【今回の記事】

【記事の概要】
◎元名大生裁判を取材して 河北新報社報道部・斉藤隼人(32)
   無期懲役を宣告された元名古屋大女子学生(21)=事件当時未成年、仙台市出身=の裁判員裁判を名古屋地裁で取材した。殺人や劇物のタリウム混入など六つの事件を次々に起こし、1人を殺害し、5人を殺そうとした。地裁判決は「複数の重大かつ悪質な犯罪に及んでおり、罪は誠に重い」として無期懲役を言い渡した。新聞の見出しだけを見れば「史上まれに見る少年凶悪犯」に違いない。ただ、約2カ月半、計22回の公判を傍聴してきた立場からすると、少し異なる所感を抱いた
   精神鑑定をした3人の医師に共通していたのは、元名大生が広汎性発達障害他者への共感性が欠けているという点だった。相手がどう思うか」に無頓着な上、深い反省ができない興味は著しく偏り、対象は偶然にも「人の死」や「人体の変化」に向かっていった。他の少年事件とは本質的に異なり、供述や犯行はただ本能に「真っすぐ」に従っただけのようにも見えた。
   関係者の証言が集まるにつれ、「なぜ」という疑問が急速に膨らんだ。劇物を教室で同級生になめさせるなど、問題行動は16歳前後に顕著になった。家族や高校、同級生、さらに警察と数多くの関係者が危険な「兆候」を感じ取っていた
 高校は、被害男性のタリウム中毒が判明し、劇物混入事件につながる可能性をつかんだ後も積極的な調査を怠った宮城県警は視力が著しく低下した被害男性から「クラスに変な子がいる」「白い粉を周囲になめさせていた」と決定的な情報を得ていたのに聴取すらしなかった19歳で名古屋の知人女性を殺害するまで、いくつもの(高校や警察による)不作為が積み重なった

【感想】
   この裁判に関わって、私は以前に以下のような記事を投稿している。
   この中では、次のように述べている。
「『発達障害者支援法』が平成17年に施行されてから既に10年以上が経つ現在に至っても、未だに(広汎性発達障害等の)発達障害に対する理解が進んでいない今の世の中の犠牲者と言えるのかもしれない。
   つまり、被告が高校生だった2012年は、「発達障害者支援法」が施行されてから7年、通常学級にも在籍する発達障害の子供のための「特別支援教育」がスタートしてからは5年も経っていたにも関わらず、「広汎性発達障害」等の発達障害を疑う事なく、問題行動だけを見て一方的に「タリウム毒女」とまで非難した当時の社会の未熟性を指摘した。

   しかし、今回の記事での記者の手記は、それ以前の初歩的な問題があった事を教えてくれる。
   まず高校では、被害男性のタリウム中毒が判明し、劇物混入事件につながる可能性をつかんだ後も調査を怠っていた
   更に警察では、視力が著しく低下した被害男性から「白い粉を周囲になめさせていた」等のと決定的な情報を得ていたのに聴取すらしていなかった
   もしも、それぞれの関係機関がそれぞれの調査や聴取をきちんとしていれば、被告が重大な犯罪を起こす前に、被告に対して考え方や行動を修正させる働きかけが出来ていた可能性はかなり高い。
   つまり、これらの関係機関によって繰り返された怠慢のために、被告は、他者への共感性に欠け、興味が著しく偏る広汎性発達障害という先天性の特性のために、「殺人」という終着駅までの誤った線路をただただ本能的に走らされたのだ。その被告が第一審で“無期懲役”を言い渡されるというこの現実を、私は特別支援教育に携わる人間として心が痛み、素直に受け止める事が出来ない。
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   第二審では、正当な判決が下ることを心から祈っている。