(この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)


   先に、「本来ならば、母子分離の導き役に最適なのは父親である」ということを述べました。ここでは、まずそのことについて考えてみたいと思います。
 そのためには、「母性」と「父性」の役割の違いについて考える必要があります。「母性」は、子どもにとって自分を受容守ってくれる「安全基地」としての特質があります。しかし、二、三歳頃の母子分離の時期には、その「母性」が妨げになることがあるのです。つまり、母子が分離すべき時、すなわち、子どもが分離しようかどうしようか迷っている「再接近期」に、本能的に子どもを守ろうとする母親は、ややもすると、自分のほうに取り込もうとする危険があるのです。その結果起きるのが「母子融合」です。これについて、精神科医の岡田氏は自身の著書で次のように述べています。
母子融合の名残を引きずる存在には、大人の男として一人の女性を守り、愛することは難しい。それは、女性たちがいみじくも見抜いた通りなのだ。」
いわゆる「マザコン」と呼ばれる人達はこの「母子融合」に端を発するのでしょう。
   その時に、子どもを母親から離し、外界へと導いてくれるのが、父親の「父性」です。父親が、子どもの不安を緩和し、安心して歩み出せるように手を引くことで、子どもはスムーズに分離不安を乗り越えられるのです。その時のために父親も、子どもを抱っこする母親の横で、子どもを見て微笑んで優しい話し方で語りかけ(安心7支援ながら、父親に対する安心感を子どもに与えておくようにしましょう。
「父性」には、「母性」にはない役割がまだあります。それは遊びです。ある研究によると、母親は、型通りの遊びやおもちゃを使った遊びを好み、父親は、体を使った遊びや型にはまらない独自の遊びを好んだそうです。そして、子どもは母親と遊ぶことよりも、父親と遊ぶことにより興味を示しました。父親との遊びによって子どもの知的好奇心がくすぐられたのかもしれませんね。このことについては、遠藤氏らも、父親の場合は、子どもの養育活動への関わりよりも、特に遊び場面での子どもとの関わりの方が重要であると指摘しています。(遠藤ら2005
   また、この父親との「遊び」こそが、先の「母子分離」を果たすうえで、有効な手立てと言えるでしょう。しかし、2、3歳で迎える「母子分離」の時期に、父親が仕事に追われて「子供と遊ぶ」という育児経験をしていないと、母子分離が達成されず、成人後も“マザコン人間”になり、一人の大人として自立できなくなってしまう危険が高まると考えられます。
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(不正の働き③は次回で紹介します)