以下本記事目次
1. 親子間の「愛着」さえも傷つける生活習慣をめぐるトラブル
2. 生活習慣の定着への道
3. 子どもに無理なく教える“スモールステップ指導“
4. “スモールステップ指導”の実際
5. 意欲を高めるポイントは「今日は、○○○だけでいいよ」
6. 深刻な問題ほどスモールステップ指導

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1. 親子間の「愛着」さえも傷つける生活習慣をめぐるトラブル
 子ども達の家庭生活には、「早寝」「早起き」「朝ごはん」「片付け」「家庭学習」等、様々な生活習慣があります。そして、自ずとそれに伴う親御さんのストレスもつきものです。早寝早起きをしない、遊んだ後の片付けをしない、宿題になかなか取り組まない、等々。
「また、ちらかしっぱなし!何回言われれば片付けるの?!」
「テレビばかり見てないで早く宿題をしなさい!」
   自分から取り組まない子どもとの毎日の格闘で大人はイライラが募るばかり。子ども達も注意されるのは当然嫌で、注意されないうちにやってしまえばいいのだけれど、なぜか出来ない…。注意を毎日受けているうちにだんだん子どももうんざり。
「うるさいなあ!分かってるよ!」
「分かってるならやりなさい!」
「もう、お母さんなんか大きらい!」
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   ほぼ毎日のことだけに、こんな口けんかを繰り返しているうちに、少しずつ親子間の愛着(愛の絆)に傷がつくことも十分考えられます。
 大人からすれば、「散らかしたものを集めて棚に入れればれば済む話でしょう?」「先生から出された宿題を言われた通りやればいいだけでしょう?」と思うのですが、経験の浅い子ども達からすると、取りかかる気になれない、何から始めればいいか分からない、やり方に自信がない等、大人が気づかない子どもなりの“壁”が存在するのです。


   そんな不安を解消して、無理なく子どもに生活習慣を定着させるためにはどうすればいいのでしょうか。

2. 生活習慣の定着への道
 生活習慣指導については、子どもが幼い頃から、正しい母性の働き(「安心7支援」)と正しい父性の働き(「見守り4支援」)で接していれば、親が「もう遅いから寝ようね」と言えば、親と愛着(愛の絆)で繋がっている子ども、つまり、親のことが好きな子どもは素直に従いますから、親のモラルが正しければ、自然と定着します。
 また、新たに、父母両性の働きを意識し直した場合でも、親に対する子どもの反応が変わりますから、少しずつ子どもの生活習慣は改善していくものと思われます。
   ここでは、「なかなか思うように子どもの生活習慣が改善されない」という場合の指導方法についてお話しします。

 さて、先の親子喧嘩のように、言葉で何度注意しても子どもが出来ない場合には、先ずは、
お母さんが見ているから自分でやってごらん
と伝え、親はその場で子どもの様子を見守ります。すると、親の見守りの下だと案外自力でできることもあります。もしそうであれば、「この子は、“意欲”が無いだけで、“やり方”自体は理解している」ということが分かります。
   その一方で、親の見守りの下でも出来ないとなると、「やり方そのものが分からない」ということになります。やり方が分からないのに注意を受け続けるということは、子どもにとっては耐え難いことで、大きなストレスの元となります。そんな時は“やり方”を指導します。
 
3. 子どもに無理なく教える“スモールステップ指導“
   その指導の際に、無理なく生活習慣を身に着けさせる方法の一つに“スモールステップ式”の指導があります。具体的な方法は次のようになります。
①作業全体をいくつかのスモールステップに分ける。(親の作業)
②親がついて、第1ステップのやり方を教え、出来たら必ず褒める。
③親がついて、ステップを少しずつ広げながら教え
、出来たら必ず褒める。
④親がついて、最終的に第1ステップから最終ステップまで一度に取り組ませ、出来たら最高に褒める。
《補足》⇨飽きやすい子どもの場合は、新しいステップに進むのを翌日に持ち越しにしてもいいです(ただし、その日に残った作業は親が代わりにする。翌日は第1ステップから新しいステップまで続けてやらせる)し、子どもの意欲が持続しそうな場合には同じ日に続けてさせてもいいです。
   なお、子どもの意欲を高めるうえでは、親がこまめに褒めることが重要になります。更に、「安心7支援」の愛情行為の一つに「子どもの中にある良さを探して褒める」がありますから、褒めることで親子の愛着も強くなります。

   ところで、子どもが一人で出来る事を親が一緒にやってあげることは、子どもを“甘やかす”行為ですが、子どもが自分一人では出来ない事を一緒にやって教えてあげることは、子どもに“甘えさせる”正しい行為です。子どもが一人で出来ない事を、教えも諭しもしない親の態度は、単なる“子育て放棄”です。

4. “スモールステップ指導”の実際
 では、その“スモールステップ指導”の実際について、「片付け指導」と「宿題指導」を例に、上記の①~④の順に従って紹介します。

【片付け指導】
① 作業全体をいくつかのスモールステップに分ける。(親の作業)
※以下はあくまで一例です。
第1S. 片付けるものを仲間分けする。 
第2S. 仲間分けしたものをそれぞれどこに片付ければいいか決める。(ふさわしい場所が無いために片付けられないでいる場合もあります。その場合は、ホームセンター等に行って、しまうための箱を買ってきましょう。)
第3S. 仲間分けしたものを、それぞれの場所に片付ける。
②親がついて、第1ステップのやり方を教え、できたら必ず褒める。
   親がついて、今日は、勉強に使うもの、遊びに使うもの、着るもの、に仲間分けするだけでもいいよ」等と誘導して、「勉強に使うものはどれ?」「遊びに使うものは?」「着るものは?」等と一つずつ聞きながら丁寧に教えましょう。
③親がついて、ステップを少しずつ広げながら教え、できたら必ず褒める。
   親がついて、「まず、勉強で使うものはどこにしまったらいい?(物によってしまう場所が異なる場合はそれぞれ聞きます)」「遊びに使うものは?(同)」「着るものは?(同)」と聞き、子どもが決めることが出来たら必ず褒めましょう。
④親がついて、最終的に第1ステップから最終ステップまで一度に取り組ませ、出来たら最高に褒める。
   親がついて、“仲間分け”から“それぞれの場所への片付け”まで全部やらせてみて、出来たらハイタッチやハグ等のスキンシップを用いてたくさん褒めましょう。

【宿題指導】
① 作業全体をいくつかのスモールステップに分ける。(親の作業)
※以下はあくまで一例です。
第1S. 宿題の勉強道具を机の上に出す
第2S. 初めの3問を解く(漢字練習なら「最初の漢字3つを書く」)
第3S. 残りの問題を解く
②親がついて、第1ステップのやり方を教え、出来たら必ず褒める。
   親がついて、「今日は宿題の勉強道具を机の上に出すだけでもいいよ」と伝えて、出来たら必ず褒める。
③親がついて、ステップを少しずつ広げながら教え、出来たら必ず褒める。
   親がついて「初めの3問だけやってみよう」と伝え、出来たら必ず褒める。
④最終的に第1ステップから最終ステップまで一度に取り組ませ、出来たら最高に褒める
   親がついて「道具を出すところから、問題を全部解くまでやってみよう」と伝え、出来たらハイタッチやハグ等のスキンシップで大いに褒める。
 
5. 意欲を高めるポイントは「今日は、○○○だけでいいよ」
   とにかく、いわゆる「腰が上がらない」状態から、いかに「腰が上がる」状態にさせるか、これが最大のポイントです。そこで初めは、
始めにするのは『片付けるものを仲間分けする』だけでいいよ。あとは特別にお母さんがやってあげるから
遊びに行く前にするのは『宿題の勉強道具を机の上に出す』だけでいいよ。あとは夜にやろうね。
等と言うと、子どもは「それだけならできそう」と思い、腰が上がらなかった状態から、ほんの少しだけでも腰を上げさせる事が出来るのです。このように、「初めは◯◯◯だけでいいよ」と言えるのは、作業を細かいステップに刻んでいるからこそ可能になるのです。

   因みに、ある東大生は次のような方法によって、勉強に対する意欲を高めたそうです。
やる気が出ない時は、『とりあえず5分だけ机に向かう』と考えて取り組む
  その理由は、「『勉強は1時間や2時間やらなければいけない』と考えると負担が大きすぎて腰が上がらない。そこで、とりあえず5分だけ机に向かってみる。やる気が出なければ『5分で止めてもいい』と決めて、“とりあえずやり始める”ということが重要」とのこと。東大生でも、やはり意欲のきっかけは「少しでいいからやり始める」ことのようです。

6. 深刻な問題ほどスモールステップ指導
   昨今、極めて深刻な事態に陥っているのが「インターネット依存」です。今や中高生1216%がこの症状に当てはまると指摘されていす。WHO(世界保健機構)、この「ゲーム依存症」を精神疾患として正式に認定しました。
   このような子どもの症状を改善しようとする場合、往々にして親が業を煮やして急にスマホを取り上げたりゲームを完全禁止にしたりするケースがあるようですが、これは、子どもの反発心をあおり、問題を更に深刻化させてしまう危険性があります。
   このような場合こそ、スモールステップによる指導が必要です。例えば、1日に3時間インターネットをしている子どもには、先ず15分程度短くして2時間45分を目標にさせて、できたら褒める。翌日は2時間30分にして出来たら褒める、このような指導が有効です。実態によってはもっと細かく刻んでも構いません。子どもが「それくらいなら出来そう」と思えるようなステップにすることこそが大切なのです。
   深刻な問題ほどスモールステップで少しずつ解決する、このことが大切です。

   ただし、このネットへの依存行動は、心の安定の元となる愛着を獲得できていない子どもが、それに代わる心の安定を得ようとする代替行動であることが専門家によって指摘されています。ネットにのめり込んでいる間だけは、子どもは不安な気持ちから逃れることができるというわけです。
   ですから、特に子どもの愛着対象となりやすい母親は、これ程までに問題が深刻化する前に、普段から「安心7支援」のような愛着を形成するための養育を施してやらなければならないのです。