(前回からの続き)
   評価方法には次の3種類がある。そして「3.個人内評価」には2つの評価方法がある。
⒈絶対評価(基準と比べる)
⒉相対評価(他人と比べる)
⒊個人内評価(自分と比べる) 
   ①縦断的評価(過去の自分と比べる)
   ②横断的評価(いろいろな自分を比べる)

   まず、「絶対評価」であるが、「〇〇でないとダメ(「金メダルでないとダメ」「100点でないとダメ」)」と言う考え方がこれにあたる。これは、これまで繰り返してきた通り、本人に焦りと力みを生じさせ、結果的に目標としていた結果を収める事は難しい。特に、大人が子供の実態を適切に把握していない場合は、子供の実態よりもかけ離れた高すぎる目標を設定してしまう傾向にあり、子供の意欲を減退させてしまう。このケースは、特に教育熱心な親御さんの場合に多く見られ、現実の中ではかなり多いケースではないだろうか。
   次の「相対評価」は、他人と比べる評価方法である。リオオリンピックの男子100メートル準決勝のレースの時に、日本のケンブリッジ飛鳥はアメリカ強豪ガトリンと隣のコースで走ることになった。そのスタート前にテレビの解説者が、「ケンブリッジ選手は、ガトリンのスタートに惑わされないようにしないといけませんね」と言っていた。しかし結果的にケンブリッジは隣のガトリンのスタートに惑わされ体が硬くなってしまった、とこれも解説者が述べていた。子供に対する場合でも、「〇〇ちゃんを見なさい。あなたも負けないようにがんばりなさい。」と言われて意欲を高める子供がいるだろうか。この事は、誰でも日常の中で一度は経験したことがある感覚だろう。
   3つ目の「個人内評価」の「縦断的評価」は、以前の自分よりも良い結果を出す、いわゆる「自己ベストを出せるように頑張る」という考え方である。これは、例えば体操の内村のように、相手の点数を全く見ないようにして、自分のことだけに集中できるメリットがある。
   次の「横断的評価」は、いわゆる「自分らしい演技をしたい」という考え方である。例えば体操の評価の観点にはDスコア(技の難易度)とEスコア(技の完成度)とがある。内村航平は常に「技の美しさ」、つまり技の完成度を大切にしている。Dスコアの高さを求める選手もいる中、それが彼の「自分らしさ」なのである。内村に代表されるように、この考え方を信念として抱いてる人間はとても強い。なぜならば、自分の得意とする点に全ての力を集中させれば良いからである。子供に対する場合でも、「さすがあなたはよく気がつく子ね」と褒めるのはこの「横断的評価」にあたる。子供にはいろいろな良さがある。勉強がよくできる、ある分野に関する知識が豊富である、友達に優しい、水泳が得意である等々。そのいろいろな自分の中でも特に優れている部分を評価するのである。子供も、自分の中の良さを認めてもらうこの評価はとても意欲が高まる。「さすが!」と褒められて嬉しくない人はいないだろう。

   こうして考えてくると、大会やコンクール、子供でもテストの点数など、ある程度結果にこだわらないければならない場合には、自己ベストを目標とする「個人内評価」の「縦断的評価」が望ましいと思われる。「80点も取れないなんて頑張りが足りません!」よりも、「前は60点だったのに10点上がって70点になったわね!」と褒められたほうが、まちがいなく、子供は次への意欲を高めるであろう。
   私が最も本人の意欲を高めるであろうと考えている評価方法は「個人内評価」の「横断的評価」である。以前私が受け持った知的障害の子供に「さすが〇〇君、優しいね」と声掛けを続けているうちに、その子は「僕のいいところは優しいところなんだ」と言うようになった。その子に自信をつけ、自己肯定感を高めることができた。「その子ならではの良さ」「その子らしさ」をどんどん褒めてもらいたいと思う。