保田圭ちゃん出演の舞台『安倍内閣』を観てきました。
“女優保田圭”、通算21本目の舞台です。


会場は下北沢にある本多劇場。
この規模の劇場では、紀伊國屋ホールと並ぶくらい有名であり。
由緒ある劇場だと思います。

紀伊國屋ホールには2度立ったことのあるけいちゃんですが。
本多劇場は今回初。
舞台女優としてキャリアを積むなら、1度は上がって欲しかった劇場なので。
けいちゃんの本多劇場デビュー、嬉しいです。



作品の内容に触れる前に。

まず、お客さんはいつもとまったく違います。
経験上、けいちゃん出演作は、よその作品とそんなに変わりません。
客席の男性客率が一般作品より高いことくらいでしょうか?

自分は一応観劇を趣味にしているので。
いろいろな客席の雰囲気を知っているつもりです。
今月も『安倍内閣』が4本目の観劇なので偏りはないかと。


そんな、保田圭ファンであると同時に、舞台好きな自分の目から見て、今回は異様でした。
言ってしまえば、完全にアイドルの現場です。
舞台よりも、出演者を観に来たんだと。
それがハッキリわかってしまう状態で。
唖然とすることもありました。

ロビーで客層を見ての感想なだけでなく、上演中までもそう感じるのです。

さほど面白くないセリフで大爆笑。
それが明らかな大声で、オーバーリアクションだったりして。
客が作品に関わろうとしていることがわかります。


そしてカーテンコール。
コンサート会場か?と思うくらい声を張り上げて名前を叫ぶ。
体を乗り出し、隣なんてお構いなしに大きく手を振る。

カーテンコール2回目からはスタンディングオベーション。
それ自体は別に悪いことではありません。

ただ、自分は立つ気になりませんでした。
前の人が邪魔でけいちゃんが見えなくて困ったのですが。
それでも立つ気にならなかった。

なんでかな?と自分でも思いましたが。
ムーミンさんのブログからぴったりの言葉を頂きました。
そう、それは、
「予定調和」
と感じたから。

まさしくその通りで。
自分は興ざめしてしまい、立つ気にならなかったのです。



そういうわけで、今回は自分にとっては異空間での観劇でした。
もう残すところは千穐楽だけですし。
固定ファンしか観に行かないと思いますので。
内容に触れつつ感想を書いてみたいと思います。





まず、書いておかねばならないことがあります。
この舞台が初日を迎えた日に書いた記事で、原作本について触れました。

読んでテンションが落ちたこと。
作品への期待が薄くなったこと。
正直な感想を綴りました。


とりあえず、そのガッカリ感は観劇をして払拭されています。
ムーミンさんに教えて頂いた通り、舞台ありきの原作は舞台を超えられていませんね。
観劇前に読むべきでは無かったです(苦笑)
勉強になりました!


初日をご覧になられたゆたかさんの言葉通り、気楽に観ればちゃんと楽しめる作品でした。
笑い所、泣き所もあります。
過度な期待をしなければ、楽しめる作品でした。



原作を読まれた方も多いと思いますが。
作品のあらすじとしては、

元国民的人気女優だった安倍ナツミ(安倍なつみ)は、国会議員である安倍裕次郎(風間トオル)と結婚して引退。裕次郎の連れ子、千夏(久住小春)と3人家族を作るも、千夏とは打ち解けられていない。そんな中、横浜で遊説をしていた裕次郎が不慮の事故によって転落。亡くなってしまう。

悲しみに暮れる間もなく、裕次郎の後継者として選挙に担ぎ出されるナツミ。弔い選挙で当選を果たし、国会議員となる。

そんなナツミの前に、死んだはずの裕次郎が…。幽霊となって帰ってきた裕次郎には、思い残したことが2つあると言う。1つはナツミと千夏の関係。そしてもう1つは…。


時期総理の椅子を狙う党の幹事長、坂東圭吾(新井康弘)。女優として人気のあったナツミを利用したい坂東は、ナツミの元に秘書の本橋美幸(保田圭)を送り込む。

国会議員初日。裕次郎の親友であり、先輩議員の鯉沼俊也(井田國彦)を訪ねたナツミ。元々ナツミのファンであった鯉沼から、裕次郎の受け売りでどうにか政治家としての信頼も獲得。そこへ、総理の辞職、内閣解散の知らせが入る。


党首選挙に真っ先に名乗りを上げた坂東。総理の辞職も、坂東の仕掛けたもの。黒い噂の絶えない坂東を支持していない議員も多いが、党の有力者である為、対抗する者など表れない。
そこで明かされる裕次郎のもう1つのやり残したこと。そう、「総理大臣」になること。ナツミは党首選挙へ出ることを決め、2人は総理を目指して動き出す。


鯉沼を説得して協力を頼み、裕次郎が慕っていた党ナンバー2の実力者、筑紫良成(あいざわ元気)の説得にも成功したナツミ。坂東と互角の支持者を得る。
ナツミが自分の思い通りにはならず、ましてや対抗馬となったことが面白くない坂東は本橋を攻め立てる。


党首選挙に向けて必死に勉強するナツミ。そこに、白木淳子(肥後あかね)が訪ねてくる。裕次郎の別れた妻であり、千夏の産みの親である淳子。「千夏を引き取りたい」と言い出し、“養育費”という名目で金を要求。拒否するナツミに、半年前に撮ったという裕次郎とのキス写真を突きつけ、買い取るように迫る。

ナツミに追い返された淳子。そこにやって来た本橋は偶然にもその写真を目にし、淳子から買い取る。


写真が週刊誌に載り、たたかれるナツミ。裕次郎の裏切りにナツミの総理への夢も揺らいでいた。
そんな頃、裕次郎は幽霊という立場を利用して坂東を探り、裏金の流れをつかむ。本橋が淳子から写真を買い取り、週刊誌に売りつけたことも調べていた。

淳子にはめられて撮られた写真だと言う裕次郎だが、会いに行ったこと自体を秘密にされていたことを怒るナツミ。2人は初めてのケンカをする。


写真のことを本橋に詰め寄るナツミ。開き直った本橋は、すべてを白状。本橋自身も政治家を目指していた。何の考えもなく政治家になり、総理を目指そうとするナツミを罵倒し、立ち去る。

これで覚悟を決めたナツミ。討論会で坂東の裏金を暴露。自身も立候補を取り下げると話す。裕次郎に自分の思いを語るナツミ。家族が何よりも大切で、千夏を幸せにしたいと。
このナツミの思いが、テレビ中継で聞いていた人の心を掴み世論は安倍総理待望論へ。テレビを見ていた千夏の心も開かせる。


そして。
―安倍内閣誕生―



という内容です。
2時間弱のストーリーですが、これですべてと言ってもいいかと思います。
ストーリーに深みが感じられないのは、原作本を読んだ感想と変わらないですね。


ストーリーに魅力を感じていないのは、セリフの安っぽさもあると思います。
ストーリー同様、ありきたりという感じです。


ナツミが総理になる決め手となり、千夏の心を開かせた討論会での語り。
これ、なっちの熱演には引き込まれるのですが、なぜか自分の中に冷静に内容だけ聞いている部分があって。
その言葉にはまったく心を動かされません。

筑紫議員を説得した部分もそうですね。
ありきたりなナツミの苦労話に、似たような苦労をした筑紫が心動かされる。

善と悪しかない世界で。
善と悪しかいない人間。
その単純さが、わかりやすくもあり、物足りないと思わせるのかもしれません。
それでも楽しむことができたのは、出演者が魅力的だったことに尽きます。



作品の要であるなっち。
初めて観ましたが、やはり評判通り上手いなと思いました。
感情が豊か。
たまにセリフが訛るのが気になりますが。
今回は喜怒哀楽をはっきり表す役なので、さまざまな表情を見せてくれました。


一番の見せ場はラストの裕次郎との永遠の別れでしょうね。
思い残したことが2つとも叶い、消えていく裕次郎。
ここの場面は泣かされそうになります。

夫が死んで、ずっと頑張ってきたナツミ。
泣く暇なんてなかったでしょう。
そんな彼女が、ようやく泣けたのではないかと。

子どものように泣きじゃくる姿に、こちらもこみ上げてくるものがあり。
ナツミは、これで夫の死を受け入れられたのだと思いました。



今回、初舞台となった小春。
演技は得意でないと思っていましたが。
なかなか良かったと思います。

元気キャラの封印は新鮮で。
思春期の反抗的な女の子になっていました。



そしてけいちゃん。
イヤな女でした。

普段は冷静沈着。
感情を殺していますが。
セリフの無い部分では逆に感情豊かです。

ナツミが鯉沼と盛り上がっていたりするところで、一人別の思惑ありげな表情だったり。
ほくそ笑んでいたり。

ストーリーの中心を追いながらも。
セリフの無いけいちゃんの表情に目を向けると、みんなとは違う感情でいることが感じられて。
その裏の感じにゾクゾクしました。


今回は政治家秘書らしく“出来る女”。
将来は自身も政治家になりたいと考えている野心家でもあります。

背筋の伸びた立ち姿。
足の揃え方。
お辞儀の仕方。
話し方や仕草まで。
凛々しく、“出来る女”を感じさせました。

今回も声がよく通っていて。
聞きやすいのはもちろんのこと。
全体的に強めに出している声が、役のカッコよさを強調していました。


さらに、色気もあります。
前面に色気を出してくる感じではないのですが。
女性ということを意識的に雰囲気に出している感じです。

なっちが総理を目指し、取り込む計画に狂いができ始め、新井さんに怒られる。
その後、新井さんの腕をそっと掴み、上目遣いになるところがあります。
一番“女”を出していましたね。
“女”という部分も使って、生きていることを感じさせました。


最後はなっちに正体がバレて。
詰め寄られることになるのですが。
バトルにはなりません。
考えの甘いなっちを一方的に罵る感じです。

この開き直った感じが本当にイヤな女で。
声の通りが誰よりもいいので、イヤミに迫力があります。


最後はなっちの耳元で捨てゼリフ。
もう憎ったらしい(笑)

言われ放題ななっちがけなげで。
けいちゃんが立ち去った後、覚悟を決めたように立ち上がる姿がとても印象的でした。




そんな感じで、作品はそれなりに楽しめました。
期待していた、けいちゃんやなっちの演技は、しっかり楽しませてもらいました。
全体を通して、心動かされるセリフなんかはありませんでしたが、ちゃんと見どころもあります。


この作品が成立したのは、役者さんたちの演技力によるところが大きいですが。
中でも、一番の立て役者は井田さんだと思います。
コメディとシリアスのメリハリの効いた演技。
笑いで客をひきつけ、芝居で心を放さない。

テレビなどでよく拝見していた役者さんでしたが。
舞台でも凄さを感じさせてくれました。
井田さんの芝居、観られて良かったです。
井田さんが居なければ作品が成立しなかったかもなぁというのが、観劇直後、真っ先に思ったことでした。




最後に。

今回の舞台、なっちありきの作品です。
これは発表時からみなさんの予想通りですよね。
プロデューサーさん自身が、パンフレットにそのようなことを書いています。
安倍なつみの代表作にしたいとも。


なっちの
なっちによる
なっちのための作品

“女優安倍なつみ”のさまざまな表情をみせる
なっちの熱演を引き出す
という点においては、成功だったとは思います。
あとは、なっちファンがこの内容に満足できているのであれば、なっちの代表作と言えるのではないでしょうか。