親が何不足なく愛情深く育てているつもりでも、愛着が不安定になりやすい落とし穴があります。精神科医の岡田氏が指摘する点を見てみましょう。

親の否定的、支配的な養育態度
   これは、今の家庭の中で最も典型的に見られる現象です。
「うるさい!」「はやくしなさい!」「何回同じことを言わせるの!」「もうあなたのことなんか知りません!」等、親が何の気なく使う「否定的・支配的」な言葉は、親に対する不安やストレスを子供に抱かせると共に、親の「安全基地」としての機能を失わせ、不安定な「愛着」に陥る要因となります。具体的には、「子どもの否定」行為としては、否定的な決めつけ、あきれて見下す・からかう、行動・人格否定、等。また、「子どもの支配」行為としては、乱暴な言葉づかい、脅し、感情の吐き出し、強要、執ように長い説教、等が考えられます。


愛着を形成する時期における親の不在
   母子間の「愛着(愛の絆)」形成に最適とされる生後1歳半までの間に、親の仕事のために、母と子が離れて過ごす時間が多くなることは、子育て上、自ずと大きなリスクを背負うことになります。
   これまでは、子育てにおける生後1歳半までの期間の持つ意味については殆ど知られていませんでしたが、その間の養育が子供の一生に大きな影響を与えるという事を踏まえるならば、出産後の育児休業の取り方には十分な配慮が必要になると思います。

施設に預けられている子どもの養育者の交代
   保育園児は、日中は複数の保育士によって養育されています。子どもが何らかのシグナルを発しても、保育士によって対応の仕方が違うということになれば、子どもは「自分がこうすればこのような反応があるだろう」という予測をすることが難しくなります。予測が難しいということは、大人が考える以上の戸惑いや不安感を感じることになるでしょう。これは、愛着形成にとって大きなリスクとなります。
   しかし経済的な状況を考えれば、仕事のために保育園に子供を預けざるを得ないという家庭は多いはずです。それだけに、母親との間に確かな愛着を形成する上では、母親が子供と過ごす時間に、例えば「愛着7」のような適切な愛情行為によって、質の高い養育を施すことが必要になるでしょう。

親の油断から生まれる無関心
   親がパチンコなどの遊技場へ行くために、子どもを一人家に残しておくといったネグレクト(育児放棄)は言うまでもありませんが、一般的な家庭でも、親が何かしながら養育に当たるという場面が考えられます。今は、スマフォでのメールやラインやゲーム、テレビ等、親にとっても魅力的な情報が溢れています。例えば、せっかく授乳していても、子どもと目を合わせずに片手でスマフォを操作したりテレビを見たりしていては、子どもに視線を送ることができません。これでは、子どもは親からの関心を受け止めることが難しくなり、愛着を形成する上で大きなリスクとなります。また、子どもにテレビを見させておいて親が別のことをしているような場合も同様です。
   また、生後一歳半までの間に母親との間に「愛着」を形成できなかった子どもの中には、通常子どもの目が見えるようになる生後6か月から9か月の間に起こる「人見知り」をしなかったり、誰に対しても抵抗感がなかったりする子どもがいる場合があります。そういう子どものことを親が「独立心がある」「この子は手のかからない子だ」と誤解し、あまり手をかけないようになってしまうことも愛情不足に陥る落とし穴です。

親の“産後うつ”
   出産後にうつ的症状を経験する女性の割合は、三割程度いるという事ですが、このようなケースは特に心配です。更に、最近では「ワンオペママ」と呼ばれ、家族からの協力を得られず育児と家事の全てを母親がたった一人で背負うというケースが増えているようです。このような状況に置かれた母親は、うつ的症状を示す割合が高くなります。このような親の下では、子供も親の不安な気分や落ち込みに過敏に反応しストレスを抱えるため、不安定な人格を持ったタイプに育つ場合が多いのです。
   こうした状況を解決できるのは、父親をはじめとした家族しかいません。子供の一生に影響を及ぼす“乳幼児期の養育”という大仕事をしている母親をサポートするために、ぜひ、「乳幼児期の愛着形成のために 〜欠かせない家族の協力〜」の項をご参照ください。

子どもの前での夫婦間の不仲
   夫婦間の不仲の関係が子どもに与える影響も大きいです。一歳半から三歳の頃の子どもは脳の成長が著しく、人間関係に必要な感情が発達します。幼いように見えても、周りの家族の様子をよく観察しています。
   我が国の「愛着」研究の第一人者である精神科医の岡田氏は次のように指摘しています。
「たとえ母親との『愛着』が安定したものであっても、離婚によって愛着していた父親がなくなったり、両親の間で強い確執が繰り返されたりすれば、どちらの親にも愛着しているがゆえに子どもは傷つき、通常の愛着の仕方ではなく、反抗したり、無関心になったりすることで、傷つくことから自分を守ろうとするだろう。そうした体験は、その後の人格形成に影を落とすことになる。」
   乳幼児期に「愛着」を形成できていたと思っても、子どもがいるところで、父親と母親が互いに悪口を言い合うことによって、親子間の「愛着」が傷つけられることになってしまうのです。

親の不安定な人格
   親が精神的に不安定なタイプの場合、それが子どもに引き継がれるということは度々起こります。仮に、子どもが困った時に親に助けや親密さを求めた場合、親が人との交流を避けがちなタイプである場合には、むしろ親から拒絶され失望感を味わうばかりで、子供も親と距離を取るタイプに育つようになります。また、親が他者の言動に過敏なタイプである場合にも、子どもが親に助けを求めたことが親の逆鱗(げきりん)に触れることになってしまい、それ以後子供も親の機嫌にビクビクしながら生活することになってしまいます。つまり、子どもは、親と一緒に生活していくために、止むを得ず親と同じスタイルを身に付けていかざるを得ない面があるのです。
   こうした状況を防ぐためには、親が「愛着7」のような適切な愛情行為を努めて意識して子供と接することが必要になるでしょう。