばしてやることです。そして、自分に自信をもたせてやることです。

【感想】
「親が発表が苦手という点を中心に見ていると、そのようないいところは見えなくなってしまいます」
「子どもを伸ばすのに一番いいのは、その子の好きなことや得意なことをどんどんやらせて、そこを伸ばしてやることです。そして、自分に自信をもたせてやることです」
との親野先生の指摘、全く同感です。

 このことは、今回のような「恥ずかしがり屋で手をあげられない」というケースに限ったことではありません。どんなことであれ、子どもの苦手な面を焦って直そうとすると、子どもの問題症状は益々深刻化する可能性が高いです。
 逆に、先ずはその子の得意な面を笑顔で褒めて自信をつけさせる(「①充電場面」での「安心7支援」による関わり)と、子どもは自力で、苦手なことにも挑戦しようとする(「②活動場面」での「探索行動」への移行)ものです。この、自力で「充電場面」から回復しようとする力のことを本ブログでは「自力回復力」(下記緑色部)と呼んでいます。
なお、この場合の「自力回復力」は、俗に言うところの「自信」と言えるでしょう。得意な面を褒められたことで、自分に自信を持ち、それまではできないと思っていたことに対しても頑張ろうと思うようになるのだと思います。

 更に、子どもの苦手なことが、その子の先天的な特性によるものであった場合には、それを直そうとしても絶対にうまくいきません。場合によっては子どもがパニックを起こしかねませんし、親子間の愛着(愛に絆)にも傷がつくでしょう。
 親野先生が「発表の多い少ないは、その子の性格によるもの」と指摘しているのは、その意味を込めてお話しされていると思いますし、先生ご自身が「整理整頓と計画的に物事を進めるというのが苦手」「改善しようと、今まで何度決意したかわかりません。でも、いまだに苦手なまま」とおっしゃっているのもそうです。

 この、先天性かそうでないか〜この場合特に「発達障害かどうか」に限定〜の判断は、一定の知識が必要になります。
◯LD(学習障害)は、ある特定の学習技能(読む、書く、計算する等)だけに落ち込みが見られる場合。
◯ADHD(注意欠陥多動性障害)は、多動性と衝動性、不注意に、極端な暮らしにくさが見られる場合。概要やセルフチェック方法については「もしかしてうちの子も?こんな症状がみられたら「ADHD」セルフチェックを」参照。
◯ASD(自閉症スペクトラム障害)は、社会性、コミュニケーション、こだわりや想像力に極端な暮らしにくさが見られる場合。詳細は「自閉症スペクトラム障害の障害特性 一覧 〜本人のわがままではないことを知ってほしい〜」を、セルフチェック方法は「アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム) 診断チェック」参照。

 たとえ症状が障害域ではないにせよ、本人は直そうと思っても直せないで苦しんでいることと思います。ある専門家は「100%健常者と言う人はいない」とも言います。一度お子さんについて、じっくりとセルフチェックされてみてはいかがでしょうか。