愛着不全の人が、愛着形成につまずいた理由は、乳幼児期(特に1歳半まで)において、他者に受け入れられなかったことと、同時に、自分を受け入れることもできなかったことです。それを「育て直し」するということは、自分にとって重要な他者(多くの場合は母親)に受け入れられるプロセスをもう一度やり直す事で、自分を受け入れられるようになることです。そうすることで、初めて愛着不全の傷跡から回復し、「今の自分でいいんだ」と思えるような自分らしさを手に入れることができるのです。

   さて、その具体的な方法ですが、それは先に述べた「愛着7」に他なりません「愛着7」による愛情行為は、その内容からも分かる通り、子どもを肯定的受け止めるものです。子どもの立場からすれば、支援者に対して安心感を抱き、自分の在りのままを認めてもらう行為です。愛着不全の人はその愛情行為を乳幼児期に受けて来なかったのです。そこで、今一度、支援者からの視線微笑み称揚傾聴等を与え直すのです。そのことによって、少しずつ自己肯定感が高まり、「この人は自分のことをいい子だと思ってくれている。なんだか少しずつ自信がついてきたぞ。」と思えるようになるのです。
   もちろん、「愛着7」の①の「できるだけ子どもの近くにいて、子どもの求めに応じてすぐに養育にあたる」については、乳幼児期のように母親がいつも子どもの近くにいる必要はありませんが、母親の“気持ち”だけは子どもから離れないようにしたいものです。なぜなら、「育て直し」をするということは、一度愛着不全の症状に陥った子どもを正しい状態に戻すという難しい作業なので親は乳幼児期の時よりも、用心深く子どもに関心を向ける必要があるからです。

   また、「育て直し」の最中は、何かしらの問題が発生し子どもが困っているときは、「○年生にもなって、それぐらいのことで」等と軽視したり面倒くさがったりせずに、丁寧にその問題解決の手助けをする必要があります。時には「赤ちゃん返り」のような甘えた症状を見せる場合もあるかも知れませんが、その時でも親身になって対応する必要があります。繰り返しになりますが、愛着を形成するということは、「お母さんは自分が困った時に必ず味方になってくれる」という信頼感を子どもから得ることに他なりませんから、注意が必要です。

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   私は、この「愛着の話」(目的や全体像については「はじめに」「目次」参照)の執筆に当たる前に、学校現場で「愛着7」を学校の多くの子供達に実践してきました。すると、問題行動を繰り返す愛着不全と思われる子どもの行動は大きく変わりました。まるで、今まで適切な支援を受けて来なかったという飢餓感満たされたような輝きがありました。子供達は、心の中では「よりよい自分になりたい」ともがき苦しみながら、問題と思われる行動を繰り返していたので、そこに自分を肯定的に受け止めてくれる大人が現れれば、必死にその大人について行こうと思うのでしょう。