【今回の記事】

【記事の概要】
   小学校時代の経験を描いたという漫画が、ネット上で注目を集めています。その作者に話を聞きました。
クラスの男子にひどいことを言われ
   今月9日にツイッター投稿された漫画。「小3の頃 クラスの男子にひどいことを何度も言われた」という書き出しで始まります。そのことを担任の教師に伝えると、男子を注意してくれたそうです。すると男子は教師の前で「冗談のつもりだった」と謝罪。それを聞いていた教師は「世の中には冗談が通じない人もいるんだから」と言いました。教師の言葉に驚く主人公。最後のコマは、こう結ばれています。「以来 私は冗談があまり好きじゃない……私にとって冗談は『オブラートに包んだ悪意』です」


作者の漫画家に聞きました
   この漫画の作者である漫画家の後藤羽矢子さんに今回の作品に込めた思いについて、詳しく話を聞きました。
――描こうと思ったきっかけは?
   たまたまタイムライン上に「冗談で言ったとしても相手が不快になったならそれは失言です」という内容のツイートがリツイートされてきて、同意するとともに、子どもの頃の記憶が浮かんできて、勢いで漫画にしました。20分ぐらいで描きました。
――「冗談はオブラートに包んだ悪意」という言葉が印象的です。
   大人になって社会に出て、いろんな人と触れ合うと、ちゃんとした人は笑いをとるときも自分がピエロになって、他人をピエロにしないなって気づいたんです。それに気づいたら、他人を“いじる”冗談っていうのは、ただの悪意でしかないなと。セクハラもそうなんですが、「冗談」をかぶせると境界があいまいになるんですよ。そういう意味でもオブラートっていうのがぴったりだなと思いました。
――多くの反響が寄せられていることについては。
   反対意見がほとんどなかったことに、びっくりしました。自分も気をつけようという意見も多くて、共感してもらえて嬉しかったです。

【感想】
   “感覚過敏”の特性を強く持つ人(大なり小なり“感覚過敏”の特性は誰もが持っている)は、純粋でピュアなので、「冗談」に対して疑うことをせずに、その通りに受け止めてしまう面があります。作者の後藤さんが子どもだった当時は「“感覚過敏”の特性を強く持つ人がいる」という事は知られていなかっただろうとは言え、「世の中には冗談が通じない人もいるんだから」と、まるで「“冗談が通じない人”が悪い」とでも言わんばかりの態度をとり、困っている子どもの立場に寄り添わない教師がいる事は残念でなりません。

   本記事にもある通り、「冗談」とは「いじり」、いわば「人をからかう行為」です。その意味で、「冗談はオブラートに包んだ悪意」という言葉は、実に的を得た表現だと思います。
   いじめの問題に直面した時に、加害側の子ども達は「冗談のつもりだった」「イジってただけだった」と言い訳しますが、その本来の姿は「悪意」であるということに気づくべきです。
   そして、その「悪意」をオブラートに包んで 隠しているのは、他でもない、子どもにとってふさわしくないお手本を示している、メディアを代表とした大人達です。大人達が「いじり」や「冗談」を世の中にまかりとおらせているために、あたかもその行為が認められるかのような印象を子供たちに与え、たとえ「悪意」であっても、それが「受け入れていいもの」であるかのように オブラートに包んでしまっているのです。本来ならばその大人たちが子供達に、「人をいじったり、人に冗談を言ったりする事は良くないことなのだ」と教えて「オブラート」を剥がすべきなのですが…。
「冗談」を言わないと生きていけないわけではありません。むしろ、他者を尊重する気持ちを持てば、「人をからかう行為」は自ずと無くなるはずです。

    また、「“感覚過敏”の特性は大なり小なり誰もが持っている」という私の主張には、もう一つの意味が含まれています。それは「人の感じ方は皆同じではない」という事です。しかし私の経験上、「自分の価値観は他の人も同様に持っているはず」と考えている人は決して少なくはないと思います。そういう人が、罪の意識なく「冗談」を言い、相手が怒れば「なんだよ、冗談も分かんねぇのかよ」と ダメ出しをするのです。同様に、クラスの友達から傷つくことを言われる事は、現在でも多くの子ども達が経験していると思います。

   さて、そのような場面に遭遇した時、子ども達はどのように振る舞うのが良いのでしょうか?「冗談のつもりだった」という子どもは、「相手も同じ感覚で捉えているだろう」と思い込んでいるために、教師から注意されるまで、相手が傷ついていた事に気がつきません。注意を受けて気づいたあとは、さすがに同じような言動は控えるでしょう。それならば、「自分は嫌な気持ちになっている」という事を相手に気がついてもらうのがいいのではないでしょうか?
   何らかのトラブルが発生した時に、被害を受けた側の人間が取る行動パターンは以下の3種類がます。
①相手の言動に対して怒る
相手の言動に対して我慢する
③怒らずに自分の気持ちを言葉にして伝える

「①相手の言動に対して怒る」と、トラブルを更に深刻にします。また「②相手の言動に対して我慢する」と、その相手は「◯◯君にも 冗談は通じる」と思い込んで、さらに「冗談」を続けてくるでしょう。正しい振る舞い(ソーシャルスキル)は「③怒らずに自分の気持ちを言葉にして伝える」です。「そういう言い方をされるのは嫌だからやめて欲しいんだけど…」と感情的にならずに伝えるのです。「嫌だからやめて!」と伝えると、それは「③」ではなく「①」に なるので、相手の感情を逆なでしてしまいます。しかし、努めて落ち着いた言い方で伝えれば、相手の理解を得られます。
   また、嫌なことを言われた時には我慢して何も言わずに、その後先生に相談すると、相手から「チクったな!」と言われてしまいます。やはり、その時にその場で相手に言葉で伝えたいものです。

「冗談」や「いじり」は「悪意」である事、そして、嫌なことを言われた時には我慢せず そして 怒らず相手に言葉で伝える事を 大人がきちんと 子ども達に教えられる社会になることを 切に願っています。