【今回の記事】

【記事の概要】
「 4年生の男の子です。算数の塾にも行かせていますが、勉強に関して全く集中力がありません。周りのことが、すごく気になるみたいです。勉強する態勢に入るまで時間かかり、入っても、長時間集中力が続きません。近くで物音などすると、中断します。今以上に勉強に集中できる、良い方法があれば教えてください。よろしくお願いいたします。(仮名:中村さん)」

◯勉強に対して興味関心が湧いていないだけ
(石田 勝紀 :一般社団法人教育デザインラボ代表理事、都留文科大学特任教授による回答)
「うちの子、集中力がないんです」ということでお悩みの保護者の方はたくさんいらっしゃいます。しかし、よくよく考えてみると、子どもは元来、集中力は相当あるものです。小さい時に、遊びに夢中になるということを誰しも経験したことがあると思いますが、夢中になっているということは、集中しているということですね。集中力は、関心があること興味があること好きなことが対象であれば、誰でも発揮してしまうものなのです。つまり、中村さんのお子さんは正確に言うと、何事にも集中力がないのではなく、勉強に対して興味関心が湧かず、やる気が出ないということなのです。「そんな当たり前のことを言われても困る」と思われるかもしれませんが、実は、この当たり前のことを、初めによく理解しておく必要があるのです。中村さんのお子さんは、勉強という“作業”がつまらないために集中ができないものと思われます。勉強に集中させるには、「面白い」「楽しい」「ワクワク」をベースに勉強する仕掛けを組み立てていくのがよいのですが、その環境を家庭でつくることは容易ではありません。
   そこで、ぜひ知っておいてほしいことがあります。それは子どものタイプによって、取るべきアプローチ方法が異なるということです。子どもには大きく分けて2つのタイプがあり、そのタイプに合ったやり方でアプローチをしないと、人は積極的に行動しないのです。筆者はこれまで30年間で3500人以上の子どもたちを直接指導してきた経験から、この2つのタイプに分かれると考えています。

満遍なくできる「マルチタスク型」の子の場合 
   1つ目のタイプを「マルチタスク型」といいます。マルチタスク型の人は、その名のとおり、比較的なんでも満遍なくマルチにこなしていきます。中学校で全科目満遍なく点数を取って内申点がいい生徒といった子は、このタイプが多いです。満遍なくできるということは裏を返すと、集中力がなく分散型だということでもあります。このタイプの集中力のなさは本来「才能」であり、将来の職業とも関係している場合があります。集中力があると周囲に気を配ることができません。たとえば、学校の先生は40人の子どもたちを相手に指導します。もし集中力のある先生だったら目の前の生徒しか見えず、全体の子どもたちへ気を配ることは難しいでしょう。集中力がないからこそ、広く気づくことができるという才能を持っているのです。しかし、子どもの頃は、集中力がないことがデメリットになることが少なくありません。勉強は集中力が求められるからです。このマルチタスク型」の行動基準、価値基準は「損得です。損か得かを判断基準として動く傾向にあるのです。損得で動く子は、無駄が嫌いで、面倒くさいという言葉を発したりします。しかし無駄が嫌いであるということは“効率性”を好むということを意味します。ですから、方法論、やり方、ノウハウ、スケジュールなどが大好きです。それは、“秩序”を好むということでもあります。合理化でき、自分が得するということが分かれば、動きます。こうしたマルチタスク型の子の場合に何か働きかけたい場合は、おすすめしたいのは、「スケジュールを作り、勉強のノウハウを教え、それをやることによってどれだけ“得”なのかについて話をすること」です。すると、本来のマルチぶりを発揮し、学校成績も満遍なく取れるようになっていくことがあります。

一点集中する「シングルタスク型」の子の場合
   もう1つのタイプを「シングルタスク型」といいます。シングルタスク型は、一点集中型で、集中力は抜群にあります。しかし、対象以外の周囲はあまり見えません。このシングルタスク型の行動基準、価値基準は「好き嫌い」です。好きか嫌いかを判断基準として行動します。ですから好きなことは徹底してやるが、そうでないことは後回しにするか、やりません。好きの領域に「知識」が入っていれば、どんな知識でも習得することが好きなため、学校内でトップレベルの成績になる子もいます。筆者が見るかぎり、難関校のトップレベルの層の子の多くはこのタイプです。もし知識ではなく、別の領域が好きであれば、その好きな領域から入って心を満たしてからでないと、別の領域にはなかなか入っていきません。多くの子は、嫌いな領域に「勉強」が入っていると思いますので、無理やりやらせて、そこそこできるという程度で終わります。
   そこで、シングルタスク型の子の場合は、「勉強の中でも、比較的やってもいいと思える科目や分野から始める」ということをします。好きなこと、やってもいいことをやることで、心が満たされると、好きではない領域のこともやってもいいという状態へと移行していく場合が少なくありません。損か得かという話をしても、このタイプには響きません。
   当然のことながら人間誰しも、損得、好き嫌いの両方の価値基準を持っていますが、どちらが優位であるかということで考えてみると、何か糸口がつかめるはずです。
   中村さんのお子さんは、おそらく「マルチタスク型」でしょう。気が散って仕方ないというのは、気配りできる「才能」であり、大人になった時にそれが長所であったと気づくと思いますが、小中高生の時は自分でコントロールすることが難しいため勉強するときは弊害になる場合があるのですね。何を隠そう、筆者も典型的なマルチタスク型で、子ども時代は集中力がなくて、非常に困ったものでした。中村さんのお子さんと同じような子でした。そこでスケジュール管理をして、勉強方法を知ることで、なんとか集中力のなさをカバーしていました。それで根本的に集中力が上がったというわけではないのですが、少なくとも勉強はするようになりました。「マルチタスク型」は秩序を好み、ラクできる方法、得する方法を教えてあげることで、スイッチが入ることがあります。ぜひ、そのようなアプローチで試されてみてはいかがでしょうか。

【感想】
   まず、“損得”と“秩序”を好む「マルチタスク型」は、スケジュールを作り、勉強のノウハウを教え、それをやることによってどれだけ“得”なのかについて話をする」ことが効果的だと指摘されています。この「スケジュールを作る」は分かります。「勉強のノウハウ(やり方)を教える」は、口だけで伝えることは容易ではありませんが、親がやり方をやって見せればバッチリ。
   その一方で、学校の勉強をするとなぜ自分にとって得なのかについて話してやる」と言うことは、親からしても難しそうです。それは言わば「どんなメリットのために勉強をするのか?」という、言わば“勉強の目的です。それを子どもに教える方法については、以下の記事を参照ください。


   次に、“好き嫌い”で動く「シングルタスク型」は、勉強の中でも、まず、比較的やってもいいと思える科目や分野から始めて心を満たしてから、次にやらなければならない分野に移らせる」ことが効果的だと指摘されています。
   しかし、一日の限られた学習時間に対して、まず本人のやりたい別の科目や分野から始めさせ、その後に本来やらなければならない内容に取り組ませることは、とても難しいように思えます。
   ところで、一点集中型で、自分の興味がある事に対する集中力は抜群にある一方で、興味がある事以外の周囲はあまり見えない「シングルタスク型」。これらの特徴は、誰でも大なり小なり持っている自閉症スペクトラムの特徴と驚くほど重なります。好き嫌いがハッキリしているのも同じです。
  “感覚過敏”の特性のために、やり方が分からない対象を嫌うこの「自閉症スペクトラム派(自閉症の強さが障害域にはないがかなり強めの人達)」の場合、好きな領域から入るやり方の他に、やり方が分かっている課題から入るのも有効だと思われます。例えば、「教科書の音読」のように範囲が決められていればあとは声に出して読むだけというような学習です。因みに、東京大学法学部を首席で卒業し、現在は弁護士やタレントとしてご活躍されている山口真由さんも実践していた勉強方法に、「(教科書の)7回読み」と言う方法があるそうです(詳細は上記サイトから)。毎回同じ方法で教科書を読むこの勉強法は「自閉症スペクトラム派」の人達にとって最高の勉強法だと思います。
   その一方で、満遍なくできる「マルチタスク型」。これは記事中にある通り、裏を返すと、集中力がなく分散型だということでもあります。集中力は逆に周囲への気配りを妨げますが、「マルチタスク型」はその反対で、周囲をよく見ていて要領はいいが集中力が続かないタイプ(例えば「サザエさん」のカツオ?)なのです。先の「自閉症スペクトラム派」の人達が時に寝食を忘れるほど物事に没頭する余り周囲との付き合いが決して上手とは言えない、時に“不器用”とまで言われるタイプ(最近では元貴乃花?)であるのに対して、正にその逆に位置するタイプと考えることができます。皆さんのお子さんはどちらのタイプに近いでしょうか?


  “集中力”の「シングルタスク型」と、“気配り”の「マルチタスク型」、どちらも大切な長所ですが、「天は二物を与えず」とはよく言ったものです。