.各問題に対する改善策
※先の「1-(3)」で紹介した岡田氏の考え(各愛着不全タイプに陥る要因)を基に遠藤が考案

(1)「回避型愛着タイプ」がひき起こす問題に対する改善策(発表の柱①)
“母性”の働きを持つ「安心7支援」
「回避型」愛着タイプは、子供に対する親の無関心や否定感、言わば子供への親の愛情が不足している(子供との心の距離が遠すぎる)ために陥るタイプである。これを改善し、更に伴って起きる先述の問題(3-(1))を引き起こさないようにするためには、親が子供と安定した愛着を結ぶための具体的な支援方法が必要であると考える。
そこで本稿では、愛着研究に携わる5名の専門家(岡田2011)(ヘネシー2004)(平山2011)(菅原2007)(八尾)が提唱する、安定した愛着形成を促進する行為の中から、ある程度共通し重要と思われるものをピックアップした7つの支援行為を「安心7支援」として以下のように定義した。

子供がスキンシップを求めてきた時には子供とスキンシップを図る(安心感を与える効果が最も大きい。頭をなでたり手をつないだり等の何気ない行為のほか、「5分間抱き」等を毎日のルーティンとすると愛着形成の機会が確実に保証される。)
子供に声をかけられた時には子供を見る(特に、スマホ等のモバイル機器に気をとられないよう注意する)
子供を見る時には子供に微笑む(「安心7支援」の行為の中で最も日常的に実践でき、子供に対する親の印象を劇的に変えることができる)
子供に指示や注意をする時には子供に穏やかな口調で話しかける(「…しようね」の言い方が相応しい。「しなさい」(命令)「してはいけません」(否定)は子どもの不安感を招くため相応しくない)
子供から話しかけてきた時には子供の話をうなずきながら聞く(できるだけ「そうだね」等と共感する)
子供が以前と比べて良くなった時には子供を褒める(親の絶対評価で子供を評価せず、個人内評価で対応する)
以上の中でやると決めたものは、気分でやったりやらなかったりしない(子供にとって親の態度が予測可能となり、安心して生活できるようにする)

   これらの行為は、誰もが普段から行っているものばかりである。しかし、それはあくまで“無意識”であり、不意に子供を見たと思っても、その後またスマホに気をとられればすぐに視線を外してしまう。しかし、実はそれらの行為が子供との愛着を築くうえで重要なものであると分かれば、より意図的に愛着形成を行うことができると考える。
   また「安心7支援」には、日常的にできる行為が複数あるため、その時々の場に応じて行為を選ぶことができる。例えば、部屋にひきこもっている我が子に対して、顔を合わせることができなくても、ドア越しにでも「穏やかな口調で話しかける」ことができる。また、親自身が、今自分に出来るものを選んで実践することも可能。
   また、世の中には、例えば「子供にもっと愛情を注ぐべき」「子どもに寄り添う態度が必要」等ということは分かっていても、「具体的にどうすればいいのか」ということについては分からず困っている親が多いとよく耳にする。そのように「どのようにすればいいか」という抽象論ではなく、「安心7支援」のように「いつ、何をすればいいか」という具体的な方法を定義することによって、より多くの親が取り組みやすくなると考える。
   更に、親が自分と子供とを愛着で繋ぐ「安心7支援」による行為は、母親が子供の求めに応じてそれを受け入れ応答する“母性”の働き(岡田2012)と、“親が子供と自分を結びつける”という点において共通するものと考える。そこで本稿では、「母性の働きとは、『安心7支援」の行為によって子供との間に安定した愛着を形成することである」と定義すると同時に、これらの「安心7支援」による行為を母親による愛情行為と捉えることによって日常の実践に活かす。

(2)「不安型」愛着タイプがひき起こす問題に対する改善策(発表の柱②)
“父性”の働きを持つ「見守り4支援」
「不安型」愛着タイプは、子供に対する親の過干渉や愛情の偏り、言わば子供に対する親の思いが強すぎる(子供との心の距離が近すぎる)ために陥るタイプである。これを改善し、更に伴って起きる先述の問題(3-(2))を防ぐためには、子供と適度に距離を保ちながらも、子供が将来に生きる力を獲得できるようにするための具体的な支援方法が必要であると考える。
株式会社「ゆめかな」代表取締役の石川尚子氏は、大人が子供を信じて子供に任せる「コーチング」を提唱している(石川2017)が、本稿では、その石川氏の考えを更に一般化・具体化したものとして、以下のような「見守り4支援」という支援行為を考えた。
子供の力でできる活動の時には子供に任せる(怪我に繋がりそうなときは除く)
一度子供に任せると決めた活動中は子供を見守る(怪我に繋がりそうな時や子供から助けを求めてきた時以外は、我慢して子供の様子を見守る)
子供からSOSを求めてきた時には子供に穏やかな口調で教える(「…しようね」の言い方が相応しい)
子供が上手にできた時には子供を褒める(親の基準で評価せず、小さなことでも褒める)

   なお、上記の③は、いじめによる自殺問題に対する重要な配慮でもある。白梅学園大学の増田修治氏は、「世の中の親は、子供に『強くあれ』と願いすぎる。そのために、自分がいじめられた時に“自分の弱さ”を親に知られたくないと思い、親に相談できずに命を断つケースが多い」と指摘している。そこで、「SOSを求めれば親は受け止めてくれる」と子供に認識させる、そのための配慮でもある。
   また、子供との間に適切な距離をおき子どもの求めに応じて助言を与える「見守り4支援」の働きは、父親が子供に世の中のルールや責任を守ることを教え、社会に適応できる力を養う“父性”の働き(岡田2015)と、“親が子供に自立を願う”という点において共通するものと考える。そこで本稿では、「父性の働きとは、『見守り4支援』の行為によって子供との間に適度な距離をおき子供の求めに応じて助言を与えること」と定義する。

(3)「混乱型」愛着タイプがひき起こす問題に対する改善策(①と②の併発)
○上記「安心7支援」と「見守り4支援」によって、先述の問題(3-(3))に陥らないようにする。

(4)上記愛着不全タイプ全般に関わる改善策
“注意猶予”による段階的な子供への指導(重要!)
   本来子供というものは失敗するのが当たり前であるが、今の子供達は、失敗のたびに厳しい叱責を受け、いつも“不安感”に悩まされている。このことは、“安心感”を保証するはずの愛着の形成を大きく妨げるものである。
   そこで、始めの失敗は優しく受け止め、同じ失敗を繰り返した時に注意する。更に、その“注意のルーティン”を子供に予告しておき、親もその通りに注意する。そうすることで、子供は「もし失敗しても、次に直せば大丈夫」という見通しを持つことができるため、安心した生活を送ることができる。叱られないチャンスを与えられた子供は二度目には直し、親も余計な叱責をすることが少なくなると考える。