前回からの続きです。)
   さて、自閉症スペクトラム(ASD)の男の子から拒否されてしまった私。
   意気消沈した私は、その男の子が閉めてしまったドアを必死の“作り笑顔”で開けましたドアを閉められたけど先生は怒ってないよ」というメッセージを込めてその子は私が入ってきたことに気がつきましたが、すぐに他の子供たちと遊びを始めました。
   その後、私は外に出て1年生の男の子の様子を観察していました。すると子供部屋の窓からは、子供達のとても楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
   しばらくして、その4年生の男の子と一緒に遊んでいた子供達は習い事等で帰り、子供部屋からは何も声が聞こえなくなりました。「あの子はどうしてるかな?」と思い、子供部屋に向かいました。するとなんたる偶然、その男の子が部屋の入り口から廊下に向かって走り出てきました。私とバッタリ会ったその子は、私に「電卓どこにあるか知りませんか?」と聞いてきました。私はとっさに「礼儀正しい聞き方だね。でもごめん、先生はこの学童に来たばかりだから分からないなぁ」と返事をしました。(内心は、その子の方から声をかけてくれたことが飛び上がるくらい嬉しかったのですが、あくまで平静を装って…😅
   その子がなぜ電卓を探していたのかというと、スタッフの方と算数ドリルの勉強をしていたところ、自分で計算するのが面倒くさかったらしく、電卓を探しに出て来たのでした。
   何処からか電卓を探して来た彼は、始めは全部電卓で計算しようとしたのですが、さすがにスタッフの方からストップがかかり、1問だけ自分で解く事になりました。ドリルの問題は3ケタ同士のたし算の筆算でしたが、彼はわずか2秒で解いてしまいました。その様子を脇で見ていた私は思わず「速い!すごい!」と感嘆の声をあげました。彼は「繰り上がりのないのはすぐできるよ」と言うと、いつの間にか2問目以降に取りかかっていました。すると、繰り上がりの問題もササっと解いてしまいました。私はまたも「これ、繰り上がりの問題だよね?!すごい!」と声をかけました。結果的に1問どころかかなりの問題を自力で解いてしまいました。この子は知的な遅れは無いようで、繰り上がりのある計算も繰り下がりのある計算もお手の物でした。1問毎に「正解!」と声をかけていたのですが、2つ上の位からくり下がる問題も瞬時に解いてしまった彼に「今の問題、あなたの解くスピードに先生ついていけなかったよ」と、白旗を上げてしまうほどでした。
   実はこの子はASDのほかにADHDも合併しており、これほどの計算力を持ちながらも、その衝動性や多動性のために、自分で解くというアナログな方法よりも、瞬間的に答えが出せる電卓を使いたがるのだと思います。
   スタッフの方からも「よし、今日はこの間よりも多く自分の力で解いたね合格!」と合格をもらった彼は、それだけでは終わらず、「日記も書いちゃう」と次の課題まで始めていました。「全部できないとダメ」という評価ではなく、以前のその子と比べて肯定的に評価するそのスタッフの方の姿勢には好感が持てました。
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   結果的に、彼の礼儀正しい聞き方やレベルの高い計算能力のおかげで、私は彼をたくさん褒めることができました。いつの間にか彼の表情は、私がはじめに声をかけたときのそれとは明らかに違い、普段のリラックスした表情に変わっていました私の犯した大失態は、彼の持つ長所のおかげで許してもらえることになったのでした。「子供に救われる」というのは、こういうことを言うのでしょう。

   いかに「アドバイザー」と言っても、子供の実態を知らない状況ではその知識や経験も無用の長物なのです。「指導の第一歩はまずその子供を知ること」ということを改めて教えられました。

   以上、自分の初歩的なミスを子供に救ってもらった“おっちょこちょいアドバイザー”の訪問日記でした。