韓国学生ら駅で救助死から6年
◆新大久保駅事故
2001年1月26日午後7時15分頃、JR山手線新大久保駅で、線路に転落した男性を助けようとした李秀賢(イスヒョン)さんと関根史郎さんが電車にはねられ、3人が死亡した。
李さんは、「日本の文化と言葉を学びたい」と大学を休学して来日。
間もなく帰国予定だった。
李さんらの行動に共感の声があがり、全国からの見舞金で李秀賢顕彰奨学会」が設立された。
◆モデルの映画試写会に両陛下ら
■東京・新宿のJR新大久保駅で2001年、線路に落ちた男性を助けようとした韓国人留学生李秀賢さん(当時26)と横浜市のカメラマン関根史郎さん(同47)が犠牲になった事故から、1月26日でまる6年。
東京都内では同日、李さんをモデルに作られた映画「あなたを忘れない
」の試写会があり、天皇、皇后両陛下と遺族が出席。
約700人の関係者と共に故人をしのんだ。
港区虎ノ門2丁目のニッショーホールであった試写会後の会見では、李さんの母親の辛潤賛(シンユンチャン)さん(57)が、皇后様から「命を落とされて残念ですが立派な息子さんですね」慰めの言葉を受けたことを明かし、「皆さんに感謝したい。息子は日本と韓国がより近い国になることを祈っていた」と話した。
また、花堂純次監督によると、両陛下は「この映画が日本と韓国の橋渡しのいいスタートになるといいですね」と声をかけたという。
両親はその後、JR新大久保駅を訪れて献花台に花を供え、事故が起きた時刻とほぼ同じ午後7時過ぎ、ホームで手を合わせた。
映画は1月27日から全国で公開される。
◆見舞金元に留学「優しさつなぐ」
■李さんと関根さんの行動は、多くの人の記憶に刻まれ、今なお、影響を与え続けている。
2人の姿に勇気づけられ人生の転機を得た人や、遺族への見舞金から生まれた奨学金で将来を切り開いた後輩も、この日、改めて犠牲者に思いをはせた。
■長崎県の大学を3月に卒業する中国人留学生、朴英愛(ぼくえいあい)さん(27)は今回、追悼の催しに初めて出席した。
朴さんは兵庫県の日本語学校生だった2002年、李さんの死後に設けられた「エルエスエイチアジア奨学会」の奨学金を受け、大学に進学。
「奨学金で教材を買い、大学入学金の準備にあてることができた」と振り返る。
遺族への見舞金から奨学金が生まれ、その後も有志の寄付に支えられながら計281人の学生を支えてきたことを昨年、知った。
朴さんは「奨学金は、李さんと両親から生まれた優しさの連鎖。私もまた、他人に優しさをつなげていきたい」。
◆君の勇気 私たちも
東京都小平市の在日韓国人、安(あん)としあきさん(63)は「亡くなった二人が自分を前に向けてくれた」という。
6年前、仕事の失敗や家庭の不和が重なり、夢だった詩集の刊行も出版社に断られ、行き詰まっていた。
ある日、居合わせたJR高田馬場駅のホームから男性が転落。
2週間前の李さんの事故が頭をよぎった。気付くと線路に飛び降りていた。
男性は無事だった。
「1人の命を救えたことで、自分の未来を信じる気持ちになった」
再び、出版社に電話をかけて面会を求めた。
翌2002年末、詩集が書店に並び、2005年には2冊目を出版。
「私はあの事故で転機を得た。2人の命を大切に思いながら生きていきたい」
(1月27日付朝日新聞「第2社会面」より)