【今回の記事】
63kg級・川井梨紗子も金メダル!「これが自分が教えてもらったレスリングです」

   それは、絶対王者・吉田沙保理が敗れて、銀メダルとなった直後のことだった。まるで、敗れた吉田の生まれ変わりのように、新世代を担う選手が、素晴らしい結果をもたらした。レスリング女子63kg級で、初出場の川井梨紗子が金メダルを獲得した。

   試合後、インタビュアーから「ずっと攻めてましたね」と言われると、「これが自分が教えてもらったレスリングです」と笑顔で答えた川井。私は川井選手のこの答えを聞いて、これこそが、「自分らしさ」の発揮ではないかと思った。

   私は以前、このブログで「日本柔道チームの選手たちはなぜ素直にメダルを喜ばないのか? 〜問題はその評価方法〜 その2」(http://s.ameblo.jp/stc408tokubetusien/entry-12190487558.html)と言う記事を投稿した。そこでは、人の行動を評価する様々な評価方法について紹介した。その中で、「個人内評価」の「横断的評価」について、「内村航平は常に「技の美しさ」、つまり技の完成度(Eスコア)を大切にしている。技の難度(Dスコア)の高さを求める選手もいる中、それが彼の「自分らしさ」なのである。」と紹介した。つまり、内村選手にとっては、「技の美しさ」が彼の自分らしさであり、川井選手にとっては「攻め続ける姿勢」が彼女の自分らしさなのである。
   このように、「自分らしい演技をしよう」と考えることのできる選手は、そのことだけに集中できるので、他の選手のペースに惑わされたり、会場の雰囲気に飲まれたりすることがなく、結果的には、内村選手や川井選手のように良い演技ができるのだと思う。特に、川井選手は今回がオリンピック初出場だったのである。普通ならば、大舞台の雰囲気に飲まれ緊張してもおかしくなかったはずである。
   今回のオリンピックの様々な競技を見る中で、最も難しいのはメンタルであると感じた。その上で、「金メダルでなければだめ」(絶対評価)「◯◯選手に勝てなければだめ」(相対評価)と考えてしまうと、その絶対目標や相手選手に惑わされ、余計なプレッシャーや緊張感が増してしまう。例えば、ケンブリッジ飛鳥選手は、男子100メートル準決勝のレースの時に、アメリカの強豪ガトリンと隣のコースで走ることになった。しかし結果的には、解説者がケンブリッジは隣のガトリンのスタートに惑わされ体が硬くなってしまった」と述べざるを得ない走りになってしまった。これは、自分のレベル以上の“ガトリンレベル”を求めてしまった結果ではないか。それよりも、「自分らしさとは何か」ということを自分の中で自覚し、その発揮に集中した方が、“自分で納得のできる競技”ができるのではないかと思った。“自分で納得のできる競技”以上のことを求めようとすると、どうしても体に余計な力が入る。しかし、そのケンブリッジ飛鳥選手は、男子400mリレーの時には、アメリカらの猛追をしのぐ素晴らしい走りをすることができた。これは、自分の隣のレーンを走るボルト選手のことを「自分とは別格」だと認識しているために、自分との比較対象とは考えず、「自分の走り」に集中することができたからではないか。

   私たちは普段、ややもすると自分と他人を比べがちである。その意識の中で生活していると、余計な不安感やストレスが余計に増えてしまう。それよりも「自分らしさ、自分の良さとは何か」ということを考えて、その発揮に力を注いだ方が、“自分で納得がいく生活”ができるのではないか。それが、私が今回のオリンピックから学んだことである。








これが私が教えてもらったレスリングです

自分らしさの発揮