【今回の記事】
「母という病」岡田尊司著(ポプラ新書)より

【記事の概要】
 深刻な愛情飢餓を抱えた人は、相手をよく見定めることもなく、寂しさを紛らわせる存在につかの間の満足を求めていく。ちょうど餓えた人が、口に入るものなら、どんなものでもおいしいと感じてしまうように。空疎なものであれ、耳障りの良いフレーズや「愛している」と言う言葉を聞くと、それを真に受け、それにすがってしまう。本をたどれば母親から愛されなかったことに行き着く。
 愛されないことは、愛情飢餓を生むだけではない。困った事やピンチに遭遇した時に、助けを求めて甘えることを難しくする。愛美(精神科医岡田氏のクライアント)がいつもぼやいていたのもその事だった。上手に甘えられない。「良い子」に振る舞ってしまうか、反抗して「悪い子」になってしまう。母親に対してもそうだが、(児童養護)施設の職員に対しても、そうなってしまう。「どうして甘えられないんでしょう。上手に甘えている人を見ると、イライラしてくる。こっちは我慢しているのにと思って腹が立ってくる」
 幼い頃に甘え損なった人は、大きくなってからも、甘え下手になりやすい。甘えていいはずの人に甘えられず、一番危険な人に助けを求めてしまううわべだけ見れば、一番危険な人が、一番優しそうに振る舞うから。本当の愛情と言うものを知っている人なら、簡単に見破ることができる見せかけの愛情に引っかかってしまうのだ。「母」と言う病が生んだ悲しい性だ。

【感想】
 上記のような「愛情飢餓」に陥る人の「元をたどれば母親から愛されなかったことに行き着く」の「母親から愛されなかった」とは、具体的に母親のどのような養育態度のことを指すのでしょうか?

「愛情飢餓」を生む養育
 この記事に登場する愛美さんのように「甘えたいのに甘えられない」というタイプの人は「不安型」の愛着不全だと考えられます。「不安型」は両価型」とも言われるものですが、これこそ、母親に甘えようとする一方で、逆に激しく抵抗するという、両極端の態度をとることから名付けられたものです。
 この「両価型」の人の成人後の主な症状
終始周囲に気をつかっている
「愛されたい」「認めてもらいたい」という気持ちが非常に強い
というものです(詳細は「愛着の話 No.29 〜大人の愛着スタイル ③不安型愛着スタイル〜」を参照)。他者からの評価を気にして、いつも嫌われないように、とにかく愛されるように気を使っている、正に「愛情飢餓」という表現が的を得ていると言えるでしょう。

 更に、このタイプの人の子ども時代の親の養育タイプについては、次のような養育が挙げられます。
母親自身が、不安が強かったり神経質だったりするために、子供を甘やかしたりする一方で、逆に思い通りにならないと子供を叱責したり突き放したりするという一環しない態度をとる」(詳細は「愛着の話 No.24 〜子供の愛着パターンのタイプとその原因 ②〜を参照)

ダメな異性に近づく愛情飢餓の心中
「耳障りの良いフレーズや『愛している』と言ううわべだけの言葉を口にする危険な人に助けを求めてしまう」という愛情飢餓の「不安型」愛着不全の人達は、幼少期から予測不可能でイレギュラーにやってくる親からの叱責と称揚に振り回されます。
 親が子どもに関心がなく、いつも叱られてばかりいる「回避型」の子どもであれば「親に褒められよう」とも思わず諦めるのですが、いつどんな時に褒められるか分からない「不安型」は、いきなり現れる称揚に対して「褒められるならどんな事でも構わない」とばかりに瞬時に飛びつくでしょう。「口に入るものなら、どんなものでもおいしいと感じてしまう飢えた子どものよう」という岡田氏の例えの通りです。
 そういう経験をするうちに、たとえ表面上であっても自分を認めてくれる対象に依存してしまう気質が生まれてしまい、特に強固な愛着を求める異性に対しては、親と同様な依存性を示してしまうと考えられます。

愛情飢餓をつくらない「無条件の愛」
 親が、予測不能な叱責と称揚を繰り返すうちに「親が褒めてくれることをしよう」と親に依存する「不安型」愛着不全。これを防ぐためには、どうしたら良いでしょうか?

 先ずは「不安型」の子どもの親にありがちな養育、褒めたり叱ったりする基準が気分次第にならないように、親自身の中で一貫した基準を意識する必要があると思います。

 ただ、それでも「失敗」に対する対応の仕方次第では、子どものストレスになってしまう場合もあると思います。特に感覚過敏の子どもの場合はその傾向が顕著になるでしょう。もっとシンプルな対応を考えた方がベターだと思います。
 この場合には、子どもが失敗しても一度目は叱らず励まし、二度目に直せれば褒める」、いわゆる“注意猶予”の考え方に注目することが得策だと思います。この考え方によれば、子どもは「親は自分のことを『失敗を活かして二度目には直せる子』と信頼してくれている」と認識して、失敗・成功に関係なく親を信頼し、顔色をうかがうようなことはなくなります。
 なおこの考え方は、「成功した時だけ褒める」という条件付きの愛情ではない、いわゆる「無条件の愛」と呼ばれるものです。
(講演用スライドより)
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 子どもは失敗するのが当たり前の生き物です。その特性に合った養育をしないと、子どもに異常が発生するのは当然のことです。何よりも、大人は「失敗は成功の元」と教えているはずですしね。