今朝のTBS「サンデーモーニング」のトップニュースは、元農水次官の息子殺害事件、ではなく、その事件を受けて、同様の悩みを持つ保護者からの相談が急増しているという内容でした。そのことが、いかに今の社会にとって切迫した問題であるかということを物語っていると 私は感じました。
   
引きこもりは親の責任ではない
   内閣府は昨年の12月に、初めて40~64歳を対象にした引きこもり調査を行い、今年の3月に、40~64歳のひきこもりの人が全国で61万3000人にも上るとの推計値を公表しました。
   40歳から64歳を対象にした調査は今回が初めてですが、15歳から39歳までを対象にした同様の調査は、平成21年と平成27年にも行われ、そこでもやはり引きこもりになったきっかけを調査しています。しかしその報告書では、調査データから読み取れることの記述に終わり、引きこもりにならないための具体的な対策までは示されませんでした。何らかの調査を行って 何らかの問題が明らかになった場合、それを解決するための具体策が提示されなければ、単なる“調査のための調査”で終わってしまい、全く意味をなさなくなります。
   もしも、10年前の調査で具体的な対策が示されていれば、今回対象となった40~64歳のうち 少なくとも40歳から49歳まで、つまり10年前に調査対象となっていた30歳から39歳だった人達の 今回の結果はもっと少ない数値になっていたはずです。その人達は言わば、無策の国の犠牲者とも言えるのではないでしょうか?また、10年前には対象外だった40歳以上だった人であっても、当時、国による具体策がメディアを通して国民全体に示されていれば、やはり同様の問題状況を改善するための手立てを講じることができたはずです。そのように考えてみると、「10年前以降も、それぞれの経験から最善と考えられる支援を引きこもる我が子に施してきた親達にいったい何の責任があるというのか?」と言いたくなる思いがします。つまり、いざ外部の助けが必要になった時に、「我が子が引きこもっているのは自分の養育が悪かったせいではないか」等とためらうことはないのです。

新たな引きこもりを生まないために
 先日、先の番組とは別に、やはり元次官の事件を特集するテレビ番組がありました。その中で、まだ結婚していないある女性タレントがこう漏らしました。「私も将来子どもを産み育てたいと思っているが、最近報道されているような引きこもりの子どもにしてしまったらどうしようかと心配だ」。すると、現在社会人として自立している子どもを持つあるお父さんタレントがこう声をかけました。「普通に愛してあげていれば大丈夫」と。更にこう続けます。「“子どもを愛する”というのは、子どもを抱きしめてあげたり、声をかけてあげたりすることだよ」。
   このお父さんタレントが言ったそれらの行為こそ、正に「愛着」という親子間の“愛の絆”を築く行為です。親との間に安定した愛着を築いた子どもは、“周囲の人と望ましい人間関係を築く力”や“自立して生活していく力”や“多少の困難にもまけず乗り切る力”等、生きていく上でとても重要な様々な力を身につけることができる、と「愛着」研究の専門家である岡田尊司氏は指摘しています。なお、愛着を身に付けさせる愛情行為には、先の「抱きしめる(スキンシップ)」や「声をかける」の他に、「子どもを見て微笑む」「子どもの話をよく聞き共感してあげる」「小さなことから褒めてあげる」等があります(例「愛着7」)。行為は複数あるので、どんな場面であっても、その時にできる行為を選んで実践することができます。たとえ、声を出してはいけない場面であっても「見て微笑む」は可能なのです。
   さて、これらは特別な行為ではなく、どれも世の中の“愛ある親達”が無意識のうちに我が子に施している行為です。それは、国の方針に従って覚えたことでもなく、親自身が子どもだった頃に自分の親から施されたものです。ただし、子どもの頃に「親になったらこうするのよ」等と教えられたわけではありません。愛されたことが自分の心に自然と刻み込まれていたのです。子どもの頃の細かい記憶など誰もないはずなのに不思議です。「親から愛された人は、我が子を愛することができる」、これは動物が子孫を残すために神様から授けられた本能と言えるでしょう。

   しかし、世の中には不幸にも幼少の頃に親から十分に愛されなかった人達がいます。そういう人には「愛着」を築くための愛情行為についての新たな知識が必要になります。「愛着7」はそのための情報です。
   例えば「見て微笑む」ことなどは、意識していなければすぐに“スマホ”によって奪い取られてしまいます。また、「子どもの話をよく聞く」ことも、意識していなければ、自尊心の塊とも言える私達は、親である自分の思いを子どもにとうとうと話そうとするでしょう。しかし意識していれば、自分をそれらの行為で“止める”ことができます。
   自分を見て微笑んでくれる親を、自分の話をよく聞いて「そうだね」と共感してくれる親を、自分に優しく穏やかに話しかけてくれる親を、子どもは必ず慕います。そういう生活を繰り返していれば、その子どもは将来きっと安定した人格を持った大人になり、引きこもることもなく社会に適応して過ごすことができるようになるに違いありません。