【今回の記事】

【記事の概要】
   職場でも家庭でも、自分の居場所を心地よくするためのキーポイントとなる言葉選び。“言葉”を仕事にするアナウンサーの八木早希さんに、公共の場で自分の居心地を守る「スマートなクレーム」を教えて頂きます。

理不尽さには声をあげよう!
   社会生活の中でキャリアを積んでくると、他人の仕事に対して努力不足が目に付いたり、手抜きを見抜けたり、適切でない対応に時に苛立ったりしてくるものです。女性や若い立場だとなかなか言えなかったり、理不尽な事があっても泣き寝入りしていたことも、そろそろ声をあげても良いと思います。ただし、スマートな方法で。今回は、公共の場で自分の居心地を守るコツをお伝えしましょう。

このクレームはあり?なし?
   以下、私が経験した場面での女性のクレームです。皆さんはどんな印象を持ちますか?
   以前新幹線に乗っているときに、通路を挟んだ向こう側の席に、パソコンのキーボードを強く叩いてカチャカチャと音を立てながら仕事をしているサラリーマン風の若い男性がいました。そこへ堪忍袋の緒が切れたように、数列前に座っていた高齢の女性がカツカツとヒールの音を響かせながら駆け寄ってきて言い放ちました。

◯「あなたね、パソコンの音がうるさいのよ! 静かにして!」
   一瞬戸惑った男性は、ぺこりと女性に一礼しましたが、女性が立ち去った後に怒りが込み上げてきたのか、仕返しでもするように一段と大きな音を立ててキーボードを打ち始めたのです。他人がネガティブな感情をむき出しにする様子は公共の場ではあまり目にしたくないものです。女性は、クレームをつけたのに、「静けさ」という得たかったものを得られていない。「怒る」という大変なエネルギー使った割に、逆に周りに不快な思いさえさせてしまう。という、スマートでないクレームを見た気がしました。

苛立ちはスマートに伝えよう
   以上の例を踏まえて、基本的なクレームの付け方をお伝えしましょう。
・感情的にならない
「怒る」とは大変なエネルギーの消耗です。怒りのエネルギー使って何かを言っても、「怒っている」こと以外は伝わりにくいのではないでしょうか。特に男性は、「だから女は」と聞く耳を持たない時もあります。感情に任せて物申したい時、まずは1テンポ置いて落ち着くのが賢明です。
・「YOU」ではなく「I」で
「(あなた)うるさいのよ!」「(あなた)邪魔!退いて!」「(あなた)早くして!」「あなた」を貶したり、指図するような言い方は、感情を逆なでするのみで、改善には繋がりにくいかと思います。「あなた」の言い方を「私」に言い換えましょう。「うるさい!」→「(私は)音が気になっています」
「退いて!」→「(私が)通ります」
「早くして!」→「(私は)急いでいます」
   直接指図すると刺激的ですが、“自分”の状況を言う事で先方に何をしてもらいたいかを自ら察してもらう距離感が良いのではと思います。
・「気になります」「苦手です」が便利
「嫌い」は大人が使うには主観的で感情的過ぎるのではと感じます。代わりに「気になります」「苦手です」はいかがでしょうか?先ほどの女性の例だと、「お仕事中にすみません、私はキーボードの音が気になっております。」で十分ではないかと。ぺこりと一礼してくれたなら「ありがとうございます」で立ち去るのがスマートでエレガントではないでしょうか。職場での飲み会は私は大勢での飲み会は苦手ですので、遠慮させて頂いてもよろしいでしょうか?」「嫌い」な人も私はあの方は苦手ですで十分伝わります。他には、私はタバコの臭いは苦手です私はタバコの臭いが気になっておりますなども、ぜひ活用してみて下さい。

【感想】
   幼い子ども達は、友達との間の揉め事や喧嘩は日常茶飯事です。今回の記事は、そんな時に役立つ立ち振る舞いについて教えてくれています。

A 嫌なことがあったら友達に対して怒る
B 嫌なことがあっても我慢する
C 怒らないで自分の気持ちを友達に言葉で伝える

   このうち、記事中での「うるさい!」等、感情的になって怒る言い方は「A」に当たります。また、「B」は 日本人にありがちなスキルです。今回の「自分の苛立ちをスマートに『I』で伝える」というスキルは「C」に該当します。つまり、今回の記事は、このC」タイプのソーシャルスキルの“具体編”という位置付けになるでしょうか。

   さて、改めて「YOU」ではなく「I」に直して言うとこうなります。
「うるさい!」→「(私は)音が気になっています」
「退いて!」→「(私が)通ります」
「早くして!」→「(私は)急いでいます」

   記事中にもありますが、「退いて!」のように伝えることは、「あなたはこうしなさい」と、相手の行動までをこちらが支配しようという 意識が露わになり刺激的ですが、単に“自分”の状況や気持ちだけを伝えると、相手の行動については先方に委ねることになるので、相手の余計な反発心を招くことも少なくなるでしょう。
   また、「私は…」という言い方にすると、相手の行動を責める場合に比べると、怒りの感情が緩和されるように思います。

   更に、これから自分の気持ちを相手に分かってもらおうと、ある意味“お願い”しているのですから、この冒頭に「すみませんが」等を加えると、その場の雰囲気も柔らかくなり、言われた相手も、自分の非を素直に認めることができるようになると思います。
「うるさい!」→「すみませんが、(私は)音が気になっています」
「退いて!」→「すみませんが、(私が)通ります」
「早くして!」→「すみませんが、(私は)急いでいます」

   但し、子どもがこれらの言い方を全て覚えると言うわけにはいきません。日常生活の中で子どもが(家族を含め)他者に対して「A」のような強い言い方をしていた場面を捉えて、その都度教えてあげれば良いと思います。
   例えば、「自分は今どんな気持ちなの?」と聞いて、その後の子どもの答えを受けて、「じゃあ『(ごめんなさい、)私は……が苦手です』」と言うといいよ。」等と丁寧に教えてあげればいいと思います(「そんな口の利き方はやめなさい!」は「A」タイプです)。そういう経験を繰り返すうちに、だんだん自分で考えて言えるようになっていくと思います。
   また、子どももの相手が家族である場合、友達である場合、目上の人である場合とでは、それぞれ言い方は微妙に違いますから、丁寧に教えてあげたいものです。

   では、ちょっと練習してみましょう。
   中学生の子どもが、親であるあなたにテレビ番組の録画を頼んでいた。しかし、頼まれたあなたはウッカリして録画するのを忘れてしまった。すると、子どもは怒って「どうして録画してくれなかったの?!」とあなたに訴えた。
さて、あなたは子どもに何と言いますか?
《言い方例》
親「(穏やかな言い方で)あなたは今どんな気持ちなの?」
子「とても楽しみにしていたからガッカリ!」
親「じゃあ『悪いけど、私はとても楽しみにしていたの』と言うといいよ。言ってごらん。」
子「悪いけど、私はとても楽しみにしていたの
親「あなたがせっかく楽しみにしていたのに、録画できなくてごめんね。」(※初期の頃なら「そういう言い方をされると、こちらも『ごめん』て言いたくなるね」ということも伝えるとなお良いと思います。)

   なお、親が言い方を教えることができるようにするためには、親自身が普段からその言い方を心がけている必要があります。そして、子どもに教えるだけでなく、親自身が家族に対して「C」タイプの言い方をすることで、それが子どもに対する手本になるはずです。