【今回の記事】

【記事の概要】
   北谷(ちゃたん)の暴君-。非行に走る子どもたちの立ち直りを支援する団体「HOME(ホーム)」の代表を務める仲座大二(だいじ)(26)の、少年時代の呼び名だ。
 小学生の頃は野球少年だった。2番ショートを任され、俊足好守を生かして先輩の試合にも抜てきされた。だが、打撃が大の苦手。打てない悔しさで、泣きながらバットを振った夜もある。チームのコーチだった父と一緒に、バッティングセンターにも通い詰めた
 それでも、思うように結果を出せない。強豪チームの中で次第に同級生に追い付かれ、そして抜かれた。「こんなに努力してるのに」。劣等感に押しつぶされた
 野球を続けるか悩んでいた6年の頃、2歳上の兄が友達とたばこを吸っている姿を見た。「かっこいい。野球と勉強以外で目立てるのはこれだ」。次第に冷め始める野球への情熱
 中学の野球部に入ってもやる気が出ない。2カ月後、練習態度に怒った顧問と取っ組み合いの大げんかに。「もうやめる」とグローブを放り投げた。かつて応援してくれた父も、熱意を失った息子を止めようとはしなかった
 授業にあまり出なくなり、学校では悪さばかりを繰り返した。職員室に花火を投げ込んだり、備え付けの消火器を体育館にまき散らしたり、同級生や後輩に暴力を振るったり…。喫煙がばれ、親が学校に呼び出されたのは多い時で週8回。その度に母は頭を下げ自分を怒鳴りつけた。家に帰ると、事情を知った父に殴られることもあったが、聞く耳は一切持たなかった。
 高校はすぐに自主退学母に「辞めるな」と言われても意に介さなかった。中退後、のり面工事の仕事を始める傍ら、バイクに乗って暴走を繰り返すようになったのはこの頃だ。
 17歳になる直前の七夕の夜。先輩や同級生と暴走した帰り道、パトカーに追跡された。浦添市から沖縄市まで必死に逃げ回る。「怖い。でも引こうにも引けない」。細道に入り、何とか振り切った。後日、先輩が逮捕されたと聞き「俺も捕まるはずな」と覚悟した。
 出勤の準備をしていた11月の朝5時半ごろ、突然家の電話が鳴る。「警察だけど、何の件か分かる?」。とっさに逃げようとして玄関のドアを開けると、門の前には複数の警察官が待ち構えていた。突き付けられた逮捕令状。警察官から説明を受けた母は、玄関先で泣き崩れた。その姿を見ても「いつ出られるかな」。それしか頭になかった。


【感想】
   小学生時代は、俊足好守を生かして先輩の試合にも抜てきされ、意欲的に野球に取り組んでいた大二君。しかし、17歳になる頃にはバイクで暴走して警察に逮捕されるという転落人生を歩むことになってしまった。

   世の中には、同じように非行に走る若者が数多くいます。今回は、この事例を通して、大人がどう導いてやれば、子供を非行に走らせずに済むのか?ということについて考えてみたいと思います。
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   大二君は、思うように打撃の結果を出せず、次第に同級生に追い付かれ抜かれ、「こんなに努力してるのに」と劣等感に押しつぶされ、野球を続けるか悩んでいた6年の頃、兄が友達とタバコを吸っている姿を見てタバコを吸い始めました。この頃から野球への情熱が冷め始め、心が荒れていったようです。つまりは、タバコに手を出したきっかけとなった野球に対する強い“劣等感”から脱出できなかったことが大きなターニングポイントだったと言えるような気がします。
   打てない悔しさで夜に泣きながらバットを振った。父と一緒にバッティングセンターにも通い詰めた。大二君が「こんなに努力してるのに」と思うほど打撃の技術向上に努力した。それでも“結果”がついてこなかったために、彼は強い劣等感を抱くことになってしまいます。
   私は、この時の彼を、その後誤った道に進ませてしまったのは、親のある価値観だったのではないかと思います。

   以前私はこんな記事を投稿していました。

   この中では、親が「結果」を重視するか、「過程」を重視するか、で子供の価値観が変わってくるという旨のお話をしました。
   テストの成績で『100点とれて偉いね』、運動会の徒競走で『1位になって立派だね』のように“結果”を褒める言葉を何度もかけているうちに、子ども自身に「負ける人間は価値がないという価値観が身に付いてしまいます。
   逆に、成績が悪くても「頑張って勉強したところが偉かったよ」、徒競走で2番でもビリになっても「最後まであきらめないで頑張って走ったところが立派だったよ」と“過程”を褒める言葉をかけていれば「努力できる人間が価値がある」という価値観が子供に身につきます。
   大二君の劣等感の元になったのは、どんなに練習しても報われなかった“結果”でした。これは、彼の中に「“結果”が出せない人間は価値がない」という価値観が根付いていたためと言えそうです。そして、子供である大二君がこの価値観を身に付けたのは親の価値観による影響に他なりません。

   しかし大二君は「こんなに努力してるのに」と自分自身で思うほど打撃の技術向上に取り組んだのです。その姿勢を親が「お前は自分の目標に向かって最大限の努力ができる素晴らしい子供だ。」と肯定的に認めてやっていれば、劣等感に押しつぶされることもなかったのではないでしょうか?

   人間ならば誰でも失敗挫折を経験します。その時に、親が「過程」を重視する人間か、「結果」を重視する人間かで、子供への評価が180度変わります。そして、それによって子供は自己肯定感を高めたり、逆に、劣等感に襲われ精神的な強いダメージを受けて内に閉じこもる生活に追い込まれたりするのです。
   精神科医の岡田氏は、親が果たせなかった夢を子供に託して過度に干渉する親御さんがいることを危惧しています。親の思いが強すぎるあまり、「結果」重視の価値観を子供に押し付け、子供を精神的に潰してしまわないようにありたいものです。