【今回の記事】

【記事の概要】
   大量のごみを自宅にため込んだ「ごみ屋敷」。その住人は、周囲の指摘に耳を貸さない変わり者と思われがちだが、認知症や生活意欲の喪失が原因となっている場合がある。何らかの理由で身の回りのことをしなくなり、SOSの発信力も低下した「セルフネグレクト(自己放任)」の状態に陥ってしまった人たち。東邦大(東京)看護学部の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)は「地域のさりげない見守りなど一歩前に進んで手を差し出すことが大事」と指摘している。

   なぜセルフネグレクトに陥ってしまうのか。岸教授はこれまで関わった(以下の2つの)事例を紹介した。
息子と暮らす女性は年を取るにつれ、ごみ出しや炊事が面倒になってきた。息子から「おまえは役立たずだ」と繰り返しののしられ、次第に「自分は価値のない人間」と考えるようになり「枯れるように死にたい」と望むようになった。これは息子に遠慮、気兼ねして声を上げることができなくなったケースだ。
ある男性は分別して出したごみに対して、近所の女性に分別方法が悪いと指摘された。次第にごみを出すのが怖くなり、気が付けば家の中はごみまみれ。近隣住民とのトラブルが引き金だった。

   岸教授によると、認知症や物忘れ、精神疾患など病気に起因するのが約3割。そのほか、配偶者など親しい人を亡くすリストラ地域からの孤立世話になりたくないというプライドや迷惑をかけたくないといった日本人特有の考えが邪魔するケースなど、理由はさまざまだ。そしてこう指摘する。「これは誰にでも起こりうることです」

【感想】
   私は今回の記事を読んで、岸教授と同様に、「セルフネグレクト」は誰にでも起きる症状であると感じました。以下に上記事例や岸教授の指摘に基づいて考えてみたいと思います。
事例①について
   なぜ同居の息子が高齢の母親を手伝って、ごみ出しや炊事をしないのでしょうか?あるいは、出来ないのでしょうか?もしかしたら、「男は家事はしない」という考えの家庭に育ち、息子には家事をする気持ちも能力もなかったのかも知れません。
   もちろん、母をなじる息子の悪態を見る限り、母子間の「愛着(愛の絆)」の未形成も要因となっていることは間違いないと考えます。
事例②について
   この男性は正しい分別方法を知りませんでした。更に、注意された経験が恐怖に変わったという経緯を考えると、感覚過敏の特性を持っていた人だったのかも知れません。しかし、ゴミを正しく分別出来てさえいれば、注意されることもなかったのです

   さて、上記事の岸教授によれば、認知症や物忘れ、精神疾患などの病気が「セルネグレクト」に陥る要因の約3割を占めるとされていますが、これらは致し方無いことですし、また、「配偶者など親しい人を亡くす」「リストラ」も誰でも陥る可能性のある状況です。
   しかし、それ以下の「地域からの孤立」「世話になりたくない」「迷惑をかけたくない」は、社会の中の人と人との繋がり、つまり「愛着愛の絆)」が希薄化している事による弊害と考えられます。

   これらの問題を解決するには、主に2つの方法が考えられます。
   先ずは、乳幼児期における養育をはじめとし、
家庭内における親子間の愛情行為(例「愛着7」)によって、「愛着(愛の絆)」の形成を図る事です。精神科医の岡田氏は、愛着は人間関係能力に影響を与えると指摘しています。私達は、一般社会と無縁の生活はできません。“一般社会”とは、その殆どが記事中のごみ収集係の方や、または役所で働いている方々のような“人間”です。その“人間”との繋がりが持てない人は、社会と隔離された生活を送る事になるわけですから、当然ゴミを出す事が出来ず、家の中に溜まっていきます。その意味で、私達にとって“人間関係能力”は必要不可欠なものなのです。もちろん事例①から分かる通り、家庭内での親子関係を築く為にも必要です。つまり、一般社会と適切な関係を保ちながら正常な生活を維持する為には、人間関係能力を育む愛着の形成は必須のものであると考えます。
   更に大切なことは、子供に家事の手伝いの経験をさせる事でしょう。男性であっても、家事をしなければならない時があるという認識を持つことや、ゴミの分別の仕方を含めて、正しい家事の方法を“独り住まい”をする前に身につけておくことは、現代の“核家族化”、“老々介護”、“非婚化”の現代においては、成人した時にこそ必須となる“スキル”と言わざるを得ません。

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   しかし、現代においては、家族1人が1台ずつゲーム機やスマホ等のモバイル機器を所持することによって「脱愛着」が更に進んでいます(「なぜ家族同士の愛着が崩壊していくのか? 〜スマホに依存した家族生活の怖さ〜」参照)。
   更に、昨今は、「手伝いなどしなくていいから、とにかく勉強していなさい」という「お受験生活」が行われている家庭も多くなりました。また、一般的に見ても、子供に手伝いを継続的にさせている家庭がどれだけあるかは疑問です。
   我が子が将来、認知症や物忘れ、精神疾患などの病気に陥ったり、配偶者など親しい人を亡くしたりリストラにあったりする可能性は決してゼロではありません。仮にそういう状況に陥った場合、適切な人間関係能力ゴミの分別の仕方や掃除・洗濯の仕方を身に付けていなければ、生活そのものが破綻してしまう事になるのです。