これまで連載を続けてきた「愛着の話」。結びに「真の幸せとは何か?」ということについて考えてみたいと思います。

 インドの北東部にあるブータンは、二〇〇五年の調査で、国民の97パーセントが「幸福だ」と感じている国であるという事が分かりました。世界で最も貧しい国の一つが、世界で最も幸せな国であるのはなぜでしょう。

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 ブータン研究センターのカルマ・ウラ所長は、次のように述べています。「幸せにとって大切なことは、人々がつながって生きることです。」つまり、助けを必要としたときに、周りの人必ず助けてくれると信じることができる強い絆こそが心の拠り所なのです。例えば、この国には、介護老人施設や養護老人施設もありません。老人の世話は当然のごとく家族が行うからだそうです。また、孤児院もなければ孤児もいません。親がいない子どもがいれば、親類縁者近所の人達が必ず引き取って育てるからだそうです。更に、ホームレスもいません。生活に困っている人がいれば、必ず誰かが手を差し伸べるからだそうです。

 これまで述べてきた「愛着(愛の絆)」を形成することとは、正にこのブータンの人々のように、誰かが誰かに信頼を寄せ、その両者が“愛の絆”で繋がることです。A.マズローの言葉を借りれば、「誰かと“愛の絆”で繋がっていたい(その人の愛に包まれていたい)」と願う「所属と愛の欲求」が満たされることと言えるでしょうか。それは、母親に対してだけでなく、学校の先生、友人、同僚、さまざまな人に対してでき得る心の「絆」です。

   実は、この「愛着の話」の第1話では、我が子が楽をできるよう何一つ不自由させる事なく育ててきたと語るある芸能人の母親が、大人になっても我が子から憎まれ続けてきた、というエピソードを紹介していました。その第1話では、「それでは、本当の『愛情』とは一体どんなもののことを言うのでしょう。」と結んでいましたが、そのお子さんは決して金品を望んでいたのではなかったのだと思います。真に求めていたのは、母親の視線笑顔優しい言葉等で築かれた、正にブータン王国の皆が持っている母親との繋がり、“愛の絆”だったのではなかったのでしょうか?

   私は晩年、卒業する子供達に毎年こう言ってきました。
みなさん、本当の幸せとはお金を儲けることでも、有名になることでもありません。人と人が仲良く生活できること、それこそが真の幸せなのです。
   どんなに出世しても、仕事に追われ家族を顧みる余裕さえない生活がはたして幸せと言えるでしょうか。私は、多少貧しくても、家族のみんなの心が「愛着(愛の絆)」でつながった生活こそが幸せな家庭だと思います。そういう家族で育った子どもは、必ず「安定型」の愛着スタイルを持つ大人に成長し、真の幸せを手に入れることでしょう。

(次回「おわりに」に続く)