次に、「抱き癖」についてです。

{A4AC5D45-0149-47B7-BB5D-AF6F42D5F24D}

   これは、臨床ソーシャルワーカーのヘネシー澄子さんが経験したことだそうです。ヘネシーさんが、アメリカに留学した1961年には、「赤ちゃんは、抱いて、抱いて育てるものです」と習ったそうです。ところが、日本では「抱き癖」という言葉がはやっていました。そんな時、子育てのことでヘネシーさんのところに相談にいらしたあるお母さんがこう話しました。「から『抱き癖をつけてはいけない』と言われて今六歳の長女Sが赤ん坊のとき、泣いているのを黙って見ていました。母も私をそうして育てたと言います。その結果、Sが二歳になったとき、Sは私を蹴って『大嫌い』と叫びました。」
   この「抱き癖をつけてはいけない」という誤った習慣がなぜ生まれたかは分かりません。当時はよかれと思って行われていた子育て法だったのだと思いますが、そうして育てた結果、その女の子はお母さんに「大嫌い」と言ったのです。しかし、この「抱き癖はよくない」という考えは、今でも一部の親御さんの中に残っているようです。たとえば、独立心を育てるために、抱いたりあやしたりしなかったというお母さんがいるということも聞いたことがあります。
   また、子どもがあまり好きでないために、子どもからベタベタされるのが嫌だったから放っておいたというお母さんもいるそうです。このようなお母さんのもとでは、子どもが二歳を過ぎると、はっきりと表情の乏しさや口数の少なさが現れてきますし、抱いてくれる人ならだれでも良いという子どもがいます。母親という特定の対象が世話をしなかったために安全基地を得られなかった結果の「回避型」愛着パターンの症状です。母親の中には、その状態をむしろ、「世話の焼けないよい子」とさえ思っている人さえいるのです。その時はよくても、そのうちに、落ち着きが無くなったり友達に対して叩くというような攻撃的な行動を現したりする子どもになります。今は、赤ちゃんが泣いていてもあやしも抱きもしないという「ネグレクト」という特殊な親子形態が存在していますが、これは奇しくも「赤ちゃんが泣いても抱かない」という昔の養育と同じ状況です。現在では社会問題となっている親子形態が昔はまかり通っていたのです。そうして育った子どもは、どの子も心の中では親のことをやはり「大嫌い」と思っているに違いありません。
   しかし、今は「抱っこ」は愛着の形成に最も大切だと言われています赤ちゃんは、抱いて、抱いて育てるものです。