「三つ子の魂百まで」という諺があります。一般的には、「幼児の性質は一生変わらないもの(大辞林第三版)」という意味で捉えられていますが、例えば、「『幼児期』という時は正式には6歳までを指すが、この場合の『幼児』とは何歳までのことを指すのか」、「一生変わらない『性質』とはどんなもののことを指すのか」等、かなり曖昧な点があります。しかし、これまで見てきたように、0歳から1歳半までの「愛着形成」という課題、そして、2、3歳頃の「母子分離」という課題の達成が行われる3歳までが子育ての基本となる時期です。つまり、これら2つの課題の存在が、先の「三つ子の魂百まで」と言われる所以であると考えることはできないでしょうか。そのように考えると、「幼児」とは、「母子分離」が達成される3歳までを指し、もう一方の「一生変わらない性質」とは、「愛着形成」で決まる好奇心旺盛な積極タイプ、引っ込み思案な消極タイプ、物事に対して無関心なタイプ、更に「母子分離」で決まる自立タイプ、親依存タイプ等のような基礎的な性格や傾向のことを指すということが明確になります。
  また、3歳までに形成されるこれらの基礎的な性格や傾向は、育った環境が大きく関与しています。アメリカのある一卵性双生児が、生後すぐに養子縁組で別々になり、1人は大家族にもらわれワイワイと楽しく生活を送った結果、大人になった時に、社交的でリーダーシップを持った人間に育ったそうです。しかし、もう一方の子どもは、子どものない夫婦に引き取られて精神的虐待を受けて育った結果、大人になった時、引っ込み思案であまり人と交際のない職についていた等、生育環境が人格形成に与える影響がアメリカの研究で明らかになっています
   また、1歳半から3歳頃の普通の子どもは、母親が包丁で指を切ると同情して泣き出すような、人の痛みに共感ができ、「恥ずかしい」「悪かった」など、人間関係に必要な高度な感情が発達します。これに対して、愛着障害児の反抗は攻撃性を帯び、過度の刺激を求めて危険を犯したり、動物や自分より弱い子どもをいじめて支配欲を満たそうとしたりします。人の痛みが分からず、残酷であることが特徴です。これは、「第一反抗期」にプラスされる異常行為で、愛着障害治療の専門家の指示を仰ぐ必要があります。これを逃すと、「動物を殺しているうちに、人を殺してみたくなった」と、幼児や友達を殺した動機を語る犯罪者になってしまう危険がたかまるかもしれません。(ヘネシー2004)