■涙と読書
■出版界は今、「涙本」がブームだ。
泣けると評判の本が書店で平積みになっているなど、人気の高さをうかがわせる。
東京・千代田区、三省堂神田本店でゃ、涙本コーナーを設けた。
書店の担当者は
「お客さまから、泣ける本はどれか?と聞かれることも多いのです」
「その日の前に
」(重松清・著、文芸春秋)もその1冊。
8月の発売以来、20万部が売れた。
友人同士、母と子、夫婦など年齢も立場もさまざまな人物が、がんと拘わり、親しい人と死別する短編を集めた小説だ。
編集担当者は、
「いろいろな登場人物の人間関係のどこかに、読者が自分の体験を投影できるから支持されているのだと思います」
と話す。
「涙本」の人気については、
「読者は文章を読んで、自分の体験を基に想像を巡らし、それぞれの独自世界を作り出して感動を味わうのでしょう。
映像や音楽に比べ、本は涙を流すための裁量が広いのかもしれません」
ある女性読者は、
「子どもを残して死んでいく母親の気持ちを思うと、自分も子どもがいるので、自然に涙が出て止まりませんでした」
と言う。
リリーフランキーの「東京タワー」(扶桑社)も多くの人が涙を流した本の一つ。
6月下旬の発売で、これまで約60万部が出たベストセラー。
母親との触れ合いを、自分の体験を基に描いたノンフィクション。
会社員の女性は、
「母と子が本当に信じあえる凄さに涙しました」と話す。
編集担当者は、
「母親の思い出は、中身に差はあっても大抵の人が持っているもの。
それだけ共感するものが多いのでしょう」
感動の仕組みを研究している広島大学大学院助教授は、
「多くの人は、感動すると涙を流します。
架空の物語であっても、その世界の人物に自分を重ね合わせ、苦労や辛さを乗り越えていく姿に感動するのでしょう」
と分析する。
感動して涙を流した後、対人関係や仕事などで落ち込んだ気持ちが前向きになり、「自分も頑張らねば」などと思うように変化するという。
「本は、持ち歩いて好きな時間に読めます。
時間や場所の制約がなく、手軽な感動グッズとしての魅力があるのでしょう」
(11月16日付)読売新聞「くらし」面「涙の効き目」2より)