私は、これまで数多く(1000件近く)の愛着不全事例の改善策を考察する中で、なぜか母性の「安心7支援」と父性の「見守り4支援」が多く登場することに気づき、更に、二大愛着不全(「回避型」と「不安型」〜「混乱型」はこれらの併発)の特徴と父母両性の意義との間に関連性があることから、父母両性の働きが不十分であることが二大愛着不全に至る原因ではないか、という仮説を立てるに至っています。

 因みに、この2つの愛着不全と父母両性との関連性については、私が度々引用・参考にしている文献著者の岡田尊司氏が指摘しているものではありません。ただ、人類に限らず、多くの生物が両性の協力によって子育てをしていますし、何より、愛着不全に陥らない家庭は約7割もあり、それだけの家庭で行われていた養育は、決して何か特別なことではなく、通常の母親と父親の働きによるものであったと推測できます。
 しかし、子どもを産んだ後どちらか一方だけが子育てに携わる稀な生物もいるようですし、「約7割」の家庭での事実が、100%両性の働きによるものであると断言も出来ません。

 そこで今回は、更に信頼性を高めるために、二大愛着不全が始まった時代にさかのぼって、そのきっかけとなった出来事を調べ、父母両性の欠如と因果関係があるのかないのかについて調べたいと思います。いわゆる「古きを訪ねて新しきを知る」という温故知新」の考え方ですね。

 以下に、過去投稿記事「愛着の話No.36~愛着崩壊のスパイラル~」でも引用文献とした岡田尊司著「愛着崩壊~子どもを愛せない大人たち~」(角川選書)での以下の記述を基に調べたいと思います。(下線部は遠藤による)
 
「愛着崩壊の最初のステップは、工業化によって、それまでの農業を基盤とする社会の構造が大きく変化したことであった。それが日本で急速に進んだのが、50年代半ばから70年代初めにかけての高度経済成長期においてである。
 家族が共に子育てし、共に働いていた農村から、若者たちは、働き手として都市に流入する。中学を出たばかりの若者が、集団就職列車で大都市に大量供給され始めたのが1954年からである。彼らがその後の高度経済成長を支えることになる。団地やアパートに暮らし、工場に通勤するサラリーマン世帯となった彼らは、核家族の家庭を築いていく。60年代頃から、核家族世帯が増え始めるのである。父親は不在がちで、専業主婦の母親が子育てや子どもの教育を引き受けることとなった。

70年代初め、巨大な団地やニュータウンが、次々と造成され、人々は新しい生活を夢見て、そこに移り住んだ。核家族への移行が更に加速することになる。
 家族の形態の変化は、愛情にも変容をもたらした。母親一人に子育てが委ねられることによって、母親の負担は増し、ぜい弱な構造が用意されることになる。歴史的に見れば、核家族専業主婦と言うものは、むしろ異常な子育ての形態だと言ってもいいだろう。子育ては、そもそも母親一人で行うというよりは、家族全体で行うものであった。母子の密着や母親からの心配が起こりやすくなり、また万一母親に問題が生じた時、補うことが難しくなった。」
 
 さて、これらの記述の中で、ポイントとなるのが、以下のような子育ての形態の変化だと思います。
「高度経済成長期以後の核家族化までは、農村で家族が共に子育てしていた
「子育ては、そもそも母親一人で行うというよりは、家族全体で行うものであった
「核家族化によって、祖父母とは別居し、父親は工場に通勤し不在がちになり、結果的に子育ては専業主婦だけに押し付けられるという歴史的に見て異常な子育て形態がみられるようになった」
 
 この「高度経済成長期以後の核家族化までは、農村で家族が共に子育てしていた」という形態は、以前NHK「チコちゃんに叱られる」の放送の中で紹介された「共同養育」そのものです。高度経済成長期まで、それがずっと当たり前だった日本が、子育てが専業主婦だけに押し付けられるという“歴史的な異常事態”に陥ったのです。
 更に、現代の核家族の中で「共同養育」をしようとした場合、「共同」の対象となるのは父親だけになるのですが、未だに育児休業を取得する父親の割合が6.16%という実態であり、母親だけに子育てが押し付けられ、父親は不在という子育て形態は相変わらずなのです。
 つまり、現代に至る問題の始まりは、「父親が育児に関わらず母親だけに押し付けられている」という子育て形態に原因があることは間違いありません。
 
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 問題の所在は、父親と母親の子育てへの関わり方という“子育ての形態”にあるということは分かりました。
 次の関心は、その子育て形態と、「回避型」愛着不全や「不安型」愛着不全との関連性です。それらを確かめると、今私達が日本の過去から何を学ばなければならないかが見えてきます。

 この続きは明日お伝えします。