【今回の記事】

【記事の概要】
 毎日、家庭における親子のやりとりはたくさんありますが、子どもに何か言ったとき、反発されるとイラッとしますよね。でも、実は反発を未然に防ぐよい方法があります。それは最初に、相手の気持ちをよくする言葉や心をオープンにする言葉を掛けることです。

 クイズ形式で具体的に考えてみましょう。
【問題1】 
 子どもが習い事から、いつもより遅く帰ってきました。何と言いますか。
 A:「何してたの?」
 B:「何かあったんじゃないかと心配になっちゃったよ。何してたの?」
  Aだと、いきなり問い詰める感じになってしまい、子どもの反発を買いやすくなります。Bのように、先ずは心配していた気持ちを伝えることが大事です。それによって、子どもは親の愛情を感じることができ、親の問い掛けにも素直に答えてくれる可能性が高まります。

【問題2】 
 子どもが「○○を買いたい」と言い出しました。何と言いますか。 
A:「この前買ったから無理だよ」 
B:「あれかっこいいよね。欲しくなるよね…。でも、この前買ったから無理だよ」
  Aのように、けんもほろろといった感じで門前払いされると、子どもは不満を感じて反発したくなります。Bのように、先ずは欲しい気持ちに共感してあげることが大事です。テクニックとしてではなく、心から共感してあげましょう。
  でも、買えないときもありますよね。そういうときはたっぷり共感してから、買えないことを伝えましょう。一応気持ちを分かってもらえた後でなら、子どもも受け入れやすくなります。

【問題3】
  子どもが「友達と○○でトラブってる」と言いました。何と言いますか。
A:「大丈夫だよ。□□したら?」 
B:「どうしたの?」「それは嫌だよね」「□□したら?」 
  子どもが何か困ったり、悩んだりしているとき、親はすぐに「大丈夫」と励ましたり、「□□したら?」とアドバイスしたりしがちです。
  でも、それだと、子どもは話しにくくなって、自分がため込んでいるストレスを吐き出すことができなくなります。そして、「自分の話を聞いてもらえない。そんな簡単なことじゃないんだよ。お説教は聞きたくない」と思ってしまいます。 そこで、大事なのは、先ず、Bのように「どうしたの?」などと聞いて、子どもに話す機会を与えてあげることです。その上で、子どもの話に共感しながら、しっかり聞いてあげてください。親が共感すると、子どもは話しやすくなります。
  子どもが十分話すことができたら、最後に励ましたり、アドバイスしたりしましょう。この順番で話すと、子どもは「自分の大変さが分かってもらえた」と感じて、親の話を受け入れやすくなります。

【問題4】 
 子どもが転んで「痛い」と言いました。何と言いますか。 
A:「大丈夫だよ」 
B:「痛いねえ…。でも、大丈夫だよ」
  Aは悪気があるわけではなく、励ますつもりで言っているのです。でも、言われる方は「こんなに痛いのに分かってくれない」と感じてしまいます。 
  そこで、先ずはBのように、痛いことに共感してあげて、その後で励ますという順番にしましょう。子どもは「痛いことが分かってもらえた」と感じられるので、その後の「大丈夫だよ」も受け入れやすくなります。 
  とにかく、言葉は話す順番が大事なのです。

【問題5】 
 子どものプリントで間違いを発見しました。直させるために何と言いますか。  
A:「これ違うから直して」 
B:「すごい。9個も合ってる。1つだけ違って惜しい。さあ直そう」
  いきなり、Aのように言われると、子どもは「イヤ」と反発したくなります。それで、親がまた、「イヤじゃありません。ちゃんと直しなさい」と叱って、子どもが「イヤだもん」となるというありがちなパターン…。 
  それよりも、Bのように先ずは正解している部分を褒めましょう。すると、子どもはうれしくなります。その後で「直そう」と言えば、喜んで直してくれます。 

【問題6】 
 手が離せない作業をしているとき、子どもが「見て見て」と言って絵を見せてきました。何と言いますか。 
A:「ちょっと待ってね」 
B:「上手にできたねえ。ちょっと待ってね」   
   つい、Aのように言ってしまいがちですが、これだと、子どもは拒絶されたように感じ、「見て見て」としつこく言い続ける可能性があります。Bのようにいったん受け止めてあげると、子どもは安心して待つことができます。

【問題7】 
 夕食の時間になったのに、食卓は子どもの遊び道具でいっぱいです。何と言いますか。
A:「これじゃ夕飯が食べられないでしょ。早く片付けて」 
B:「いっぱい遊べたね。これどうやって作ったの?」「上手だね。さあ、片付けて夕飯だよ」 
 時間を忘れて、片付けのことなども忘れて、一心不乱に遊ぶ時間は子どもにとって、とても大切な時間です。こういうときには脳がフル回転していて、シナプス(脳の神経細胞同士をつなぐ接続部)がどんどんつながり、地頭がよくなります。
 また、遊びに夢中になっているときに非認知能力も伸びることが分かっています。ですから、たっぷり遊んだ後で叱るのではなく、先ずは褒めてあげてください。さらに、遊びのことを聞いて、話をさせてあげれば、子どもの表現力が伸びます。その後で片付けさせる、あるいは一緒に片付けるというようにしましょう。

【問題8】
  毎日、子どもが玄関掃除をしているのですが、隅の方にゴミがたまっていました。何と言いますか。
 A:「ちゃんと隅も掃かなきゃダメじゃん」
 B:「いつもありがとう。助かるよ。こっちの隅も掃いといて」
  Aでは子どものやる気はしぼみます。Bのように、最初に「ありがとう。助かるよ」といった言葉を掛けることで、その後の言葉も受け入れやすくなります。
  このようなことは、職場などにおける大人同士の関係なら自然にできるはずです。でも、家庭における親子の関係だとおろそかになりがちです。「親しき仲にも礼儀あり」を忘れているので、一番親密で大事なはずの人間関係が壊れてしまうのです。一番大事な人間関係をおろそかにしないで、もっと大切にしましょう。

  いかがでしたか。最初に相手の気持ちをよくして、心を開いてもらえるような言葉を掛けるだけで、その後の展開が大きく変わってくることがお分かりいただけたと思います。ぜひ、日頃から心掛けてみてください。

【感想】

 本記事冒頭の「子どもに何か言った時、反発されるとイラッとしますよね。でも、実は反発を未然に防ぐよい方法があります」についてですが、実は、この「子どもに何か言った時」という事例は、子どもがお利口さんにしている時ではなく、親が子どもに何かしらの問題を感じた時に、言葉のかけ方を間違えると子どもからの無用の反発を招くと言う指摘です。

 つまり今回の記事は、いつも私が指摘している「問題を抱えた子どもの気持ちの受け止め方」についての考える記事という位置付けで取り上げたいと思います。

 いつもは単発の事例で終わることが多いのですが、今回は8つという多くの事例を通してイメージをより確かなものにできるのではないかと思います。


 さて、いつもは「問題を抱えた子ども」とだけ説明してきましたが、今回の8つの具体例を通して、そもそも子どもが問題を抱えた状態と言うのはどのような状態のことを言うのか、ということについても考えたいと思っています。

 今回あげられた問題状況は次のようなものでした。

・習い事からいつもより遅く帰ってきた

・「○○を買いたい」と(急に)言い出した

・友達と○○でトラブっている

・転んで「痛い」と言った

・プリントで間違いをしていた

・親が手が離せない作業をしている時に「見て見て」と言って絵を見せてきた

・夕食の時間になったのに食卓の上を片付けていない

・毎日の玄関掃除で隅の方まできれいにできていない


このような問題状況は、日常生活の中で数え切れないくらいあります。親御さんはそのたびにイライラすることが多いのではないでしょうか。それだけ、今回の記事から学ぶ事は、多くの場面で役に立つということが言えると思います。


 さてここで、本記事の中で繰り返し登場する「先ずは」「その後」という順序を表す言葉に注目しましょう。

「先ずは」に続く言葉は、上記鯨岡氏が「はじめに子どもに働きかけるべき」と指摘する「①養育」(受容)の働きに当たるものです。そして「その後」に続く言葉は「②教育」(指導)の働きに当たるものです。

 以下は、「問題1」から「問題8」までの適切な方の支援です。赤文字が「養護(受容)」の働き、緑文字が「教育(指導)」の働きです。
何かあったんじゃないかと心配になっちゃったよ何してたの?
あれかっこいいよね。欲しくなるよねでも、この前買ったから無理だよ
どうしたの?」「それは嫌だよね……したら?」 
痛いねえ…でも、大丈夫だよ
すごい。9個も合ってる。1つだけ違って惜しいさあ直そう
上手にできたねえちょっと待ってね
いっぱい遊べたね。これどうやって作ったの?」「上手だねさあ、片付けて夕飯だよ
いつもありがとう。助かるよこっちの隅も掃いといて

 いかがでしょうか。「①養護(受容) → ②教育(指導)」というイメージがだいぶ定着したのではないでしょうか。
「受容」の言葉をかけられた子どもは安心感を覚えたことによって心に余裕が生まれ、親からの指導を受け入れる準備が整うのでしょう。これも「充電場面」にいる子どもが「受容」という愛情エネルギーを受けた後に「活動場面」に移動しようとする「自力回復力」によるものかもしれませんね。
【号外】
 NHK「エール」で、裕一に弟子入りした五郎と遊んでいた華が、音の妹の梅から「うるさい!」と怒鳴られ泣いた時に、五郎が幼い華にかけた言葉も
びっくりしたねでも泣かないで
五郎やるな〜😅