【今回の記事】
お前のママは、本当の母親じゃないんだよ……

【記事の概要】
8月28日に神奈川県横須賀市の斎場で行われた小泉純一郎元首相の姉、小泉道子さん(享年84)のお別れの会に、小泉家のメンバーが一堂に会した。喪主を務めた小泉純一郎元首相、長男で俳優の小泉孝太郎氏、次男の小泉進次郎衆議院議員、元首相の姉、信子さん、弟の正也さん、道子さんの娘、純子さんの姿もあった。以下に掲載するのが、長年小泉ファミリーの取材を続けてきた編集部デスクも感極まって涙した純一郎氏の弔辞である。
「本日は皆さま、お忙しいにもかかわらず、ありがとうございます。(中略)私が妻と離婚したとき、孝太郎は4歳、進次郎は1歳でした。その時、家族、道子をはじめ家族が協力して、孝太郎、進次郎に寂しい思いをさせてはいけないと思って、できるだけみんなで協力しようと。なかでも、母親代わりとして中心的な役割を果たしてくれたのが、故人でありました孝太郎、進次郎は、2人に加え、弟の子どもなど6人兄弟の中で孝太郎、進次郎は育ってきたと思います。幼児のときは常に、夜は一緒に添い寝してくれて、学校に見送り、帰る。帰ったら、必ず『ママ』がいる。母親代わりに育った孝太郎、進次郎には『ママ』と呼ばせておりました。外に出ても、帰ってくれば、ママはうちにいて優しく、温かく、明るく迎えてくれる。これは、孝太郎、進次郎の精神安定に大きく寄与していたと思っておりますいつか本当のこと(姉の道子さんが本当の母親ではないこと)を孝太郎、進次郎に言わなければいけないと思っておりましたが、なかなか言いそびれておりました。孝太郎が高校2年生、進次郎が中学2年生になって、2人を呼んで本当のことを伝えました。『ママは私の姉なんだ』と言ったら、進次郎は『うそ!』と言いました(号泣)。(中略)『進次郎、ママは母親じゃないんだよ』と言うと、『ボクにとっては本当の母親だよ』とはっきり言いました道子は母親代わりじゃない。実の母親として、孝太郎、進次郎を育ててくれたんだなと。改めて感謝しています。(中略)皆さまのご温情に厚く御礼申して、喪主のあいさつに代えます、皆さま、本当にありがとうございました」

【感想】
   当時、中学2年生だった進次郎少年は「ボクにとっては本当の母親だよ」とはっきり言った。進次郎氏が実の母親と別れたのは、彼がまだ物心ついていない1歳の時であった。純一郎氏の姉である道子さんが母親代わりを始めたのがそれ以後であるが、進次郎少年は、道子さんに対して完全なる愛着を形成していたのである。なぜ、純一郎氏の姉である道子さんは、進次郎少年が本当の母親と信じて疑わなかったほどの母親になれたのか?
   
   まず、愛着の最大の特徴は、遺伝子上の母親よりも、環境上のつまり実際に子どもを育てた人間に対して形成されるものであるということである。言葉を変えて言えば、愛着は後天性のものであるということである。
   しかし、本当の母親がいないからといって、誰でも子どもが本当の母親のように信頼する人間になれるわけではない。そこには、養育の仕方が大きく関わってくる。
   記事からも分かる通り、道子さんは、「幼児のときは常に、夜は一緒に添い寝してくれて、学校に見送り、帰る。(子どもたちが)帰ったら、必ず『ママ』がいる」「外に出ても、帰ってくれば、ママはうちにいて優しく、温かく、明るく迎えてくれる」という本当の母親以上に母親らしい養育をしたのである。精神科医の岡田氏が指摘するように、乳幼児期の養育が人間の一生の人格を決めるのだ。つまり、現在の進次郎氏を見れば、道子さんがいかに素晴らしい乳幼児期の養育を施したかが分かるというものである。
   このような献身的な養育をしたからこそ、進次郎少年が本当の母親と信じて疑わなかったほどの母親になれたのだ。正に、純一郎氏が言う通り、「孝太郎、進次郎の精神安定に大きく寄与していた」のである。いかに「育ての親」が大切か、いかに「育て方」が大切か、ということを教えてくれるエピソードである。

   さすが小泉純一郎氏、心に染みる弔辞である。ぜひ、上記URLから全文をご覧いただきたい。