家庭に見られる具体的な問題
※岡田氏等の考え(岡田2012)(繁田1987)を基に遠藤が分類

(1)「回避型」愛着タイプを生む親の養育(発表の柱①)
子供の安心感を奪う否定的・支配的養育(岡田氏が、愛着を傷つけるうえで最も典型的な養育と危惧するもの。「うるさい!」「はやくしなさい!」「何回同じことを言わせるの!」等、親が何気なく使う乱暴な言葉が、親から「安全基地」としての機能を奪う)
子供に対する親の無関心(ネグレクトを含む)
特定の人」の存在が保障されない頻繁な養育者の交代(保育所等での養育環境)

(2)「不安型」愛着タイプを生む親の養育(発表の柱②)
子供をかまう時と無関心な時との差が大きい場合
親が神経質で厳しく過干渉な場合

(3)「混乱型」愛着タイプを生む親の養育(①と②の併発)
親のその時の気分次第の予測不可能で過度に厳しい叱責による養育
虐待や体罰による養育
 

.愛着不全タイプが生む様々な社会問題
※岡田氏等の考え(岡田20122016)(ヘネシー2004)を基に遠藤が分類
(1)「回避型」愛着タイプがひき起こす問題(発表の柱①)
人間関係能力の欠如周囲に対する不信感や恨みが要因になって起きる問題≫
学校や職場からの孤立や不適応(自閉症スペクトラム障害に酷似した症状を示し、特に人間関係においてトラブルを起こしやすい)
  • 第二反抗期に起きやすい不登校(「何してるの!」「ちゃんとしなさい!」等の否定的・支配的養育を幼少期から受けてきた子供が第二反抗期を迎え体格的に親に勝るようになった時に、それまで溜めてきた怒りを親にぶつけた結果、社会性が欠落した自分にとって苦手な生活環境である学校に行きたくないというわがままが通ってしまう場合がある)
各種依存症問題(心の拠り所となる「安全基地」としての愛着を獲得できなかった子供は、ストレスが溜まると、本来愛着によってもたらされるはずの安心感に代わる対象を得るために、ゲーム、アルコール、薬物等に手を伸ばし、それに没頭する場合がある)
結婚回避による少子化問題(以下は、岡田氏、ヘネシー氏の文献からの引用)
愛着が関与する重要な局面は、性行動や子育てである。(中略)性行動や子育ての問題は、人間においては、虐待や非婚化、セックスレスといった問題として浮上してくる。」(岡田2012
「『誰も自分を守ってくれなかった』という不安は、成長過程で未来に対する絶望感、環境に対する怒りとして現れ、心から人生を楽しむことができない。(中略)「誰も自分を守ってくれなかったから、自分で自分を守らねば」という気持ちから、自分の環境を支配しようとするのも愛着障害の特徴のひとつ。(中略)虐待を受けた子供は『親から愛されなかったのは自分に何か欠けていたのだ、虐待される必要のある悪い子だった』と自分を責め、自分に自信がなく人間関係や人生に否定的。」(ヘネシー2004)※それぞれアンダーライン部は遠藤
   即ち、乳児期の経験から「母親さえ自分を救ってはくれなかった。ましてや他人などは当てにできるはずもない」と本能に刻み込んだ子供は、成人後も、異性と新しい家族を築き子どもを育てようという前向きな考えを持てなくなると考えられる。

(2)「不安型」愛着タイプがひき起こす問題(発表の柱②)
他者に対する不安感が要因になって起きる問題≫
各種依存症問題(同上)
「良い子症候群」及び「毒親」問題(遠藤)(幼い頃から親の価値観を押し付けられて育った子供は、無意識のうちに「親から喜ばれるためにはどうすればいいか」と考え、成人しても親の考え方に縛られる場合がある)

(3)「混乱型」愛着タイプがひき起こす問題(①と②の併発)
他者に対する憎悪感が要因になって起きる問題≫
境界線パーソナリティー障害(人格障害)や凶悪犯罪(対人関係を避けて引きこもろうとする「回避型」の面と、人の反応に敏感で見捨てられる不安が強い「不安型」の面の両方を抱えているため、対人関係はより複雑化し不安定になりやすい。その結果、場合によっては被害妄想や精神錯乱状態に陥ることもある)
我が子や子供に対する虐待(幼い頃に親から虐待を受けた子供は、心の中にそのことに対する怒りの感情を溜め込み、成人し自分が親になった時に、我が子に対して虐待行為としてその感情をぶつける場合がある)

(4)複数の愛着不全タイプが関わっている問題
ひきこもり問題(昨年行われた40歳から64歳を対象にした引きこもり調査によれば、引きこもりになったきっかけとして最も多かったのが「退職」、次に「人間関係」であった。調査の結果、「退職」の背景には、職場環境や社会状況の“変化に適応する”力が不足していたことが挙げられた。親が子供を自分の意のままに動かそうとしていたために「不安型」愛着タイプに陥った人は、自分で考えたり判断したりすることが苦手であり、予想外の環境の変化に適応できない場合が多いと考えられる。また、愛情不足が原因で陥る「回避型」愛着タイプの人が最も苦手としているのが“人間関係”であり、これが不足していた場合に退職に至るリスクが増えると考えられる)
離婚に伴う貧困家庭の増加(「回避型」や「不安型」という愛着不全同士の男女が夫婦になる確率は50%を超える。この愛着タイプの違いが、夫婦生活の継続に決定的な悪影響を与えている(岡田2011))
いじめの加害者化(遠藤)等の非行行動(特に、いじめは加害者が溜めたストレスの発散行為とされる(滝1996)。安定した愛着を形成できなかった子供は、安心感を失うことで多くのストレスを抱えることになる。それらをいじめ行為によって他者に対して発散するケースが多いと考えられる。行政がいじめを防止する法律を整備したり、学校でいじめについての研修会が盛んに開かれたりしているにも関わらず、依然としていじめ行為が無くならないのは、問題の要因が、“公”の力が及びにくい家庭という場にあるためではないか?)