【今回の記事】

【記事の概要】
   打たれ強い人間に育てようとして、ついつい子どもを叱ってしまう保護者も少なくないと思います。しかし、(中略)(子どもの頃どんな養育を受けた人が将来へこたれない大人になる確率が高いのか)ということが、国立青少年教育振興機構がまとめた調査結果からわかりました。多少の困難や逆境にも負けない「へこたれない力」を子どもに身に付けさせるには、どうすればよいのでしょうか。

社会を生き抜くために不可欠    調査は2016(平成28)年10月に、子ども時代の体験と現在の資質がどう関係しているかを調べるため、20~60代の男女を対象にウェブアンケート方式で実施し、合計5,000人から回答を得ました。調査では「社会を生き抜く資質・能力」として、「意欲」「コミュニケーション力」「自己肯定感」に加えて「へこたれない力」を挙げているのがポイントです。    
   現在の日本の社会では、失敗を恐れて挑戦しない子ども打たれ弱い若者の増加が問題となっており、大学生の就職活動でも、多少のことではへこたれない「打たれ強さ」を重視する企業が増えています。言い換えれば、困難に負けずに前向きに生きる「へこたれない力」は、これからの社会を生きるうえで、最も重視される力の一つだと言えるでしょう。
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   調査では、「失敗してもあきらめない」などの質問への回答を点数化して、「へこたれない力」の高いグループと低いグループなどに分けて、子ども時代の体験の多寡との関係を探りました。

多様な経験プラス保護者の「褒める力」 では、子ども時代のどんな体験が「へこたれない力」の育成に役立つのでしょうか。まず、子どものころに親に褒められたり厳しく叱られたりした経験が多いグループでは、「へこたれない力」の高い層が35.4%いるのに対して、同様経験が少ないグループでは10.3%しかいませんでした。先生や地域の大人との間でも同様の傾向が見られました。また親に褒められたことが多く叱られた経験の少ないグループでは、「へこたれない力」の高い層は30.9%だった一方、褒められたことが少なく叱られたことが多いグループでは20.1%でした。子ども時代に叱られた経験よりも、褒められた経験の多い者のほうが「へこたれない力」が高いと言えそうです。この他、子どもの頃に“しつけなど「基本的生活習慣」「お手伝い」「家族行事」などの経験の多い者ほど「へこたれない力」が高く、公園で友達と遊ぶなど「集団での外遊び」や「自然の中での遊び」の多い者や、小学校と中学校時代に「体育祭や文化祭の実行委員」などの経験のある者ほど「へこたれない力」が高いということもわかりました。

【感想】
   まずは、国立青少年教育振興機構がまとめた今回の調査結果を整理したいと思います。

実験①
褒められたり厳しく叱られたりした経験
多いグループ
少ないグループ
を比べると、
多いグループの方が3倍以上「へこたれない力」が高いという結果になりました。
褒められたり厳しく叱られたりした経験が
多い」ということは、それだけ親から手をかけられたということであり、「(同経験が)少ない」ということは、親から余り手をかけられなかったということと捉えることができます。
   つまり、余り手をかけられない子供よりも、よく手をかけられた子供の方が圧倒的に「へこたれない力」が高いということが分かります。「余り手をかけない方が自力で何とかしようと頑張るようになり、『へこたれない力』が身につくのではないか?」という考えはもっともらしくもありますが、実は間違いであるということが分かります。

   しかし、この実験のように「褒められたり、厳しく叱られたり」では、褒められる方が多いのか叱られる方が多いのかは分かりません。そこで、もう1つの実験が必要になります。
実験②
褒められたことが多く、叱られたことの少ないグループ
褒められたことが少なく、叱られたことが多いグループ
を比べると、
褒められたことが多く、叱られたことの少ないグループの方が1.5倍
つまり、叱られる経験よりも褒められる経験の方が「へこたれない力」を伸ばすということが分かります。

   さて、余り手をかけられない子供の方が「へこたれない力」がつかないのはなぜでしょう?また、叱られたことが多い子供の方が「へこたれない力」がつかないのはなぜでしょう?
   実は、これらはどちらも、結果的に「回避型」の愛着パターンや愛着スタイルを育ててしまう養育の仕方です。これらの「余り手をかけられない」「叱られたことが多い」養育を受けた子供は、成人する頃には「回避型」愛着スタイルを形成することが多いです。この「回避型」愛着スタイルの特徴は、
・葛藤を避けようとすること
・何に対してもどこか醒めているところがあること
・面倒くさがり屋であること
・頼られることを面倒と感じること
です。これらの特徴を持った人間は困難な事態に遭遇すると面倒くさいと感じるために、その状況から遠ざかろうとします。これでは「へこたれない力」が身につくはずがありません。

   また、調査では、子どものころに“しつけなど「基本的生活習慣」「お手伝い」「家族行事」などの経験の多い者ほど「へこたれない力」が高いという結果が見られました。これは、「基本的生活習慣」「お手伝い」「家族行事」などの経験が、本当は遊んでいたい、テレビを見ていたい、一人で自由なことをしていたい等の弱い心をコントロールする経験となって、弱い気持ちを我慢する力、いわゆる「へこたれない力」が鍛えられたと考えられます。
   また、“集団での外遊び”経験は、社会人となった時に他者の存在を尊重して自分の気持ちを適度に我慢する気持ちを身につける上での訓練になり、やはり「へこたれない力」が鍛えられたと考えられます。集団遊びの中でわがままを通すと友達から嫌われます。子供は友達集団から嫌われたくないので、集団遊びの経験を通してわがままを我慢する力を身につけているのでしょう。つまり、「ドラえもん」に出てくる「ジャイアン」タイプの子どもには「へこたれない力」は身につかないのです。
   なお、「外遊び」という点については、外の方が様々な環境要素があり、家の中よりも子供にとっての負荷が高いことが「へこたれない力」の定着に関係していると思われます。

   何れにしても、子供によく手をかけて、たくさん褒めることが「へこたれない力」の育成に繋がるという事が分かりました。手をかけず叱ることが多いと、問題事に対して消極的で面倒くさがりな「回避型」タイプに育ちますが、手をかけてたくさん褒めることは、いわゆる「安定型」タイプを育てる養育となるのでしょう。つまり子どもは親の愛情を受けて愛着(愛の絆)を形成し「安全基地」を持ちながら安心して活動に取り組める「安定型」愛着スタイルを持つことが「へこたれない力」の大前提になっていると考えられます。