【今回の記事】

【記事に関わって】
    数学者である国立情報学研究所の新井紀子教授は、人工知能(AI)でロボットが東大に入学できるか、という「東ロボくん」プロジェクトで知られています。新井教授は、例えば教科書のような基本的な文章を理解できていない子ども達がたくさんいるという警鐘を鳴らしています。更に教授は、文章の意味を正しく理解するためには、そのために「リーディングスキル」と呼ばれる力が必要であると指摘しています。実は、大学入試を受けた子どもの約8割(偏差値57以下)がこの「リーディングスキル」を身につけていないと言うのです。新井教授は、この「『リーディングスキル』を身に付けているかどうかで人生が決まる」とまで断言します。これは単に、高校入試や大学入試のことだけを指しているのではなく、リーディングスキル」を身につけていないと、日常生活の中で、家電製品などの取り扱い説明書や料理のレシピ等も理解できず困ることになる、という意味まで含んでいるとのことです。

    さて、その「リーディングスキル」を測る問題として以下のような問題が紹介されています。
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに拡がっている。オセアニアに拡がっているものは(  )である。

この問題を正しく解くには、次の基本事項が必要になると思われます。
①複数の主語(「仏教」「キリスト教」「イスラム教」)が一つの主語(「拡がっている」)にまとめて係る時がある
②「宗教がたくさんの人達に信じられるようになる」ことを「宗教が拡がる」と言う
「拡がる」は「広がる」と同じ意味である
④「広がる」は「(公園が今までよりも)広くなる」のような“そのものの広さが大きくなる”ではなく、「ひょっこりはんのモノマネが全国の小学生に広がる」のような“考えなどが多くに人に知られるようになる”意味である
⑤東南アジア、東アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア等は、世界の人たちが住んでいる地域を表す名前(熟語)である

この問題に限れば、これらの基本事項ですが、問題が変わればそれらも変わり、網羅することは気が遠くなるような作業になります。それらを身につけるためには、義務教育内の国語の1時間毎の学習を正しく理解していなければなりません。しかしそれは学校の指導者の仕事。それでも大学入試を受けた子どもの8割が身につけていないのが現実です。

    では、それら8割から抜け出すために“家庭にできること”はないのでしょうか?私は「ある!」と確信しています。それは教科書以外の“読書”の習慣化です。しかしどんな本でも良いかというとそうではありません。子どもが関心を持っている内容の本の読書です。それはなぜでしょうか?

    それを理解していただくために、次の問題を考えてみてください。
マルちゃんはプリンやハンバーグが、たまちゃんはメロンやケーキが、花輪くんは高級おすしやイタリア料理が好きです。メロンが好きなのは(  )です。

    この問題は、先の宗教の問題と“文章の仕組み”は同じです。しかし、アニメ「ちびまる子ちゃん」が好きな子どもであれば比較的簡単に答えが出せるでしょう。これは、普段からテレビを見ていて関心があるために、「①複数の主語が一つの主語にまとめて係る時がある」という“文章の仕組み”を理解するための予備知識(「食いしん坊のまるちゃんは庶民的な食べ物が好き」「育ちの良いたまちゃんはちょっとしゃれた食べ物が好き。」「お金持ちの花輪くんは高級な食べ物が好き」等)が既に備わっているからです。
    ただ、活字に対する理解力を上げるためには、当然アニメではなく本が望ましいです。分野は何でもいいですから、子どもが関心のある内容が活字で書かれている本をたくさん読むことで、色々な構造の文章を理解できるようになるのです。そういう意味では「かいけつゾロリ」シリーズ(学校や公立の図書室には必ずある本)は、内容も面白いうえに、活字も多く、理解を助ける挿絵も適度にあるので、文章の理解力を身につける上で望ましいと思います。

ちなみに、私は小学校後半は推理小説「怪人二十面相」シリーズを読みあさっていました。

    なお、上記の①〜⑤の基礎事項のうち、②、③、④、⑤は「国語」の新出語句の学習に関わるものです。この類の基礎事項は、全ての教科テストの理解のために必要となる基礎中の基礎です。これについては、漢字ドリルの中には、以下のような
新出漢字の練習のページがあります。

この中で、例えば「情」について言えば、「感情」「友情」「事情」「友情」のような様々な“熟語の意味を知ること(上記基礎事項⑤)、更に「心情を伝える」「情け深い人」のような“短文の意味を知ること(上記基礎事項②、③、④)が重要です。これらは、テストに出てくる様々な文章の意味を理解する上では、漢字の書き方や書き順よりもずっと重要です。ですから、漢字練習をする際にも、「情」だけを繰り返し書くよりも、「感情」「友情」「事情」「友情」のような“熟語”や、「心情を伝える」「情け深い人」のような“短文”を書く方が、テストの問題文を理解する“読解力”をつける上では何倍も効果が上がるのです。