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   皆さんは、「吹奏楽の甲子園」とも言われる全日本吹奏楽コンクールをご存知だろうか。
   毎年、この大会に向けて、地区大会を勝ち抜いてきた団体が、暑い夏休みにも関わらず、毎日練習に励む。しかし最終的には上位大会に進めるのは一部の限られた団体のみである。その結果は、閉会式の中の「成績発表」の中で知らされる。
   初めに審査員を代表してお一人の先生から講評が述べられる。その時の生徒たちの目は、その後の成績発表を心待ちにし期待でキラキラと輝いている。ちなみに、このコンクールでは、すべての学校に銅賞、銀賞、金賞のいずれかの賞が与えられる。その後、上位大会への出場校が金賞団体から選ばれる。
   そしていよいよ成績発表。その発表の瞬間は、それまでザワザワしていたホール内が急に静まり帰り、全ての人が固唾を呑んで成績の発表を待っている。金賞の団体には、銀賞とはっきり区別するために「ゴールド金賞」と発表され、この賞が呼ばれた団体からは喜びの声が沸き上がる。すべての学校の賞が発表された後に、上位大会に進む団体が金賞団体の中から発表される。この時には、先程の「ゴールド金賞」の時とは比べ物ものにならない、「キャー」という奇声にも似た歓喜の声が爆発する。そして、すべての成績が発表された後にホールの中から聞こえてくるのは、上位大会に進めなかった、または目標としていた賞を受賞することができなかった団体の生徒たちのすすり泣く声である。何度経験しても心が痛くなる場面である。その後、その悲しくも重い気持ちを引きずりながら、生徒たちはホールを後にする。それが毎年繰り返される光景であった。
   しかし、ある年のコンクールの時だけは違っていた。成績発表が終了すると、後は主催者代表の人間による「閉式の言葉」があり解散となるのだが、その年の閉式の言葉を話された方がこう言った。「皆さんに聞きます。『私は今まで吹奏楽の練習に全力で取り組んできた』という自信がある人は、手をあげてください」すると、それまですすり泣いていた生徒全員の手が何のためらいもなく挙がったのである。そして、その主催者代表の方はその後こう結んだ。「このコンクールは、単に団体の優劣を決めるものではなく、吹奏楽に熱心に取り組むことのできる心を育てるためのものです。ですから、今手を挙げられた生徒の皆さんは全ての人が『ゴールド金賞』を与えられるべき人たちなのです。」その瞬間、それまでうつむき加減に泣いていた生徒たちの顔が一斉に上がった。ホールの一番後ろから見ていた私からでさえ、生徒たちの「気」が変化したことがわかった。自分たちのそれまでの努力を認められたことが嬉しく、自分に自信を持てた証であったと感じた。私はあの「閉式の言葉」こそが「ゴールド金賞」であったと心からの賞賛を惜しまなかった。

   世の中は、往々にして「結果至上主義」の風潮に流されがちであるが、私たち大人は、大会やコンクールの真の目的を見失うことなく、「結果」ではなく、そこに至るまでの「過程」に対する評価を忘れてはいけない。