【今回の記事】

【記事の概要】
   子どもから親への家庭内暴力が年々増えている。今年は、家庭内暴力に悩まされていた元農水省事務次官が、「他人に危害を加えないために」という理由でわが子を殺害したという事件も起こった。2018年版「犯罪白書」によると、少年による家庭内暴力事件の認知件数の総数は、2012年から毎年増加しており、2017年は2996件(前年比12.0%増)であったという。こうした子どもによる家庭内暴力の最大の原因は何か。精神科医の片田珠美氏は著書『子どもを攻撃せずにはいられない親』で、「子どもをいい学校、いい会社に入れなければいけない」と思い込む「勝ち組教育」にこそ最大の原因があると説く。
(以下、片田氏の著書からの抜粋文章)
 
「勝ち組教育」にこだわる価値観
   家庭内暴力の殆どのケースで「親への怒り」が一因になっていることは間違いないだろう。親に怒りを抱かずに暴力を振るう子どもは殆どいない。
   では、何が子どもの怒りをかき立てるのか。もちろん、子どもへの暴力や暴言、無視やネグレクトもその一因なのだが、それだけではない。(親が)「いい学校」「いい会社」に入ることこそ幸福に繋がるという価値観にとらわれ、勉強を最優先させる「勝ち組教育」が(子どもの怒りを買う要因として)かなり大きな比重を占めているという印象を私は抱いている。不登校やひきこもりの若者たちの再出発を支援するNPO法人「ニュースタート事務局」代表の二神能基氏も、「『勝ち組』になるしか生きる道はない」という狭い価値観によって、子どもを追い込むような教育のあり方を問題にしており、「『勝ち組教育』がすべての根源」と主張している。
   もちろん、どんな親でも「子どもを勉強のできる子にしたい」「子どもをいい学校、いい会社に入れたい」等と願う。この手の願望の根底には、子どもの幸福を願う気持ちだけでなく、「子どもを『勝ち組』にして自慢したい」「子どもが『負け組』になったら恥ずかしい」という気持ちも往々にして潜んでいるが、殆どの親は自覚していない。こういう不純な気持ちも入り交じっているので、「勝ち組教育」にこだわる親は、子どものありのままの姿をなかなか受け入れられない。中には、できの悪い子どもは自分の子とは思いたくない親もいる。
   こういう親の気持ちは、口に出さなくても、以心伝心で子どもに伝わるものだ。もちろん、(隠すことなく)「なんでお前はできないんだ」と子どもに言う親もいるだろう。いずれにせよ、「勝ち組教育」にこだわる親によって子どもも洗脳され、「『勝ち組』になれなければだめなんだ」と思い込むようになる。
 
「いい学校」に入ったのに不登校に
   それで一生懸命勉強して、うまくいっている間は問題が表面化することはない。だが、一握りの極めて優秀な人を除けば、ずっと「勝ち組」でいられるわけではない。いつか、どこかでつまずくときがやってくる。そういうとき、親の「勝ち組教育」によって洗脳された人ほど、なかなか立ち上がれない。頑張って「いい学校」に入ったのに、ささいなきっかけで不登校になって長期化することもあれば、せっかく就職した会社を辞めた後、「いい会社」にこだわり過ぎて再就職先が見つからないこともある。これは、「『勝ち組』になるしか生きる道はない」という狭い価値観を親から刷り込まれてきたせいで、つまずいた時に、別の道を思い浮かべることも探すこともできないからだろう。仮に別の道を選んだとしても、それまでの自分を支えていた「勉強ができる」というプライドが災いして、「自分は『負け組』だ」というコンプレックスに常に苛まれる。それが、そこからはい上がろうとする気力をそぐこともある。

   そういう事例を精神科医として数多く診察してきた。だから、「『勝ち組』になるしか生きる道はない」という価値観を子どもに押しつけ、狭い一本道に追い込んできた親は、自らの「勝ち組教育」のせいで立ち直れなくなった子どもが家庭という密室で暴力を振るい、暴君と化し、親を奴隷のように扱うようになったら、それを“子どもからの復讐”と受け止めるべきだと思う。そして、自分が正しいと信じてきた価値観に疑問符を打たない限り、子どもの暴君化を止めることはできないだろう。
 
過干渉でも心の触れ合いがなかった
   例えば、幼い頃から勉強を強要され、友達と遊ぶこともできなかったとか、成績が悪いと口をきいてもらえなかったとか、少しでも口答えすると、「親に向かってどういう口のきき方をするんだ!」と怒鳴られたという話を聞くことが多い。また、子どもが挫折や失敗に直面したときには、親は慰めるどころか逆に「どうしてできないんだ」「どうしてそんなにだめなんだ」等と叱責した、という話もしばしば聞く。こういう家庭環境では、常に緊張感が漂っていただろうし、子どもが安心感を得るのも難しかっただろう。
   精神障害者移送サービスの「トキワ精神保健事務所」を創業した押川剛氏も、「家庭内ストーカーとして、『暴君』と成り果てている子ども達も、その生育過程においては、親からの攻撃や抑圧、束縛などを受けてきている。過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、強い孤独を感じながら生きてきたのだ」と述べている。まったく同感だ。つまり、「親からの攻撃や抑圧、束縛など」への復讐として子どもが「家庭内ストーカー」になったという見方もできるわけで、親の自業自得と言えなくもない。
 
【感想】
「勝ち組教育」の罪
   親の目的が「勝ち組」、それ自体にあると、成績の良くない我が子を受け入れることができなかったり、その考えに染まった子どもが、成績の低下や離職などでつまずくと、「自分は『勝ち組』になれなかった」という意識にとらわれ、そこから立ち直ることができない。再就職先も、「いい会社でなければ入りたくない」と言う“こだわり”のために、なかなか見つからない…。親が子育ての“目的”をはき違えると、子供の将来にまで悪影響を与えるのですね。
   また、「自らの『勝ち組教育』のせいで立ち直れなくなった子どもが家庭という密室で暴力を振るい、暴君と化し、親を奴隷のように扱うようになったら、それを“子どもからの復讐”と受け止めるべき」との指摘があります。つまり、家庭で暴れる態度を“子どもの責任”として考えていると、子どもの反発心をあおる結果になるということでしょう。親がどうのように認識しているかによって、問題がさらに深刻化するか否かが決まるのです。
 
親はどんな価値観を持つべきなのか?
   今回の記事で述べられていることは、皆さんもどこかで聞いたことがあるものではなかったでしょうか?
   しかし、本ブログの最大の趣旨は、「親は具体的にどうすればいいか?」を明らかにすることであると考えています。
 
   片田氏は、「『いい学校』『いい会社』に入ることこそ幸福に繋がる」という価値観にとらわれている親が多いと指摘します。しかし、「『いい学校』『いい会社』に入らないと、我が子が将来生活に困ることになるのでは?」と考えることは、ごく自然な事のように思います。一体、親はどんな“子育て観”を抱けばいいのでしょうか?
 
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   またもや長くなってしまったので、続きは明日お話ししたいと思います。
   因みに、「記事の概要」は元記事の半分ほどに省略しています。主に、家庭内にひきこもる子どもの暴力化に関わる内容をカットしました。