さて、今回は本当なら「日本家庭教育学会 参加旅日記(その3)」を投稿するはずでした。ところが、その投稿記事を作成していたところ、私の発表内容について紹介しておかなければ理解していただけない点があることに気が付きました。
   そこで急きょ、今回から4回、4日連続に渡って、学会で発表した原稿を紹介することとしました(「参加旅日記(その3)」はその後に投稿します)。これまでブログで紹介してきた内容が多く含まれていますが、中には、これまで「愛着7」や「自立4支援」として紹介してきた支援方法を一部加除修正している点もありますから、改めて現在の家庭教育が抱える問題点やそれに対する改善策について、正しい全体像を見ていただく機会とすることができると考えています。
   なお投稿する内容は、学会のレジメに掲載されたものに、当日の発表の際にスライドや口頭で付け加えた内容もプラスしたものになっています。
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◯冒頭パワーポイントスライド
~遠藤暢宏(Endo Nbuhiro)自己紹介~
・岩手県内の小学校で31年間勤務後、健康上の理由から退職
・勤務中の19941995両年度にわたり、兵庫教育大学大学院で大学院生として長期研修(数学教育に関わる研究)
・勤務中の201419日~315日に、県からの派遣により国立特別支援総合研究所(神奈川県横須賀市)で研修(主に自閉症スペクトラム障害の指導の在り方についての研修)※言わば“安心欠乏障害“ともいえるこの自閉症の指導法は、安心を保証する愛着を形成する方法を考えるうえで大変有効でした。
・現在は在宅にて、SNS(「Nobuhiro Endoのブログ」) での教育情報の発信を中心に、県内の大学や教育研修団体等からの講師依頼への対応

◯以下、発表原稿
(発表テーマ)
愛着理論に基づく父母両性の働きを具現化する家庭教育の在り方
―いじめ、ひきこもり、虐待、少子化、他様々な社会問題の改善のためにー

.愛着理論
(1)愛着とその重要性
   精神科医の岡田尊司氏によれば、「愛着」とは、親と子供とを繋ぐ“愛の絆”であり、その絆で繋がっている時、親は子供が安心して過ごすことができる「安全基地」としての役割を持つ(岡田2011)とされている。以下は岡田氏の文献からの引用。
「安定した愛着が生まれることは、その子の安全が確保され、安心感が守られるということでもある。(中略)子供は、愛着という『安全基地』がちゃんと確保されている時、安心して外界を冒険しようという意欲を持つことができる。逆に、母親との愛着が不安定で安全基地として十分機能していないとき、子供は安心して探索行動を行うことができない。その結果、知的興味や対人関係においても、無関心になったり、消極的になったりしやすい。」(岡田2011)※アンダーライン部は遠藤
   即ち、この「安全基地」がもたらす“安心感”は、子供が自己肯定感を持ちながら前向きな社会生活を営む上での源と言える。
   また、愛着は「第二の遺伝子」とも呼ばれ、乳幼児期に獲得された愛着がもたらす安心感は、成人後までも子供の人格形成に好影響を及ぼす(岡田2011)。とりわけ影響を及ぼすのは人間関係能力面であり、更には、知能面、自立面、自制面、社会への参加態度、非行や犯罪、成人後の異性関係、精神的・身体的健康面、ゲーム・ギャンブル・アルコール等への依存性等、多岐にわたる(岡田20112012)(繁田1987)。一方で、愛着の喪失による“不安感”は、逆に子供の成人後まで悪影響を及ぼすことになる。以下は、岡田氏の文献からの引用。
「(生まれて間もない時期に)愛着対象を失うと、子供は最初探し出そうとしたり、泣きわめいたりして愛着対象を呼び戻そうとする。(中略)『抵抗』と呼ばれる段階である。しかし、それでも愛着対象が戻ってこないという現実を突きつけられると、子供は泣くのをやめるが、しょんぼりと落ち込み、見捨てられたことに打ちひしがれている。(中略)『絶望」の段階である。更に時間が経つにつれ、愛着対象への執着は薄れていき、求める気持ちも淡いものになっていく。やがて、それはかすかな痕跡だけを残して、心から消えていく『脱愛着」の段階に達したのである。愛着対象を求め続けることは、生きていくことを困難にするだけである。生き延びるために、子供は愛した存在への執着を心から消し去ったのである。」(岡田2012)※(  )部とアンダーライン部は遠藤
   即ち、特に乳児期に母親から愛されない子供は、自分が無力だからこそ、「人を当てにすることは自分の命の危機に繋がる」と自分の本能の中に刻み込む。それが「第二の遺伝子」として働き、一生にわたって他者を当てにしない行動をとり続けるのだろう(エリクソンの乳児期の発達課題「基本的信頼」の未達成と同義)。

(2)愛着の形成のための条件
   愛着形成の第一歩は“特定の人”との関わりである(「愛着の選択性」)。そのため、愛着の形成に相応しい1歳半までに保育施設を利用することは、子供にとって養育者が頻繁に代わる生活環境をもたらし、愛着形成にとって大きな妨げとなる(岡田2012)。また、たとえ保育施設を利用していなくても、1歳半までの時期に母親から適切な養育を受けることができないとなれば、やはり愛着の形成に不利となる(岡田2011)。
   ただし、愛着は、生まれた後の生活環境によって作られる後天的なものであるため、たとえ乳幼児期での愛着形成が上手くいかなくても、その後の生活環境(親の子供への接し方)を「適切な養育」に変えることによって、安定した愛着に改善することができる(岡田2012)。※「適切な養育」とは⇒ 「4.各問題に対する改善策」で紹介

(3)「愛着不全」のタイプ(岡田2011)※岡田氏は「愛着障害」
①「回避型」愛着タイプ(発表の柱①)
≪症状≫親や他人との繋がりを求めようとしなかったり、他者を信頼しようとしなかったりする。他者に対して反抗的・攻撃的な言動が見られる。
≪要因≫親が子育てに対して無関心だったり、十分な子供との関わりを持てなかったりした場合。いつも子供を強く叱っていた場合

②「不安型」愛着タイプ(発表の柱②)
≪症状≫他人からの評価を気にし過ぎたり迎合したりする。他人からの愛情を過度に求める。
≪要因≫親が子供をかまう時と無関心な時との差が大きい場合。親が神経質で厳しく過干渉である場合

※以後に述べる「2.家庭に見られる具体的な問題」「3.愛着不全タイプが生む具体的な問題」「4.各問題に対する改善策」は何れもこの二つの柱に沿って記述。

③「混乱型」愛着タイプ(発表の柱①と②の併発)
≪症状≫①と②が混在した一貫性のない行動をとる。ちょっとしたことがきっかけで親から受けた辛い養育の過去がよみがえり、泣いたり暴れたりする等の極度の精神不安定状態に陥る
≪要因≫親の気分による予測不可能で過度に厳しい叱責が繰り返された場合(体罰を含む)

※それぞれの出現率は①1520%、②10%、③5%程度