今回からは、「愛着7」の7つの愛情行為一つ一つについて、それらの意義や留意点などについてお話ししていきます。
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   このことの大切さについては、岡田氏が「応答性」として、「相手が求めているときに、すぐに応じてあげること」と述べています。子どもが「脱愛着」(どれだけ泣いても来てくれない母親との絆をあきらめる)の状態に陥らないようにするためです。
   愛着がスムーズに形成されるために大事なことは、十分なスキンシップと共に、母親が子どもの欲求を敏感に感じ取る感受性を持ち、それに速やかに応じる姿勢を持っていることです。子どもは、いつもそばで見守ってくれ、必要な助けを与えてくれる存在に対して、特別な結びつき(愛着)を持つようになります。子どもが求めたら母親がすぐに応えてくれるという関係が、愛着を育むうえでの基本なのです。この時期、母親はできるだけ子どもの近くにいて、子どもが求めた時に、すぐに応じられる状態にあることが望ましいのです。
   このことに関わって、先の「親から適切な養育を受けなかった赤ん坊の悲劇」の項で、赤ん坊に何らかのトラブルが起き泣いたときに、その後の時間の経過とともに、「抵抗」「絶望」「脱愛着」と、“愛着の消失”に向かって事態はどんどん悪化していくということを述べました。つまり、赤ん坊にトラブルが起きたときに母親が駆け付けるまでの時間は、できるだけ短い方が愛着形成にとって有利なのです。

   私が住む岩手県はご存じのとおりの雪国で、小さい頃の遊びといったら雪合戦でした。本格的な雪合戦になると、相手から責められたときに隠れることができる文字通りの“安全地帯”となる雪山や壁がフィールドの中にいくつも作られます。攻める時もその雪山に隠れながら、相手に雪玉を投げるのです。もしもその安全地帯から離れすぎてしまうと、すぐに相手の雪玉の餌食になってしまうため、怖くて相手に攻め入ることができません。つまり、「危うくなったらすぐに避難できる」という安全地帯が近くにあることによって、安心して相手を攻撃できるのです。もしもこの競技に安全地帯が無ければ、「どれだけ頑張っても無理」という“あきらめ”にも似た気持ちになるでしょう。それはつまり、赤ちゃんにとっては、“いくら泣いても来てくれない母親をあきらめる”ことと同じ意味を持つのです。

   更に、生まれてから1歳半の時期は愛着形成の「臨界期」(愛着形成がスムーズにできるギリギリの境目)と言われており、この時期を過ぎると、愛着形成がスムーズにいかなくなるそうです。精神科医の岡田氏は自身の著書の中で「子どもが将来、「母という病」(母親を疎ましいと思う気持ちが要因となり、母親を介して起こる対人関係や恋愛、子育て、うつや依存症などの精神的な問題)に苦しまないためにも、少なくともその時期だけでも、子どもに没頭して関わることがとても大切なのだ。」(岡田2014)と述べています。それ以外にも、この1歳半までの養育は子供の一生の人格形成人間関係能力、知能、自立性、自律性等)に大きな影響を及ぼします。この1歳半までの時期に子供の養育に真剣に向き合えるかどうかは、まさに我が子の一生を左右するターニングポイントになるのですね。
   
   繰り返しになりますが、愛着が形成される、つまり親と子の間に“愛の絆”が生まれるということは、赤ちゃんが母親のことを「自分が何かで困った時には、この人がすぐに助けに来てくれる」という信頼感の上に成り立っているのです。この「すぐに」という信頼感は、母親が赤ちゃんの傍にいるという意図的な“環境づくり”があって初めて勝ち取ることがができるものなのです。